March 18, 2009 / 4:35 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕「小さな政府」がバブル生成の要因という仮説=エコノミスト 岡田氏

 世界経済は大恐慌以来の大規模な経済危機の最中にある。危機への対応を国際的に担う場が、第1次石油危機では欧米の大国と日本だけをメンバーにしたサミット会議だったが、G20と呼ばれる中国やインドなどの急速に経済規模を拡大しつつある途上国を含めた形で進められようとしていることでも、危機の深さがうかがわれるだろう。だが、この危機はグローバルで大規模だが短期的な経済危機というよりも、市場経済のあり方をめぐる長期的な難問と深くリンクしている可能性がある。

 <金融システムへの公的資金注入と金融機関の巨大化>

 超短期における対応については、金融システムを防衛しなければならないという点で、ほとんど議論の余地はない。世界を代表するような巨大金融機関が軒並み破たんの危機あるいは実質的に破たんしている現状では、金融システムの防衛に公的資金を投入することは不可避である。

 だが、中長期における金融制度のあり方に関する見通しを欠くとすれば、対策の結果は後日に禍根を残すことになる可能性がある。日本の金融危機でもそうであったが、こうした危機に対する民間金融機関の対応は往々にして合併などによる巨大化を志向する。

 危機に陥っている金融機関が多数であっても個々が小型であるとするときにはこうした対応は望ましいことが多い。小さな金融機関の多くは最適規模を下回っており、規模拡大は社会的に望ましいものだからだ。

 だが、巨大な金融機関同士が合併することで最適規模を上回らないという保証はない。それにもかかわらず合併が志向されるのは、政府による支援を前提にして「巨大すぎてつぶせない」ことを望むモラルハザード的な行動なのかもしれないのだ。確かに金融市場は、世界的に統合され国内で巨大な企業も世界市場では単なるプレイヤーに過ぎないという意見もあろう。

 だが、金融市場の機能を十全に発揮するためには、多様な予想を抱いた参加者が多数存在し、資産の売買が一方通行に偏らないことが必要である。プレイヤーの数の減少と、その運用資産の巨大化は、競争市場を匿名の市場から、競争相手の行動を意識する寡占市場に変えてしまうことになる。それによる効率性の低下を考えると、どこまで巨大化を許容すべきかは議論の余地のあるものと言えよう。このように超短期においても、いかなる形で金融システムを防衛するかという具体的な方向性は、長期的にどのような市場構造を目指すかによって、異なった立場があり得るのである。

 <バブルの原因は過剰貯蓄という見方>

 一方、視野を広く取れば、ここでも深刻な問題の存在する可能性が否定できない。今回の危機の遠因がアジア通貨危機を契機にして生じた世界的な過剰貯蓄にあるという意見が有力である。「過剰貯蓄」とは、健全で高い収益性が確保できる投資機会と貯蓄供給のバランスの問題である。

 もし、前者が十分に大きければ問題は起らないが、逆であれば、資産家たちはたとえリスクが高くとも、より高い収益機会を目指してある種のギャンブルに浮き身をやつすことになる可能性がある。

 1970年代にはアメリカの低成長に飽き足らない大手銀行が中南米諸国への過度の融資を行い金融危機に陥っている。80年代にはS&L(貯蓄貸付組合)危機が起り、97年にはアジア通貨危機が起っている。

 そして今回も、サブプライムに代表される「リスクを分散することで回避する証券化」が新たな高収益機会として登場し、破たんすることで危機が発生したのである。これらに共通するのは、高収益に魅せられリスクは回避可能と過信したことだ。

 もし、財政赤字が大きいか、政府の経済的プレゼンスが大きければ、貯蓄(あるいは貯蓄に向けられるはずだった所得)は、それらによって吸収されてしまっていただろう。つまり資金を民間経済に配分することで効率性を高めることができるという「小さな政府」が、逆に国内の投資機会に比べて相対的に過剰な貯蓄を生みだし(あるいは世界からかき集め)、それをリスキーな対象へと誘導してしまう結果になったのかもしれない。そうであるなら、解決方法は2つ考え得る。

 <過剰貯蓄の吸収と公的セクターの役割>

 1つは、国内に収益性の高い投資機会を生み出すような「構造改革」を行うことだ。だが、これは言うはやすく、行うは難い典型的な問題である。政策である以上、その実行主体は政府であるが、官僚がどの産業あるいは技術に将来性があるかを見極めることなど不可能だからだ。政府にできることは、企業活動の促進のためのインフラ投資や教育投資を行うこと、そして民間企業の競争環境を維持するように独占禁止政策を強化するくらいのものである 公共投資や教育投資の拡大は「小さな政府」という発想とは両立しがたいという問題が発生するのだ。

 もう1つの解決方法は、投資機会に比較した過剰貯蓄を政府が吸収してしまうことだ。財政赤字の拡大には限度がある以上、長期的には増税と公的支出の拡大が必要ということになる。このように今回の危機は、過去40年間続いてきた「小さな政府」という思想に対する深刻な挑戦なのである。

 

 岡田靖 エコノミスト

 (18日 東京)

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