May 23, 2008 / 4:30 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕FED型危機対応への批判と本当の評価=エコノミスト 岡田氏

 <グリーンスパンの政策がサブプライム問題生んだとの批判>

 ITバブルの崩壊による急速な景気後退が日本型のデフレ発生につながることを懸念したグリーンスパンFRB(米連邦準備理事会)議長(当時)は、2002年に大幅な金融緩和を開始した。マネタリーベースの前年比増加率で見ると9%程度の伸びが記録されていることからも、このことがわかる。1990年代初期、東京の株価急落の後、日銀はマネタリーベースの(伸び率ではなく絶対水準の)減少を引き起こしてしまったことと比較すれば、いかにアグレッシブな金融緩和が行われたかがわかるだろう。

 ところが昨年夏のサブプライム(信用度の低い借り手向け住宅融資)危機の表面化以降は、この金融緩和こそがサブプライムバブルの発生を招いたという批判が台頭してきた。

 その主張は以下の通りだ。ITバブルの崩壊のツケをサブプライム・バブルの生成で埋め合わせたのがグリーンスパンのやったことであり、結局は支払うべきツケを先延ばしして、その損害をいっそう拡大しただけであるというものだ。そこから得られる教訓は、金融政策はバブルの生成それ自体を阻止するようにしなければならないということになる。

 これは、いわゆるBIS(国際決済銀行)ビューに他ならない。昨年7月にこのコラムで述べた「混乱を引き起こすバブル崩壊の原因となる資産価格の過度の上昇を押さえ込め」というBISビューと「危機が起これば必要な流動性を十二分に供給し、危機を押さえ込め」というFEDビューの対立で、BISビューが勝利したというわけだ。

 <良好なマクロ経済、持続するとバブル発生の原因との見方>

 ところが、2003年以降のマネタリーベースの増加率を追跡してみると、少々異なった風景が見えてくる。2003年以降のマネタリーベース増加率は、2003年に6%程度、2004年に5%程度、2005年から2006年に4%程度、そして2007年には2%程度となっているのだ。つまり危機がピークに達した2002年以降、徐々にマネタリーベースの供給は絞られてきていたのである。

 この間、景気実態が極めて堅調であり、物価水準も上昇していたことを考えれば、この増加率の低下から受ける印象以上に、FRBは市場への資金供給のバルブを閉め気味にしていたことになるわけだ。それにもかかわらず、サブプライムバブルは発生してしまったのである。

 これは、過度の金融緩和がバブルの生成の原因であるという通説に対する疑念を生み出すことになるだろう。むしろFEDビューのいうように、バブルは「低位で安定したインフレ、その下での低金利、そして堅調な経済成長と企業収益と個人所得の拡大」という良好なマクロ経済の状況が持続した結果として発生すると考えた方がよいのではないか、という疑念を生むことになるわけだ。

 <バブルは予見できたのか>

 米国がITバブルから脱出しようと果敢な金融緩和政策に打って出た当時、日本や米国の有力なエコノミストの何人かは「デフレは経済のグローバル化の結果として不可避であり、米国の金融緩和は効果をもたない」と予言していたことを忘れてはならない。そうした有力な意見がありながらも、2003年以降は金融緩和から緩やかな引き締めに転じていたのであって、今日の状況から振り返ってグリーンスパンやバーナンキの引き締め政策の弱腰を批判するのを見ると、違和感を持たざるを得ないのである。

 そもそも、だれの目にも「バブル」、つまり「まったく根拠を欠き早晩低下することになる資産価格の上昇」であるとわかっているなら、空売りをかけることで膨大な利益を得ることができる。確かに東京のバブルの際には、一部の外資系投資銀行が日経平均先物の空売りで巨額の利益をあげた。

 だが、その投資銀行も、その後の米金利上昇を予見できず、破たんしてしまったのである。今回も、ごく一部のヘッジファンドが同じように巨大な利益を上げたと報道されているが、大部分の投資銀行やヘッジファンドは膨大な損失を被り、経営危機に直面しているのだ。

 要するに金融市場の状況を「バブル」と認識し、その崩壊を予見できたという主張は、客観的に見れば「まぐれ当たり」に過ぎないのである。そのような怪しい主張を元にして金融政策を運営してよいとは、少なくとも筆者には信じられないのである。

 <大胆なバランスシート劣化の政策取るFRBの狙い>

 ところで、昨年の秋以来、FRBは劇的な金融緩和に踏み切ったと言われているが、マネタリーベースの前年比増加率を見てみると、わずか1.5%程度であることに気付く。これは1970年代以降では最低の伸び率である。つまり量で見る限り、FRBは全く金融緩和を行ってはいないことになるのである。

 だが、ピークに1万4000ドルであったダウ平均株価.DJIは低下したといっても、1万3000ドル前後でとどまっており、その原因は「インフレ懸念を無視した過度の金融緩和」であると言われている。

 この矛盾は何に由来するのであろうか。それは、FRBのバランスシートの規模ではなく、内容にある。全体の資産規模(マネタリーベースの大きさはこれを反映する)は拡張せず、中身を安全資産である国債からリスク資産であるベアスターンズへのう回融資や仕組み債の担保受け入れなどに変えているということだ。これによって、インフレを激化させざるを得ないベースマネー拡大を避けながら、金融危機の拡大と景気後退の激化を避けようとしているのである。

 かつてデフレ阻止のために日銀にマネタリーベースの拡大を提案した人々は、それには効果はなく銀行保有株の買い入れやABCP(資産担保CP)の買い入れなどがより有効であるという反論に直面した。

 だが、実際に日銀が行ったそうしたオペレーションの規模は非常に小さく、マクロ経済に影響を与えるようなものではなかった。一方、FEDビューの下、FRBは自らのバランスシートを調整することで、金融システムの危機を回避しようと努力しており、実際に効果を上げ始めているのである。金融危機と恐慌こそ、マクロ経済学のアイデアの宝庫であるというバーナンキ議長の格言は今も有効なのだ。

 岡田靖 エコノミスト

 (23日 東京)

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