April 11, 2008 / 4:31 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕円高が交易条件悪化を引き起こしている可能性=エコノミスト 岡田氏

 実感はともかく、日本の景気循環は2002年1月を底にして、現在まで6年間も拡大を続けてきた。だが、前半期にあたる2004年いっぱいまでは、景気拡大の足取りはおぼつかないものであったことは、多くの人が認めるところだろう。2003年春には「りそな危機」が生じて間一髪の段階で金融危機の再来を切り抜けたのは良かったが、切り抜けたら切り抜けたで株価上昇とセットになった円の急騰が生じたのである。

 ドル/円JPY=は、2003年7月には120円であったものが、2004年11月には103円台までドル安/円高が進んでしまった。いわゆるバブル崩壊以降の景気拡大期の初期には、必ずといってよいほど円レートの急騰が生じ、公共投資や金融機関への資本注入といった財政措置による景気支援の効果が大幅に削減されるという繰り返しであったわけだが、またもや同じことが起こるかと危ぐされることになったのである。

 だが、幸いにも折からの量的緩和強化(日銀当座預金残高の積み増し)が、外国為替市場への史上最大の介入と重なったことで、辛くも100円割れという事態を回避でき、2005年夏には110円台に乗せることができたのである。これは、日本のデフレ克服が世界経済の改善には欠かせないと判断したジョン・テイラー米財務次官(当時)の支持を受け、溝口善兵衛財務官(当時)の決断によって実行されたことは、テイラー・スタンフォード大学教授の著書「テロマネーを封鎖せよ(原題:マネーウォーリアーズ)」に詳しい。

 <量的緩和と大規模介入への批判は論理的か>

 こうした国際的な規模で展開された日本の危機脱出劇ではあるが、必ずしも多くの日本人がそれを歓迎したわけではない。第1に、量的緩和の強化の前提であるゼロ金利政策は、それが預金金利を事実上ゼロとしたことから、家計が本来受け取るべきである金利収入を奪い取ったものであり、消費低迷の原因であるという批判が根強いのである。

 第2に、大規模な為替介入を実行したことは、日本が米国に資金を贈与したも同然であるという批判がある。さらにそうして米国に流出した資金こそが、米国の投機ブームの火付け役であり、ひいては現在のサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題の原因ともなっているというのだ。そしてこの巨額な介入で形成された110円というドルの水準はマーケットに「これ以上のドル安は絶対に起こらない」という確信を形成してしまい、その後の日本人(なぜか渡辺夫人と呼ばれる)による円売り/ドル買い投機を引き起こし、さらに国際金融資本による円キャリートレードの拡大を招いたと言われているのである。

 批判は、まだ終わらない。こうした日本からの過剰流動性の海外への流出は、米国だけではなく世界中で投機ブームをあおり、原油や穀物の価格上昇を引き起こしたというのである。こうした国際商品市況の急騰と円安によって日本の輸入物価が押し上げられ、それによって日本の産業と家計は大きな打撃を受けているというのだ。

 このように日本のデフレ阻止のために行われた金融政策と為替政策は、日本経済を活性化するどころか、世界規模でのバブル形成とその崩壊を引き起こし、結局は日本経済にさらなる打撃を与えているということになるのである。

 サブプライム危機を鎮圧しようとして実行されている米国の金融緩和と低金利政策も、実体経済の改善には無力だが、過剰流動性をさらに拡大することで一層の国際商品市況の騰貴を引き起こしており、日本経済への打撃に追い打ちを掛けているというのである。

 こうしたグローバルな規模で展開する世界経済の破局的なシナリオから導かれる結論は何だろうか。第1は、日本にしろ米国にしろ、金融危機に対して大規模な金融緩和を行うことは百害あって一利なしということだ。金融緩和は目先の危機を切り抜けるには有効なように思えるかもしれないが、結局は問題の先送りに過ぎず、危機を一層激烈なものとして拡大再生産するだけだということになる。

 つまり、行うべきことは、投機ブームを引き起こす過度の低金利自体を是正すること、つまり金利正常化だということになるのだろう。日米ともに金利正常化によって世界にあふれかえっている過剰流動性を吸収すれば、国際商品市況に流入している資金も減少し、原油や原材料の価格は低下し、景気の堅実な拡大が可能になるというわけだ。

 <06年からの円高で低下した日本の交易条件>

 金融危機には金利引き上げで対処せよという主張は、実は昔から繰り返されてきたものであり、目新しい主張ではない。1920年代の終わりごろ、米国の実体経済は緩やかな景気後退局面に入り始めていたのだが、当時の連邦準備理事会(FRB)のメンバーたちは「この景気停滞は、産業が必要とする資金が株式などの投機に吸収されているために生じているのだから、金利を引き上げて株式ブームを終わらせることによって資金の配分を正常化することで克服できる」と信じ、折から欧州での危機で環流してきた金準備が積み上がるのを放置し、それに対応する貨幣の増発を行わなかったのである。当時の金融政策の制度的な前提は「金本位制」であり、金の流出国は金融引き締めを行うが、金の流入国は金融緩和を行うことで、世界全体の流動性供給をバランスさせるものだった。だが、当時のFRBは、先に述べた理由で金融緩和を拒否したのである。その結果、世界大恐慌へと続くことになったわけだが、こうしたアナロジーはこれ以上述べるまでもないだろう。

 われわれに関心があるのは「円安で輸入物価上昇が起こり、日本経済は打撃を受けている」という主張の妥当性である。昨年の夏以来、円の対ドルレートは120円前後から100円まで20%近く上昇した。貿易額でウエートした実効レートでも、10%以上の上昇が起こっている。円安がコスト高を通じて日本経済に打撃を与えているという主張が正しいなら、この円高で輸入物価の下落が生じているはずだ。

 だが、実際に製造業の産出投入価格比を調べてみると、その低下傾向は為替レートの変化と全く関係なく一貫して低下していることが分かる。また、輸出物価の輸入物価に対する比率である交易条件(これはサービス業や家計も含めた日本全体の「産出投入価格比」である)は、06年から07年初めまで比較的安定していたが、円高進行に逆行して急激な低下を引き起こしていることが分かるのである。

 つまり円高が相対的な輸入物価の低下を通じて日本経済のメリットとなるという主張は、少なくとも現象的には全く実現していないということである。むし円高は交易条件の悪化を引き起こしているという方が妥当と言えるのだ。

 岡田靖 エコノミスト

 (7日 東京)

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