January 7, 2009 / 4:35 AM / 10 years ago

COLUMN-〔インサイト〕目立つ輸出産業の急速な調整、懸念される危機感のギャップ=エコノミスト 岡田氏

 <実現しなかったデカップリング論>

 2008年9月15日、リーマン・ブラザースLEHMQ.PKが米連邦破産法11条を申請し破たんしたことをきっかけにして、世界の金融市場はほぼ完全に機能麻痺(まひ)状態に陥り、その悪影響は直ちに世界中の実体経済にも波及を開始した。2007年春からくすぶり、7月にフランスの投資銀行であるBNPパリバ(BNPP.PA)傘下の投資ファンドがサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)関係資産の時価評価を停止したことで始まった金融危機は、2008年3月のベア・スターンズの事実上の破たんと救済合併を経て、沈静化に向かうのではという一部の思惑を生んでいた。

 

 その根拠として、国内需要のおう盛な新興国家群、ことに巨大な国内市場を擁する中国、インド、ブラジル、ロシアなどが堅調な成長を続けるとする「デカップリング」が唱えられていた。

 だが、1997年の日本経済の危機の折にも、国際展開した日本企業は東アジアの奇跡によって影響を受けないとする主張が、アジア通貨危機の中でもろくもついえたように、デカップリング論もあっという間に見向きもされなくなってしまった。

 

 <大きな変化時に起きる見通しと事実のかい離>

 

 思い起こせば、1990年の日本での株価暴落から始まる急激な景気後退の折にも、株価が下がったくらいで世界最強の日本経済は、びくともしないという強気の見通しが跋扈(ばっこ)していたのである。

 かくいう私自身も91年春まではそうした意見を信じていた。当時の日本の設備投資は大規模な建設投資のシェアが大きかったため、景気後退が明確になるには、さらに1年程度の時間が必要であった。そして92年春に株価崩落の第2波が訪れ、危機感が高まり始めた際にはすでに時遅く、日本経済は全面的な危機局面に突入することになったのである。

 

 私自身のエコノミストとしての経験だけでも「過去に学ぶべきことを忘れ、誤った判断を下してしまうリスク」が高いことは明らかなように思われる。まして世界的な規模での景気拡大と金融危機、そして景気後退という事態は、グリーンスパンが言うように「100年に1度」と言ってもおかしくないほどの驚くべき事態であり、あらためて過去と向き合っておくことは、決して損にはならないだろう。

 

 <バブル崩壊時に比べ生産の落ち込みが激しい今回の危機>

 日本に関して見ると、今回の危機は内需の低迷している中で、景気回復のけん引車であった輸出製造業で急激な生産の縮小の起こっていることが最大の特徴であると言えよう。そこで、比較的最近の景気後退においてピーク時からどれだけ生産活動が低下しているかを見てみよう。

 ここでは暫定的に景気のピークを07年11月としよう(これを「今回」と呼ぶ)。比較対象は、バブル崩壊直後の景気後退前のピーク91年2月からの1年間(これを「バブル崩壊時」とする)と、アジア危機・金融危機、そして消費税引き上げに対する駆け込み需要の反動局面である97年3月からの1年間(「97年危機」と表記)である。

 まず、製造工業の生産指数を見ると、今回はピーク時から13.3%の低下が生じている。これに対して、97年危機の際には7.3%、バブル崩壊時には4%低下した。つまり生産の縮小するペースは、最悪のペースであることがわかるのだ。

 もちろんこれが需要の縮小に対する素早い調整の表れであるなら、今は厳しくとも先行きの展望は必ずしも暗くはないと言えないわけではない。そこで在庫水準を見てみると、今回は4.3%の増加が生じているのに対して、97年危機では9.6%増加、バブル崩壊時には2.2%減少だった。つまり今回の危機では、在庫の積み上がりは生じてはいるが、97年危機ほどではないことがわかる。

 

 <輸出産業起点に進む厳しい雇用調整>

 

 このように長期の景気低迷や低成長の結果、日本の製造業企業は需要動向に合わせて生産水準を急速に調整する能力を高めているように見える。これ自体は、先に述べたように決して悪いことではない。在庫が過度に累積すれば、その後に需要回復が生じても在庫の取り崩しによって吸収されてしまい、生産を増加させることがないからである。

 問題は、需要がいつになったら増加するのかという点である。これに関する企業の予想は厳しい。12月の生産予測指数は11月実績の94に対して86.9にとどまっているのである。これは一段の急速な生産の縮小が今後、過去にないペースで進んでいくことを示している。

 この急速な生産調整を可能としているのが、派遣労働に代表される労働力の存在だ。つまり企業自体の自己防衛上は正しい急速な調整は、急激な雇用問題の深刻化を示唆しているのである。これはすでに多くの報道などで明らかなことだが、統計データもそれを裏付ける動きをしている。

 

 <第3次産業に波及していない危機的状況>

 

 製造業での急激な縮小に対して、非製造業では何が起こっているのだろうか。第3次産業活動指数に関して、製造工業と同じくバブル崩壊時、97年危機、今回の落ち込みを比較してみよう。ただ、現時点では10月までのデータしか利用できないので、製造工業のケースより後退の期間が1カ月短いことになる。

 今回の場合、ピーク比で1.3%の低下が起こっているが、97年危機では3.6%、バブル崩壊時には2.4%の低下が観察できる。つまり非製造業の受けている被害は、少なくとも現時点では過去の危機に対して比較的に軽微であることになる。大都市部でのサービス産業のウエートが高いことを考えると、そこに住む人々の実感では、まだ今回の危機はそれほど深刻ではないと受け取られる可能性が高いことがわかるのである。

 バブル崩壊時には証券・不動産・建設などが危機に陥ったが、それが経済全体に波及し経済危機を引き起こすと認識されるのに長い時間が必要だった。これに対し、今回の危機では製造業が驚くようなテンポで生産調整を推し進めているが、それが大都市部で実感されるのには、まだ時間がかかるだろうことがわかる。

 問題は、この認識のギャップだ。現時点では、製造業の派遣労働者の失職などで世論は危機感を募らせているように思われるが、身の回りで起こっていることではないので、ある程度の時間が過ぎれば忘れ去られる可能性が危ぐされるのである。その場合には、バブル崩壊時と同様に、対策が手遅れになってしまう可能性は十二分にあることを指摘しておきたい。 

 

 岡田靖 エコノミスト

 (7日 東京)

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