March 7, 2008 / 4:33 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕景気後退と資源高、両面の課題に直面するFRB=エコノミスト 岡田氏

 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、非常に苦しい立場に追いやられている。

 一方では、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン )問題の悪化の中で、景気後退に陥る可能性に対する懸念の段階から、(景気後退が)どれほどの規模と深刻さ・期間になるのかが議論される段階に移りつつある。

 他方、資源価格の騰勢が止まらず、原油価格(WTI)は100ドル超えの水準で推移している。全ての財・サービスを対象にしたいわゆるヘッドラインCPI(消費者物価)の前年比上昇率は、2008年1月時点で4.3%に達している。食料とエネルギーを除くコア・インフレ率は同じく前年比で2.5%にとどまっているのだが、このまま資源価格が高止まりすれば、コア・インフレ率も早晩、一層の上昇に向かうことは間違いなかろう。

 このように金融市場の混乱から始まる景気後退圧力と、資源価格上昇によるインフレ圧力の高まりの両方に対応しなければならない。ところが、FRBに利用可能な政策手段は、基本的にフェデラル・ファンド市場のオーバーナイト金利の操作だけなのである。つまり、1つの政策手段で、2つの政策目標に対応しなければならないのである。

 <どちら付かずで時間を稼ぐ方法も>

 だが、特殊な状況を別にすると、政策目標の数(この場合には2つ)よりも、政策手段の数(この場合は1つ)は多くなければならない。つまり、FFレート操作だけしかできないFRBは、原理的に現在の問題を解決することはできないということだ。こうしたジレンマ状況に追い込まれた時に、政策当局者はどうすればよいのだろうか。 

 1つの対応は、問題の所在をあいまいにして、どちらつかずの態度を続け、どちらか(あるいは両方)の問題が自然に解決するのを待つという戦術である。現在の状況は深刻だが、過去5年間に膨大な利益を積み上げてきた米国の大手金融機関が、サブプライム問題をなんとか切り抜ける可能性はゼロではない。

 また、資源価格の上昇は「バブル」であって、放置しておけば早晩「バブル崩壊」に直面してしまう可能性もゼロではない。もしバーナンキ議長とFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーの多数がそのように判断しているとすれば、適切な政策は少しだけFF金利を引き下げ、「金融市場の混乱と景気の先行きに配慮しているが、同時にインフレの高進は許さないという従来の姿勢に変化はない」などというコメントを出すことだろう。

 <利下げが遅れ、バブル崩壊に至った日銀の教訓>

 こうした政策態度が実際にとられたケースとして、バブル崩壊が不況に転じた後の日銀の政策が思い起こされる。日本の株価は1990年1月に暴落を開始した。当時は、89年4月の消費税導入によって、その効果を除かない見かけ上のインフレ率は3%を超え始めていたし、90年8月のイラクによるクウェート侵攻は石油価格の上昇を引き起こしていた。このため日銀はコールレート(アメリカのFFレートに相当)を引き上げ続け、91年3月には8.3%としていた。

 景気循環日付で見ると、ここがまさに平成景気のピークとなっており、金融政策は徐々に転換を始めることになる。だが、株価暴落の起こった90年1月の6.6%を下回ったのは91年11月(6.4%)に至ってである。90年1月の水準から目立つほどの幅で引き下げ(ここでは1.5%の引き下げとしよう)が実行されたのは、実に92年4月の4.75%への引き下げだった。

 当時の消費者物価(ヘッドライン)の前年比上昇率は2%程度を維持していたので、日銀としては十分な金融緩和を実行したと考えていたのであろうが、消費者物価上昇率はその後も「順調」に低下を続け、ヘッドラインであれば94年になると単月でマイナスを記録するまでに至ったのである。こうした楽観的なアプローチが、結果的にどのような事態を招いたかは、もはや言うまでもないことだろう。

 こうした日本の経験を踏まえて、バブル崩壊型の状況にどのように対応すべきなのかという問題意識は、FRBのスタッフと米国のマクロ経済学者の間に共有されていた。それが2001年末からの急速な政策転換を可能とし、ITバブル崩壊と9.11事件のショックから米経済を救い出したのである。

 <景気後退リスク重視にカジを切ったバーナンキ議長>

 だが、こうした評価に真っ向から反対する意見があることも事実だ。つまり2002年の思い切った金融緩和が、今日のサブプライム・バブルを形成したのであって、FRB型の政策運営、つまり「基本的にインフレ率を見ながらFF金利を操作し、たとえ資産価格の上昇が異常だという意見が出ても、意図的なバブルつぶしは行わない」が間違っているというものだ。

 ここで思い出さなければならないのは、米国の失業率の推移である。80年代において米経済がインフレに突入しないという条件の下で、達成可能な失業率の下限は6%であるとされていた。だが、90年代に入ると、好景気の下でインフレ率は低いまま、失業率はこの水準を割り込んでしまったのである。著名なマネタリストの経済学者によって組織された「陰のFOMC」などによる利上げ勧告を無視し、グリーンスパン前議長は中立的な金融政策を維持し続けた結果、なんと失業率は4%という1950年代以来の水準まで低下したのである。

 もし「6%以下の失業率はインフレとその反動としての景気後退を招くので、たとえインフレ率が安定していても利上げに踏み切るべきだ」というこうした意見を採用していたら、90年代の米経済の繁栄は、大きく抑制されたものとなっていただろう。完全雇用に対応する失業率の水準や、資産価格の妥当な水準は、理論的には存在を示すことはできても、実際の政策運営の指針としては、必ずしも意味のあるものとは言えないという教訓を学んでいるのである。

 こうした教訓をだれよりも熟知しているのがバーナンキ議長だ。確かに高めのインフレ率と景気後退のリスクという状況は厳しいが、米国の金融政策は、明らかに景気後退リスクを重視するスタンスに踏み切っている。最終的な結果は予断を許さないが、根拠の薄弱な楽観論に基づく問題先送りという日本の失敗の教訓は、こと金融政策に関する限り、反映されていると言って良いだろう。

 岡田靖 エコノミスト

 (7日 東京)

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