July 23, 2008 / 4:34 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕米政策当局と「戦後最大の危機」、薄氷踏む対応の行き着く所=信州大 真壁氏

 米国の政府系住宅公社(GSE)であるファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)FNM.Nとフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)FRE.Nの株価が7月中旬に急落し、両社の経営状態に対する懸念が本格化した。昨年のサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン )問題の顕在化後、両社は住宅ローンや住宅ローン担保債券(RMBS)の受け皿の役割を担い、住宅ローンの買い入れを続け、RMBSなどを買い支えてきた。それにもかかわらず、住宅ローンの延滞率は上がり、RMBSの価格が下落していたのだから、両社が抱える損失額が膨らむことは当然の帰結だった。

 <GSEめぐる暗黙の了解は存在するか>

 問題は、ファニーメイとフレディマックが、現在は純粋な民間企業であるにもかかわらず、そうした役割を担うことを期待されたことだ。民間企業である以上、損失額が膨らめば、経営状態の悪化が懸念されることになるからだ。もう1つ忘れてはならないことは、両社は政府が創設した経緯もあり、何か不測の事態が発生した場合には「政府が何とかするだろう」との「暗黙の了解」が存在していたことだ。

 何事もない安定した局面では、「暗黙の了解」に問題は発生しない。しかし、今回のように、両社が役割期待を果たすために多額の損失を被った時には、間違いなく困難な状況に追い込まれる。国民は「政府が、税金を使って民間企業を救済するのはおかしい」とのスタンスを示す可能性が高い。一方、両社が組成したRMBSや両社発行の社債を保有する投資家は「暗黙の了解があったはずだ」と臍(ほぞ)をかむことになる。

 いかんせん、両社のマグニチュードは大き過ぎる。両社が保有したり、保証しているRMBS等は5兆ドルを超え、米国全体の住宅ローン約11兆ドルの約半分になろうという規模だ。両社が発行する社債は約1兆6000億ドルに上り、世界中の投資家が保有している。中には外貨準備の中に多額の当該債券が入っているケースもあるという。仮に両社が破たんするようなことがあれば、米国の住宅ローン市場はほとんど機能を停止するような痛手を受けることになる。

 世界の投資家、特に金融機関の経営状況にも大きな打撃になるはずだ。それが現実のものになると、米国発の世界金融恐慌の発生も考えられる。まさにグリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長やジョージ・ソロス氏が指摘していた「戦後最大の危機」が現実味を帯びることになる。

 <市場の自由に踏み込んだ米当局>

 それに対して、ポールソン財務長官やバーナンキFRB議長は、なりふり構わず背水の陣で事態の沈静化に努めた。それは政策当局と「戦後最大の危機」との戦いとさえ言えるかもしれない。

 具体的には、ファニーメイ、フレディマックに対する融資枠の拡大や、資本注入の検討という非常事態の対応策であり、空売り規制強化方針の設定などであった。今まで、自由な市場機能を担保するためほとんど議論すらなされなかった民間企業の救済策や、市場参加者の自由を縛る方策が次々と矢継ぎ早に打ち出されたのである。

 こうした対応策は、バブル崩壊後の90年代後半、わが国でも実施された内容とほとんど同じだ。当時、米国の経済専門家の多くは、日本の対応策を嘲笑(ちょうしょう)していたが、今では、米国自身が、そうした対応策を打たざるを得ない状況に追い込まれたということだ。実に皮肉な現象が起きている。

 <現実味を帯びてきたドル買い協調介入>

 外為市場では、既に「ドルの下落を止める為に、ドル買いの協調介入を行うのではないか」との観測も出ている。確かにドルの下落は、原油や一部穀物の価格を押し上げ、世界的なインフレ懸念の台頭をもたらすことになる。

 また、ドルの先安観が台頭すると、米国の金融市場に流入する投資資金が減少して、米国の株式や債券の市場を不安定化させることが考えられる。それは世界の金融市場に伝播(でんぱ)し、世界的な混乱を引き起こすことも考えられる。

 そうした状況を勘案すると、米国や欧州、わが国や中国もドル下落を止めることに反対する者はいないだろう。ドル買いの協調介入の実施は、あながち荒唐無稽なアイデアではないだろう。

 <市場機能の規制、効果一過性だった日本の教訓>

 今後の世界経済・金融市場の動向を占う上で、最も大きな要素は、米国をはじめとする主要国の政策運営ということになる。米国の財務省やFRBの政策運営が奏功すれば、金融市場は徐々に落ち着きを取り戻し、新しい均衡点に向かって進展することができる。

 一方、現在の状況を過小評価して、実効性の高い政策を打ち出すことができない場合には、マーケットが暴力的に均衡点を示すことも考えられる。そうしたケースでは、多数の金融機関の破たんなど、かなり厳しい摩擦が発生することだろう。任期満了まで残りが少なくなったブッシュ米大統領が、いまひとつ現状認識に甘さがあるように見えるのも気になるところだ。

 わが国のバブル後始末の教訓としてわれわれの頭の中には、次のようなことも強く記憶に残っていることを指摘したい。それは、規制などによって市場の動きを一時的に曲げたりしても、その効果は長続きせず、最終的には、市場から大きなしっぺ返しを食らうことが多かったという点だ。

 今回、米国が取っている政策は、かつてわが国が苦肉の策として採用したものが多い。今後、90年代後半以降にわが国で起きたことが、再び起きることがないことを希望する。

 真壁昭夫 信州大学・経済学部教授

 (23日 東京)

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