March 19, 2008 / 7:33 AM / 11 years ago

〔焦点〕日銀内に総裁空席リスクへの懸念、米欧市場の信用収縮高まり迫られる迅速な対応

 中川 泉記者

 [東京 19日 ロイター] 政治の機能不全を背景に福井俊彦総裁の後任が決まらず、戦後初の「総裁空席」が確実な情勢となった。日銀法に基づいて19日中にも総裁代行が置かれる予定だが、米欧金融市場を中心に資金繰りに懸念が生じるほどの信用収縮現象が起きている中で、総裁空席リスクの危うさを懸念する声が日銀内で出ている。今後、欧米市場で混乱が生じ、邦銀や国内企業の決済に支障が出るような事態に直面した場合、政府・日銀は米欧当局と密接に連携し、迅速に対応することになるが、その陣頭指揮は総裁代行が取ることになる。

 <風雲急を告げる米金融市場>

 日銀内では、総裁が空席になっても、それぞれの組織がしっかりと機能しているとの自負があり、総裁代行が指揮を執れば当面、大きな問題は起きないとの見方が多い。

 だが、国際金融市場が平時であれば、何事もなく過ぎる可能性があっても、信用収縮の高まりに収束が見えない状況では、これまで経験したことのない事態に直面し、トップの瞬間的な判断で政策を決めることが起きないとも限らない。そうしたケースに総裁代行という戦後初の役職が、うまく機能するかどうか──。だれも経験していないだけに、日銀内ではある種の緊張感も高まっている。

 日銀が注視しいているのが、米金融市場の動向だ。連邦準備理事会(FRB)が11日、住宅ローン担保証券(MBS)を担保とする財務省証券の貸し出しを骨子とした流動性対策を発表し、ニューヨーク連銀がベアー・スターンズBSC.Nへの資金供給を決定するなど、クレジットリスクの引き受けに乗り出した。

 この対応について日銀では、FRBが「相当踏み込んだ対応」(複数の幹部)を迫られるほど、米金融市場の流動性が切迫した状況になっていると認識している。

 実際にドルの短期市場はひっ迫しており、邦銀のドル調達環境はタイト化しているという。海外で企業活動を行っている日本企業では、日系企業の主な取引先であるトリプルB以上の格付けの米企業が資金繰りに支障をきたせば、これから期末を迎えることもあり、その影響を受けるリスクが高まっている。

 日系企業が海外で発行しているコマーシャルペーパー(CP)の発行金利も、上昇傾向にある。現在のところ、邦銀と事業法人ともに必要な資金を調達できないという状況には至っていないが、今後の市場の状況次第では、米短期金融市場のタイト化を反映し、たとえ健全な法人でも資金繰りに支障が出かねないと日銀は見ている。

 特に期末を控えた中での市場タイト化の現象で「通常の期末よりさらに緊張感が高まっている」(複数の幹部)状況だ。

 海外金融市場の混乱がさらに深まれば、日銀としても、ドルの資金繰りを支援する措置に乗り出す必要も出てくる。選択肢の1つとして、米欧5中銀が結んでいる資金供給の枠組みに日銀が加わることもありえるという。こうした事態に対応するために「海外当局との緊密な連携や各部署への指示は、やはり総裁の責任とリーダーシップが重要な役割を果たす」(ある幹部)ことになる。

 <景気拡大局面が曲がり角、求められる総裁の判断>

 実体経済面でも、日銀はここへきて日本経済の2%成長を通じた景気拡大局面に変化が生じている、との判断に傾きかけている。民間エコノミストの間でも2007、08年度とも2%成長には届かず、1%後半の潜在成長率程度の成長にとどまるとの見通しが大勢となりつつあり、日銀でも、そうした見通しに立てば「景気拡大局面」との判断を修正せざるを得ないという声も出始めている。

 これまで緩やかながらも景気拡大が持続することを前提に、金利を徐々に引きあげるとの方向性をメーンシナリオとしてきた日銀だが、実体経済の現状を見た場合、日銀内にはメーンシナリオを変えることで利下げ方向にかじを切る余地を持たせた方がいいのではないか、との指摘も出ている。

 ゴールドマン・サックス証券は、景気・金融環境の両面からみて、3月中に米国との協調利下げ、ないしは4月の利下げの可能性があるとのリポートを発表したが、金融政策の重大な判断を迫られる事態が懸念される中での総裁空席は、対応が後手に回る可能性もある。

 

 総裁が空席となると、日銀法により副総裁がその職を代行することになる。しかし、その場合でも、期限付きの総裁職の責任と、5年間全うする総裁の責任の重さには大きな差があるとの指摘も出ている。「100%自分の責任において判断、行動する人間がいないことは、やはり大きな問題だ」との不安の声が、日銀内では多い。通常の組織運営や政策運営に関しては支障が出ることは、まずないとしながらも、緊急事態となれば、理事や審議委員の共同運営体制では決断に問題が生じかねないとの声も浮上している。

 <総裁人事を見守る日銀、歯がゆさと焦燥感も>

 日銀内では総裁となる人物の条件として「日銀の組織はそれぞれにしっかりと仕事をしているので、その総合力を最大限発揮させる人物」を挙げる声が多い。たとえ金融政策に精通していなくとも、マネジメント能力に優れ、組織と人をうまく使いこなせることが重要であり、その意味で武藤敏郎副総裁の評判は、日銀内で極めて高かった。そうした資質を備えているという意味では、手腕のある民間企業の経営者も歓迎したいという声も、日銀内では出ている。

 もっとも与野党間の対立構図が明確化した日銀総裁人事について、もはや日銀が口出しする余地はなさそうだ。この問題にコミットすると、日銀の中立性や独立性にかかわるという見方が、日銀内では多数派だ。

 ただ、日銀は真の当事者でもあり、戦後初となる総裁の空席は「最悪の事態」と受け止める声もある。責任感をもってこの難局に対処する気構えのある人物を一刻も早く決めてほしいというのが本音だが、傍観する以外にない歯がゆさと焦燥感が漂っている。

(ロイター日本語ニュース 編集 田巻 一彦)

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