[東京 28日 ロイター] 日銀は28日、金融政策決定会合の議事録のうち、1998年7月から12月までの部分を公表した。その中で3年ぶりに金融緩和に踏み切った1998年9月9日の金融政策決定会合では、速水優総裁(当時)が経営危機に陥っていた日本長期信用銀行(長銀)の破たんが国内外に及ぼす影響に強い危機感を抱いていたことが明らかになった。
<長銀潰れればドミノ現象>
長銀は同年6月に経営危機が表面化し、10月に一時国有化された。この年は12月に同じく経営危機に陥っていた日本債券信用銀行も一時国有化されたほか、海外でも米ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が事実上破たんするなど、金融システム不安が広がった時期で、実体経済もデフレ・スパイラルに陥る瀬戸際にあった。
そうした中で9月9日に開催された会合では、無担保コール翌日物金利の誘導目標を「公定歩合(年0.5%)をやや下回る水準」から年0.25%前後に引き下げるとともに「金融市場の安定を維持する上で必要と判断されるような場合には、コールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」との「なお書き」を追加。金利と量の両面での緩和姿勢を鮮明に打ち出した。
速水総裁はこの日の会合で「6月ごろから長銀問題が出始めて、マネーセンターバンクというか内外に大きく網を張って仕事をしている大銀行19行ですら、デフォルトを起こしかねないという、考えられもしなかったことが現実化しつつある」と懸念を表明。その上で「資金量20兆円もの大銀行がつぶれたケースは過去にあまりないわけであり、破たんに対していかなる手を打つのか、何が起こるのかすら前例がないだけに見通しも非常に立て難い」と指摘。「つぶれるような事態になれば、その連鎖反応は相当大きいと考えざるを得ない。他行への影響あるいは市場への影響、取引先にとどまらないドミノ現象のような状態が起きることは間違いない」と危機感をあらわにした。
さらに「長銀でも海外に30の店を持っており、邦銀全体では5、600の店舗や現法が海外にあるわけであり、海外への影響を常に考えておく必要がある」とも述べ、問題の広がりを相当警戒していた姿も浮き彫りになった。
<長銀だけでは収まらず>
速水総裁は9月24日の会合でも「9月9日直前には、このままでは市場が持たないという感じがしていた。1日遅れればそれだけ市場の情勢が悪くなっていくことが明らかにみえてきた。そこで緩和の決断をした」と述べ、金融緩和の背景に金融システム不安があったことをあらためて説明した。
その上で「3月の19行の貸出残高は365兆円だが、これに対して資本勘定は、かなり広く内部留保をみても14兆7000億円であり、19行の平均で資本勘定は4%しかない。したがって長銀の処理のみでことが済むものではない」と語り、経営問題は長銀だけでは収まらないと踏み込んだ認識も示していた。
<必要に応じてゼロ金利容認も>
9月9日の会合では、一部の委員から必要に応じてゼロ金利を容認する意見が出されていたことも明らかになった。中原伸之委員が「必要があればコールレートがゼロになってもかまわないと思っている」と発言したほか、武富将委員も「今後は平常ではないことが起きる確率が高い局面に入ったと判断しており、瞬間風速ゼロということも念頭においている」と説明。さらに植田和男委員も当初、「コールレートの誘導水準を例えば0─0.3%程度の範囲に設定し、その中で当面は0.3%を少し下回る程度の水準を目指す。必要に応じて機動的に誘導水準を下げていく」との案を説明するなど、程度の差こそあれ、委員の間で危機感が共有されていた様子がうかがえる。