December 12, 2007 / 4:33 AM / 11 years ago

COLUMN〔インサイト〕サブプライム問題は対岸の火事か=エコノミスト・岡田氏

 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン )危機は予想よりも深刻な展開となっている。これは原資産としてのサブプライム・ローン債権の上に構築されたデリバティブ(金融派生商品)の規模が予想以上に大きく、全体としては非常に大きなレバレッジを掛けた投機となっていたことが第1の原因だろう。その結果、リスクは世界に薄く広く分散されたが、その「薄さ」は金融機関によっては十分に薄くはなかったのである。

 <転々流通する証券化商品、保有資産の中身評価できない状況に>

  

 第2は、サブプライム派生商品を世界中の投資家に売却して、自らの貸出リスクを軽減していたはずの米国の大手金融機関が、実際にはサブプライムから組成した派生商品と代替性の高い投資商品へ大規模な投資を行っていたことだ。それどころかサブプライム関連商品を直接買い入れてもいたのである。これでは証券化によるリスク回避どころか、自らが膨らませたリスクを自らかぶるという珍妙な事態になってしまう。

 なお悪いことに伝統的な貸出債権であれば、貸し手の銀行または住宅金融会社は、個々の借り手について、世界で最も詳しいはずだが(バブル期の日本の金融機関のように、ずさんな審査しかしていなかった可能性はある。だが、その気があれば詳しくなれたはずだ)、貸出債権が自らの手を離れて他の債権と何段階にも混ぜ合わされたため、保有する資産の中身を評価できなくなってしまった。

 この種のデリバティブは大規模な市場で取引されているわけではなく、その中身に関する情報から妥当な価格を算出して取引されていた。悪く言えば、客観的な価格が存在するか否か不明である。市場の確立した商品と比べ大きな利ザヤを抜けるからこそ、投資銀行は大規模なビジネスに仕立て上げたとも言える。このように足元が盤石ではない商品であっても、住宅・土地市場が安定的に上昇している限りは、確かな裏付けを持った金融商品として歓迎されたのだ。だが、客観情勢が反転してしまえば、楽観は悲観に容易に席を譲ることになった。

 <日本のバブル崩壊時に似る現在の米経済情勢>

 

 そして第3は、アメリカ経済の減速が思いのほか遅いと言うことだ。もし、景気循環の後退局面入りが早期に明確になっていれば、思い切った金利引き下げを早期に実施できただろう。

 また、そのような需要不振の状態にあれば、原油価格などの商品市況も沈静化し、インフレ懸念も払しょくされ、心おきなく金融緩和政策へ転換できたはずだ。

 かつて日本でバブル崩壊が起こったときも、これに似た状況があった。日経平均の暴落は1990年1月に始まったが、景気が明確に反転のサインを出したのは、91年に入ってからだった。さらに生産活動こそ後退のサインを出し始めていたが、雇用情勢に陰りが見え始めたのはさらに遅れた。加えて90年夏にはイラクのクウェート侵攻による中東情勢の緊張と原油価格の急騰によって「インフレ懸念」が台頭した。表面的には株価以外に景気後退の明確なサインが見つからない状態で、インフレ懸念だけは解消せず、結果的に金利引き下げが遅れ続けた。こうして92年春、夏と劇的な株価下落が何度か繰り返され、気づいた時にはすでに長期不況が本格的にスタートしていた。

 

 一般に、投資決意と投資の実行の間に存在するタイムラグが長いほど、景気循環は大規模なものとなる。投資は企業の収益見通しに依存する。明敏な企業家なら口先で強がりを言っていても、自らの置かれた収益環境の悪化を認識すれば、投資を手控えるだろう。ところが、投資決意、着工、完成の間に長い期間が必要な場合には、情勢の悪化以前にスタートしてしまった投資案件を中断して、それまでの投資を損切りする決断は困難を極める。結果、ようやく完成したときには需要は存在せず、大規模な資本ストックは不良債権へ化けてしまうわけだ。日本の場合、いわゆる「バブル景気」の後半期が大規模な建設需要の増加にけん引されていた結果、既に着工してしまった大規模投資が、不況の始まりにもかかわらず続行され、政府の景気認識を遅らせながら、もう一方では後に不良債権となる巨額の融資を続行させてしまったのである。

 <米経済の柔軟な問題対応力>

 

 この視点から米国経済を眺めると、確かに景気はマーケットの悪化に遅れているが、その遅れが果たして致命的なのか否かは、まだ分からない。資産価格、特に金融資産の価格が実体経済の悪化に先行して下落すること自体は、将来収益の現在価値という資産価格の本質に照らし合わせれば、当然のことである。問題なのは、将来の悪化を市場が織り込み始めても、企業家が債務の拡大を意味する大規模投資の続行をあきめないことと(投資決意のラグ)、それによる「底堅い」景気動向を見てマクロ経済政策を拡張方向に転換できない政策当局(政策当局の認知ラグ)にあるのだ。

 

 現時点でバーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長が、2%前後のインフレ率で推移しているとしても必要なら金融緩和に踏み切ると明言したことで、金融政策の自由度は確保されている。

 また、景気の先行きに関しても、少なくとも半年程度のスパンで顕著な後退が生じる可能性を認めている。これは金融政策に関しては認知ラグがそれほど深刻ではないことを示している。

 問題は、投資決意のラグだが、これも現時点では目立つほどのものではない。住宅市場は1970年以来の危機的な状況にあると言われているが、裏返せば昨年後半に一部で住宅バブル崩壊がささやかれ始めて約1年で投資が急減したことを意味している。

 金融市場の急落から数えればわずか数カ月のラグしか存在しないことになる。投資決意・投資実行のラグから見る限り、危機は致命的なものとは考えにくい。こうした素早い投資の調整は米国経済が90年代以降に身につけた柔軟性の重要な一部をなしている。労働市場の柔軟性の高まりと、投資調整の柔軟性の高まりによって、硬直的な経済では考えにくいほどの危機に対する抵抗力が生じている。

 <米景気後退の際に受ける日本経済の打撃>

 

 このような米国経済に関する認識は、過度に楽観的であると思われるかもしれない。だが、投資の急速な調整が適切な政策対応を保証するということは、逆に言えば適切な政策対応を余儀なくされるほど急速な事態の悪化が生じるということでもある。現時点で米国経済は全体として堅調に推移しているが、今後数カ月以内に、大きな落ち込みを示す可能性は十二分にあろう。

 しかも、大統領選挙が迫っている。米国民がS&L(貯蓄貸付組合)危機の際に示した清算主義的な主張を支持すれば、連銀はともかく、政府による思い切った対応ができなくなる可能性は十分存在する。中期的には米国経済の没落といったシナリオを採用する必要はないが、今後半年から1年あるいは2年程度の期間を考えれば、困難な期間が生じる可能性は決して排除できない。

 問題は、米国経済の危機と克服の過程で日本が被るであろう影響である。石油価格上昇も他の財の需要抑制から価格押し下げあるいは利潤マージン圧縮要因として作用している。いわば「インフレなきスタグフレーション」という状況にある日本経済は、この米国からの影響にどう対処すればよいのだろうか。最悪の事態に備える必要はないだろうか。

 岡田靖 エコノミスト

(12日 東京)

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターの第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターは第三者からコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されたいかなる見解又は意見は当該第三者コンテンツ・プロバイダー自身の見解や分析であって、ロイターは、それらを是認せず、またはそれらの正確性についても保証しません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below