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COLUMN-〔インサイト〕クレジット・バブル崩壊の現実と世界経済への影響度=信州大 真壁氏

 米国で顕在化したサブプライム(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題を単なる「住宅ローンの焦げ付き増加の現象」と捉えることは適切ではない。その背景には、米国金融市場を中心に発生した「クレジット・バブルが崩壊するプロセス」が潜んでいるからだ。今回のバブルは、米国をはじめ欧州や一部アジア諸国にまで及ぶ世界的な規模に拡大してきた経緯があり、その崩壊のマグニチュードを過少評価することはできない。後始末にも、時間が掛かることは覚悟しなければならない。

 <金融機関による証券化商品の転売、バブル拡大の機能担う>

 クレジット・バブルの基本メカニズムは、元々、米国の金融機関が住宅価格の上昇を前提にして、返済能力の乏しい家計にまで積極的に信用(クレジット)の供与を行い、それによって多額の収益を狙う仕組みだ。金融機関は、貸し込んだ住宅ローン債権を、証券化のスキームを通して投資家に販売し、バランスシートから消し去ることができた。しかも、証券化商品の販売代金を原資にして、さらに住宅ローンを貸し出すことが可能になる。この手法によって、バランスシートを膨らませることなく、繰り返し多額のクレジット供与ができるのだ。

 さらにローン債権を証券化商品であるRMBS(住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証券)の一部を、傘下のSIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)で保有させた。それによってグループ全体で収益の極大化を図ることができる。都合の良いことに、サブプライム問題の顕在化以前、SIVは親金融機関にとって非連結対象で、自己資本や収益のブレを反映させずに済んだ。

 <モノラインの信用供与が拍車>

 もう1つの重要な役割を果たしたのは、モノライン(金融保証会社)と呼ばれる信用供与者だ。彼らは、証券化の手法で作られた債券に対して、保証を提供する格好で信用供与を行った。それは、格付けが大きな意味を持つ投資家の間では、重要なインプリケーションだった。結果的にクレジット・バブルが外に向かって拡張する運動を加速する機能を担った。こうして米国の大手金融機関を中心にした多くの参加者が、米国の住宅価格の上昇を前提にして多額の信用を紡ぎ出し、それによって多額の収益を手にする、“クレジット・バブル”のプロフィットテーカーになったのである。

 今回のバブルは、冷静に考えれば、住宅価格の上昇という偶発的な現象に支えられていた。それが永久に続くものでないことは論を待たない。いったん住宅価格が下がり始めると、返済能力の低い主体は、一斉にデフォルトに走る可能性が高く、今まで好回転していた歯車が逆回転し始める。そうなると地域や物件、債務者等の分散によって、信用力が担保されているというロジックは通用しなくなる。なぜならどこに住んでいようが、どの物件を購入していようが、住宅価格が下落する状況下では返済能力の乏しさという1つの属性(ファクター)によって、多くのローン債務者が同じ状況に追い込まれる可能性が高いからだ。

 <住宅価格の下落で歯車が逆回転>

 実際、それが起きたのである。住宅価格はピークを打って下落し始めた。住宅価格が下がり始めると、フォークロジャーレートが上昇するのはむしろ当然だ。そうなるとRMBSやCDOの価格は下落し始める。そうした状況が深刻化すると、誰も、当該債券に手を出さない。市場は機能を停止し、まともな価格は付かない。保有する投資家は、いくら損失が出るか分からない状況に追い込まれる。

 クレジット・バブルが、いずれかの段階で、大きな問題に直面することを指摘する経済専門家は多かった。こうした問題の種をまいたといわれる、前FRB(米連邦準備理事会)議長のグリーンスパン氏もその1人だった。ただ、重要なポイントは、いつ、それが顕在化するか、誰にもわからなかったことだ。いつ起きるかわからないことに、対応策を実施することは口で言うほど簡単ではない。

 <最初の認識を誤った可能性があるFRB>

 そして、もう1つ大切なことは、そうした事態を経験する機会が少ないことだ。そのため事態が水面上に顔を出し始めても、問題の重要性を適切に理解することは難しい。多くの場合は「瑣末(さまつ)な問題」と認識されることが多い。今回も、米国の金融当局の当初の認識は、必ずしも適正なものではなかったようだ。それが結果的に1月22日、電話会議での0.75%の緊急利下げにつながった。

 今回の問題は、世界経済のけん引役である米国で起きたことが重要なファクターだ。1990年代、わが国で起きた資産バブルの破裂は、世界経済に大きな影響を与えるには至らなかった。ところが、今回は世界の中心である米国で発生し、しかもバブルは欧州や一部アジア諸国にまで及んでいる。バブル崩壊後の後始末には時間を要するはずだ。政策当局や投資家は、そうした事態が足元で起きていることをしっかり認識する必要がある。

 真壁昭夫 信州大学・経済学部教授

(20日 東京)

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