August 8, 2008 / 4:31 AM / 10 years ago

COLUMN-〔インサイト〕第2幕を迎えつつある米金融危機=エコノミスト 岡田氏

 <劇的な利下げ局面の終了>

 日本の「バブル崩壊」は1990年初めの株価暴落から始まった。ところが、この時点で6.58%であった無担翌日物コール金利は、それから1年3カ月後の91年3月に8.28%まで引き上げられ続けた。そして、暴落前の最低水準であった3.3%(87年7月)の水準を下回ったのは、さらにそれから1年後の93年2月の3.28%であった。つまりバブル崩壊時点から25カ月で約3%のコールレートの引き下げが行われたことになる。

 これを最近のFRB(米連邦準備理事会)の政策と比較してみよう。日本のコールレートに相当するフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標は、2007年7月のサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)危機の事実上の勃発(ぼっぱつ)時に5.25%であった。

 だが、10カ月後の08年5月には2%まで引き下げられている。つまりFRBは日銀の2.5倍のスピードで政策対応を行っていることになる。もちろん既往最低水準はITバブル崩壊とデフレ危機に直面していた03年から04年にかけての1%であるから、そこまで引き下げられてはいないので利下げ余地は残っているとは言えなくもない。

 そもそも、利下げのスピードが十分か否かは、バブル崩壊の規模と比較で判断されなければならないので、日本のバブル崩壊よりもサブプライムバブルの崩壊の悪影響が大きいなら、この10カ月間の利下げは不十分であり、遅すぎたということになるかもしれない。

 だが、皮相的な観察に過ぎないという批判を甘受するなら、FRBの対応は果断かつ迅速であったと評価できるであろう。他方で資源価格、ことにエネルギー価格の上昇によってインフレ率は5%程度まで上昇しており、これ以上の利下げは事実上難しくなっている。劇的な利下げ局面は終了したと言ってよいであろう。

 <利上げへの転換>

 米国は、日本以外の主要な先進国の中で、公表されたインフレ目標を有しない唯一の国であると言ってよい。とは言え、現在のインフレ率の上昇は決して愉快な状態ではなく、可能であれば引き下げたいとFRBのボードメンバーが考えているのは確かだ。

 インフレ率の上昇よりも重要なことは、現在の世界経済が、深刻なサプライショック(資源価格の急騰)にさらされているという点だ。日本では全面的に、米国でも相当程度に、エネルギーを中心にした天然資源を輸入に頼っている。

 ところが、少なくとも短期的には、エネルギー需要は生産に応じて必要量が決まり、価格が上昇してもあまり需要は減少しない。このためエネルギー価格が上昇すると、物的な生産は変化しなくとも、エネルギー輸入国の所得は輸入額の増加分だけ減少せざるを得ない。これはエネルギー価格の上昇による実質所得の低下という経路で実現するので、表面的にはインフレの高進ということになっているのである。

 ただ、インフレとは言え、その正体は相対価格の変化だから、国内生産物の価格上昇はエネルギー価格の上昇と比較すれば小さなものにとどまる。もし、同じだけ上昇したなら、所得流出は起こらないわけだ。つまり、表面的なインフレの高進の背後では、国内生産物の価格に関しては低インフレあるいはデフレが進行しているから、所得流出が起こることになるわけだ。事実、国内生産物だけの価格であるGDPデフレータを見れば、米国でも1%程度の上昇しか起こっていないし、日本ではマイナス1%超の低下が生じているのである。

 スタグフレーションとは不況(スタグネーション)とインフレーションの合成語であるが、現在起こっているスタグフレーションの正体は、表面的なインフレーションと相対的な低インフレあるいは日本では国内生産物のデフレーションの組み合わせなのである。

 これに対し、利上げで対処しようとしても、結果的には国内生産物価格の低下を招くだけで、なんら望ましい効果を期待することはできないだろう。

 <金融危機とスタグフレーションへの対処>

 極度に単純化して言えば、金融危機とは名目値の固定されている債務に対して、名目資産価値が低下し、差額である純資産価値が減少することで引き起こされる現象である。もちろんインフレによって名目資産価値を維持したとしても、実質価値が低下し、総額としてはインフレのない場合と同じだけの損失が発生する。

 だが、その場合には、損失は社会全体で負担され、特定の個人や企業に集中しない。このため破たんないし破産という事態は避けやすい。企業や個人の破たん・破産は大きな不可逆的効果をもたらす可能性が高いので、実際には損失を社会全体が負担した方が、特定の個人や企業に負担させるよりも、社会全体の負担は小さくなる可能性が高い。これは、インフレだけではなく、公的資金の投入による銀行救済ないし預金保護という手段に関してもいえることだ。

 こう考えると今後、米政策当局が取るであろう政策対応の基本的な道筋が明らかになるだろう。つまり、社会的に許容しうる上限までのインフレを甘受しながら、不良な債務の集中している部分に対して公的資金の投入を行うというものだ。

 これまでも強調してきたが、サブプライム危機は、問題の所在が不明確であったことが、対処を難しくしていた原因であったが、米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)FNM.Nと米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)FRE.Nの経営危機は、ある意味でどこに危機的なファクターが集中しているかを明らかにしたというプラスの効果も持っている。

 今後、多くの曲折は予想されるものの、最終的にはこれらの政府系住宅金融機関をなんらかの形で救済することは避けられず、それに伴い政府は巨大な資本注入を行わざるを得ないであろう。

 

 岡田靖 エコノミスト

 (8日 東京)

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