November 26, 2008 / 4:33 AM / 10 years ago

COLUMN-〔インサイト〕後手に回ったFRB、大胆な緩和で打開目指す=エコノミスト 岡田氏

 最近の市場と経済の激動ぶりを評して「100年に1度」という形容詞が定着してしまった感がある。そのためか時間の経過は恐ろしいほどに速く感じられ、2006年1月にバーナンキ教授がFRB(米連邦準備理事会)議長に就任して既に3年近くが経過してしまったことに驚かされるのは筆者のみではあるまい。彼が経済学部長を務めていたプリンストン大学は、アインシュタインを擁していた高等研究所で高名だが、同時にマンハッタンへ1時間ほどという立地もあって、伝統的にアメリカの金融政策に強い影響力を持っている。その経済学部長にして、世界大恐慌研究の第一人者であるバーナンキがFRB議長に指名されたと聞いて、最初に考えたのは、これで世界大恐慌が再来しても万全の布陣が整えられたということであった。

 <リーマン破たんの決断、危機を深化させた可能性>

 だが、現実はそうした楽観を簡単に打ち砕いている。栄華を極め、アメリカの経済力を象徴していたウォール街の巨大投資銀行は、次々と破たんし、今やすべての投資銀行は銀行持ち株会社の傘下に入ってしまったのである。伝統的金融ビジネスである商業銀行の保守的な経営に対して、高度の取引手法を駆使することでリスクを回避しながら驚くような高収益をあげ続けることが可能であるという幻想は、もろくもついえたのだ。危機はそれにとどまりはしない。リーマン・ブラザースLEHMQ.PKの破たんによって堤防が崩れたようにして、連鎖的な金融危機が企業金融にまで波及していた。このリーマン・ブラザース処理におけるFRBの対処が正しかったのか否かに関しては、深刻な疑問が残ることは間違いないであろう。

 1997─98年の日本の金融危機の際には、三洋証券破たん(97年11月3日)が今回のリーマン・ブラザース破たん劇と同様の効果をもち、コール市場をはじめとする短期金融市場は完全に機能を停止してしまい、北海道拓殖銀行の破たん(同17日に北洋銀行へ営業権譲渡)を招いた。その教訓によって、同24日に破たんした山一証券の場合には自主廃業という手続きがとられ、市場取引の停止を避けることになったのである。ところが、こうした経緯を十二分に知っているはずのFRBと米財務省が下した判断は、危機を深化させるようなものであった。

 <利下げへの転換、遅かったとの批判>

振り返ってみれば、2006年夏の段階でケース・シラー住宅価格指数は前年比でマイナスに転じており、この段階でそれまでのメジャードベース(緩やかな)の利上げは停止しただけではなく、引き下げておくべきだったのかもしれない。

 実際に路線転換が生じたのは危機が表面化した97年8月以降となったのである。これをもって資産価格変動が激しい景気変動を引き起こすという金融的加速度モデル「Financail Accelerator Model」の創始者であったバーナンキ議長の失敗をとがめることは可能かもしれない。事実、24日には自身でサブプライム問題とその影響を過小評価していたと公式に認めるに至っている。利上げ路線の転換の遅れと、リーマン・ブラザース処理の失敗の2つを考えれば、バーナンキ議長は期待を裏切ったと評価されても致し方ないと言えよう。

 <FRBがみせた大胆かつ迅速な金融緩和>

だが、リーマン・ブラザースの破たん以降の対処には、目を見張るものがあることは認めるべきだろう。第1に、生き残った2大投資銀行であるモルガンスタンレー(MS.N)とゴールドマン・サックス(GS.N)はともに銀行持ち株会社の傘下となることを強く促され、これによって商業銀行を対象とするFRBの監視システムと連邦預金保険公社の金融保護システムの下に組み込まれた。こうした対応は本来なら財務省の管轄であろうが、実際にはバーナンキ議長のイニシアチブで実行されたと伝えられている。

 第2には、政策金利であるFF金利の誘導目標水準をさらに引き下げ、現時点で0.5%まで低下させている。しかも金利低下の下限を形成するはずの準備預金への付利を導入したにもかかわらず、実際には実効FF金利は0.3%程度まで低下しているがそれを放置している。さらにコーン副議長などは、これ以上の金利引き下げと量的緩和の導入を視野に入れていることを公言している。つまり景気後退と過度の資産デフレに対してFRBは、全力でそれを阻止することを表明しているのである。

 第3に、リーマン・ブラザース破たんによる短期金融市場の機能停止が、企業金融、ことに短期の資金繰り手段であるCP市場に及ぶや、FRBは驚くようなスピードと額で市場介入を実施したことが指摘できる。金融政策の量的指標であり、FRBのバランスシートの(負債側の)規模を決めるマネタリーベースは、メジャードベースの利上げの中で5%台から1%台まで前年度比の増加率を低下させてきたのだが、2008年に入って反転し、増加幅を徐々に拡大させ、9月にはほぼ10%、そして10月には実に前年比37%という驚異的な数字を記録しているのである。ゼロ金利でこそないものの、事実上の量的緩和が既に実行されていると言っても決して間違いではない。

 第4に、この金融緩和の中身がすさまじい。増加のほぼ半分が、流動性を失いかけていたCPなどの民間債務なのだ。つまりリーマン・ブラザース処理の「失敗」により企業金融が閉そくに陥ることを避けるために、通常では考えにくい規模と内容の金融緩和が実行されているのである。もちろんこうした措置に対しては批判も多いのは事実である。不換紙幣の価値の裏付けである中央銀行のバランスシートを「汚す」ことは、通貨への信認を喪失させるという批判だ。

 <「最後の貸し手」の前に広がる不透明感>

 しかし、インフレ懸念を引き起こしていた原油価格の暴騰はすでに暴落と言って良い状態にあるし、ドルの為替レートは円以外では大幅に上昇している。つまりリスクにおびえる世界は、膨大な量のドルを飲み込んでもまだ不足であると訴えている状態なのだ。130年前にエコノミスト誌編集長であったウォルター・バジョットは中央銀行の任務を「危機に際しての最後の貸し手」と述べたが、まさに今日、バーナンキのFRBは世界経済の危機に対し、最後の貸し手としての機能を果たしつつあるのだ。

判断のミス、過去の経験を軽視してしまうことなど、神ならぬ人の行為には錯誤と失敗、そしてある程度の愚かさが常につきまとうものである。しかし、公平に見て、現在のバーナンキFRBの金融政策は、失敗の烙印を押すには至っていないと言ってよいだろう。もちろん危機は現在進行形であり、この後にもGM(GM.N)の危機など乗り越えなければならない巨大な課題は山積しているし、その解決方法について、経済学者の間にも十分な合意はできてはいない。さらに金融安定化法案の審議に見られたように、庶民の素朴な正義感あるいは公正の感覚からすると、経済的に正しい方策が政治的に受け入れられず、危機を一層深化させてしまう可能性は十二分に残されている。 

 岡田靖 エコノミスト

 (26日 東京)

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