October 22, 2008 / 4:30 AM / 10 years ago

COLUMN-〔インサイト〕世界的金融危機、日本の教訓は生かされているか=エコノミスト 岡田氏

 1997年から始まった日本の金融危機について、米連邦準備理事会(FRB)が、真剣な研究を行ってきたことは広く知られている。ひとたび危機が訪れたとき、デフレ阻止に向けて急速な金融緩和を行うべきであるという結論は、ITバブル崩壊と「世界デフレ」の危機に関しては予期した以上の成果へ結びついた。

 だが、皮肉にもこのめざましい成功こそが、日本の経済危機のもう1つの側面である「バブルの生成と崩壊」を招き寄せてしまったようである。日本と違い「高めのインフレ率の下でのバブル崩壊」に対する処方は、いまだ暗中模索の状態が続いている。今回は、そのバブル崩壊劇に関して、日本の踏んだ轍(てつ)を、結局はFRBが踏んでしまったいくつかの点を再検討してみよう。

 <リーマンブラザース処理の「失敗」>

 前回のコラムで、三洋証券の破たん処理の失敗を見ながら、リーマン・ブラザースLEHMQ.PKの破たん処理がスムーズに行われ、金融機関相互の決済機能が完全に安定していることが、決定的に重要であることを指摘した。そして、9月15日時点ではまだ判断はつかなかったものの、ベア・スターンズBSC.N処理と同様になんらかの手段でそれを実現するだろうと述べた。

 だが、これは根拠なき楽観だった。この日を境にして、LIBOR(ロンドン銀行間取引レート)をはじめとする銀行間市場でのカウンターパーティーに対するリスクプレミアムは爆発的に上昇を開始し、機能麻痺(まひ)状態が今日に至るまで尾を引いている。

 ただ、リスク投資に慎重であらざるを得なかった日本の金融機関だけが例外であるのは、日本人であるわれわれにとっては、不幸中の幸いであろう。かつて日本の金融機関はジャパンプレミアムに悩まされ、ドル資金市場で3けたのプレミアム(つまり1%オーダーの上乗せ金利)を支払わねば資金の借り入れができない状態であった。

 だが、欧米の主要金融機関、巨大企業がそれ以上のプレミアムを支払っても誰も資金を取り入れられない状況が起きてしまった。この結果、アメリカ、ヨーロッパ、イギリスなどの中央銀行、そして国際通貨基金(IMF)までが、文字通り無制限な信用供給を行なわなければならない事態に発展した。

 金融市場で比較的大きなプレイヤーを破たん処理する時に、金融市場をたとえ一時的にでも機能麻痺させることが、それに続く連鎖的な金融機関相互の貸し渋りを招き、システム全体の危機を招くという三洋証券の教訓は、必ずしも生かすことはできなかったわけだ。

 

 一方で、たとえ結果的であれ、無謀な投機的ポジションを取っていた金融機関を無制限に救済することは、深刻なモラルハザードを招き望ましくないことは言うまでもない。それを抑制しながら、いかにして金融市場の危機を避けるのかという問題は、まだ十分には解けていない問題なのである。

 他方、1つだけ新しい解決方法が示されたことは記憶すべきだろう。それは、専業投資銀行というビジネスモデルが、少なくともアメリカの巨大投資銀行に関しては、正式に否定されたことだ。もはや預金者保護だけで決済機能を防衛することはできず、証券会社を含めた金融機関全体を、中央銀行(それと協力する監督官庁)が管理することが必要となったのである。

 <預金保険とMMF>

 1993年だったと思うが、私は預金保険機構への大幅な政府保証の供与と預金保護上限の引き上げを行うべきだとする小論を書いた。当時の預金保険機構の基金はごくわずかしかなく、中規模の地銀あるいはいくつかの信金・信組の破たんが起これば、たちまち枯渇してしまう程度に過ぎなかった。

 この小論に対する多くの証券市場関係者の反応でわかったことであるが、彼らの大部分は、預金保険制度が日本にあることすら知らなかったのである。これに比べれば、毎年ある程度の銀行破たんが起こり、預金保険制度が常に稼働しているアメリカでは、はるかに準備は周到であったはずだ。

 ところが、ここにも予想外の事態が待っていたのである。リーマン破たんの直後の9月21日、あまり大きく取り上げられなかった話題だが、アメリカ政府は財政資金による元本割れMMFの救済を決定した。MMFはアメリカ市民にとって事実上、普通預金同然のものであり、それが元本割れすることは深刻な影響を家計に与えることになる。このため救済自体は避けられないものだったと言えよう。

 だが、連邦預金保険公社による銀行預金の保護には10万ドルという上限がある。MMFと銀行預金の利回りの差は、預金保護の有無にあるといってもよい。にもかかわらずMMFが元本保証されるなら、もはや銀行預金を行う人はいなくなるだろう。こうして金融安定化法の中で、預金保護の上限は25万ドルまで引き上げられることになったのである。

 本来は、投資家の自己責任の問題であるMMFの元本割れも、それが大規模なものとなった今日では、もはや預金同様に保護せざるを得ないものとなったわけだ。金融自由化は、自己責任原則の下で企業や個人により効率の高い投資機会を提供するものだ。だが、自己責任が徹底できるのは規模が小さいうちの話に過ぎなかったということだ。保護を与えるか、あるいはMMFの投資対象を厳格に規制するのか。危機が過ぎ去った後には、この問いにも答えなければならないだろう。

 <安全性と効率性の選択>

 経済成長は技術進歩や人口の増加などによって起こる現象であるが、やはりその基本は資本の蓄積にある。毎年の所得からある額を投資し、資本を増加させ、それによって生産と所得を増加させていくという基本はケネーの経済表の時代から変わらないのである。

 実物資本と実質所得の増加は、長期的に見ればほぼ安定した関係を維持しているはずだ。だが、実物資本の裏側には複雑な債権と債務の構造、つまりバランスシートが存在する。純資産たる実物資本は安定的に拡大するとしても、グロスで見た資産と負債は、両建てであるからはるかに早いスピードで拡大することができる。この傾向は金融自由化により多種多様な金融資産や債務が出現したことによって加速的に進んできた。

 もちろん物事が順調に進んでいる間は、それは問題ではない。それどころか、投資に伴うリスクを少ない手数料で分散させ、逆に事実上無視できる(ように思われる)リスクを負担することで、高い収益を上げることができたのである。

 フローの所得(企業なら収益)と比較してあまりに巨大な金額がバランスシートの左右に出現していいるのに、そのバランスが狂うと収拾がつかない状態が生まれる。このような危機はまれにしか起こらないが、ひとたびそれが起これば、文字通りの危機が訪れることとなるのだ。効率性と安全性のトレードオフのどこを選択するべきなのか。

 ステージは違うが、安全性一点張りだった80年代初期までの日本の金融システムが、そこからの離脱の過程で金融危機に陥ったことと同じ問題なのである。日本の金融危機は過去の問題ではない。多くの経済問題は装いを変えて、何度でも、どこででも、われわれの前に現れるのである。そして、これは日本固有の構造問題などではないのだ。市場経済システムそのものの抱える普遍的な問題なのである。

 岡田靖 エコノミスト

 (22日 東京)

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