November 28, 2008 / 4:34 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕金市場で目立つ個人の買い、始まったドル信認の揺らぎ=Mストラテジィ 亀井氏

 米国を中心に金融市場で目まぐるしい動きが続く中、金市場では個人投資家を中心とする投資用の金貨や1キログラム以下の小口の金地金に対する買いが衰えることなく続いている。米国造幣局(USミント)発行の投資用24金の金貨(バッファロー金貨)が需要の高まりに鋳造が追い付かず、販売経路の絞り込みを発表したのは9月だった。

 10月には日本国内でもウィーン金貨で知られるオーストリア造幣局(オーストリアミント)が、増産のため3交代制24時間操業体制を敷いたと伝えられた。これらは「フィジカル・ゴールド(金現物)」需要の高まりとして10月24日付の当欄で紹介した。その際に、ニューヨーク・コメックスの先物取引ではヘッジファンドを中心に取引解消や益出しのための手仕舞い売りが続いており、いわば現物地金を伴わない「ペーパー・ゴールド」と「フィジカル・ゴールド」のせめぎ合いの構図になっていると指摘した。

 <リーマン破たん後に欧州を中心に急増した個人の金買い>

 前週は、オーストラリアのパース造幣局(パース・ミント)が、投資用金貨や地金の受注を年明けの1月までストップするという異例の発表をして注目を集めた。カンガルーを金貨の表面に刻印した24金の投資用金貨(カンガルー金貨)の発行で知られるが、3交代24時間しかも週7日の操業というフル稼働で対応しているものの注文を処理できない状態だという。

 注文増加で目立つのは欧州という。リーマン・ブラザーズの破たん以降、欧州でも金融機関の経営問題が連鎖的に表面化し、ロンドン、フランクフルト、パリでも金貨の売れ行き急増という現象が伝えられてきた。この話は、そうした報道を裏付けると言えよう。

 パースミントによると、通貨危機の関係でロシアやウクライナ、中東など欧州以外にも受注先が広がっている。従来のインド、中国という金市場ではおなじみの国に加え、投資用の金現物の需要が広がりを見せているのは間違いなかろう。リテール(小売)用のコインや地金がこんなに売れたことは過去になく、生産能力を軽く超えてしまっているということである。

 実際に11月19日に発表された需給統計でも、7─9月期ではあるもののETF(上場投信)を除いた金の国際的な投資需要は、232トンと前年同期比で121%の伸びとなっていた(ワールド・ゴールド・カウンシル調べ)。7─9月期のヨーロッパでの投資需要は51トンとなったが、これは過去18年のどの年の年間需要をも上回るものである。ちなみに前年同期は2.3トンに過ぎなかった。

 1980年代初期以降、売り越しを続けていたフランスが、初めて買い越しに転じるという現象も見られている。米国を起点とした世界的な金融危機に拍車がかかる中で、金価格が700ドル近辺と比較的低位に位置していた10、11月の投資需要の状況は、推して知るべしということだろう。

 <金融危機で鉱山会社も資金繰り難、金売りで資金調達>

 こうして見ると再び行き当たるのは、過去に例を見ないほどのリテール部門の盛り上がり(すなわち資金流入)にもかかわらず、現実の金相場が盛り上がりに欠けるのはなぜか、という問題だ。

 その答えは、一般には引き続きファンドなど金融サイドの売却がそれらを打ち消しているということになる。ただ、ここにきて従来とはやや趣きを異にした要素が浮上しているのも事実である。

 ヘッジファンドの解約や清算にともなった強制的な手仕舞い及び換金売りに加え、金融サイドの引き締めにより、設備投資などの資金調達や資金繰りに困った鉱山会社が、借り入れた金地金を売却する動きが増えたと見られるのである。従来の「鉱山ヘッジ」ではなく、「ゴールド・ローン」と呼ばれるファイナンスの手段として金地金を利用する90年代の初期によく見られた手法の復活である。

 金を語る際に「代替通貨」という表現を使うことがあるが、端的には、「金を売る」ということは「ドルを手にする」ということとイコールである。「ドル資金調達」のために、鉱山会社は金地金を利用したのである。

 このドル調達という目的は、この間にドル資金を取りにくくなっていた米欧の金融機関にも共通するもので、かなりの量の金が借り出されOTC市場(店頭市場)で換金された可能性がある。おそらく、それがリテール部門の投資需要の盛り上がりを相殺する形になったと見られる。

 国際金市場で機関投資家や鉱山会社間の取引に供されるのは、一般に400オンス(約12キログラム)のラージ・バーである。リテール用にそれは精錬され金貨や1キロバーなど地金(バー)に加工される。要は、金地金(ラージバー)は不足していないが、鋳造能力を超える前例のない草の根的なリテール部門での金購入意欲の上昇に、コインや小口バーの在庫払底というミスマッチが、足元の金市場で起きているのである。

 <米当局のドル増発リスク、個人の金買いをさらに誘発>

 こうした状況の下で、11月21日の海外市場では金価格が再び800ドルの大台まで買い進まれることになった。おりしも米国財務省が「金融安定化法案」の当初の目的であった不良資産の買い取りを断念し、金融機関への資本注入に専念すると発表。その余波から米銀大手シティ・グループの株価が急落し、金融市場で信用リスクが再び高まったタイミングを捉えてのことだった。

 その後、米国財務省はシティに対する資金の追加注入を含め、同行保有資産の保証まで踏み出した。さらに今週に入り米連邦準備理事会(FRB)による最大8000億ドルの金融対策が発表されたが、個人金融部門にまで足を踏み入れ(いわば)力づくで再活性化させようという試みである。

 すでにCP(コマーシャル・ペーパー)の間接買い取りを通じ、ウォールストリートのみならずメーンストリートにまで政策範囲を拡大しているが、その範囲をさらに広げることとなった。

 米大手投資銀リーマンの破たんは「どこまで助けて、そして助けないのか」という暗黙の基準が失われたことによりショックとなった。だが、現在の市場の懸念は「どこまで救済の手を広げるのか」に移ったといえる。金融安定化法案の7000億ドルでは足りないという現実が迫っているが、増額は難しく、代わって中央銀行であるFRBがさらに自らのバランスシートを拡大させて対応しようとしていると理解できよう。

 リーマン破たん前に比べ、FRBの資産は支援策急増の中、わずか2カ月余りで2倍以上に膨らみ、2兆2000億ドルを突破した。このまま年内に3兆ドルを突破との見方もある。異例の事態には、異例の対応策が必要とは、今年のノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン・スタンフォード大教授の言葉だが、一方でドルの先行きへの不安も高まっている。

 政府支出の財源としての国債の増発もすでに始まっており、財政赤字の急増も始まった。ドル信認が揺らぐリスク覚悟の「賭け」が始まっているともいえ、ウォールストリートとの比較からは“ささやか”ながら金地金購入という投資家の防衛策は、さらに広がりそうだ。

 (28日 東京)

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