April 8, 2009 / 4:40 AM / in 11 years

COLUMN-〔インサイト〕脱ドル時代予感させたG20、ポンド落日期から推理する未来=名古屋市立大 永野氏

 <影響力強める中国>

 20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)開催時におけるロンドン抗議デモのニュースを聞き、1999年のWTO(世界貿易機関)シアトル会合を思い起こした読者も多いだろう。しかし、今回の金融サミットは、一連のWTOの混乱とは対極的な結末を迎えたと言える。

 5兆ドルの財政出動、保護貿易阻止の2つの共同声明は、参加国間でも温度差が残存した結果となったが、金融安定化理事会の設立、国際通貨基金(IMF)改革は、国際金融マーケットの歴史においてターニングポイントとなりうる合意である。

 その中で今回、注目すべきは中国の存在感だ。世界最大の外貨準備を有し、米国金融マーケット再建の鍵を握るこの世界最大の投資家は、G20で東アジア地域代表としての色彩を強めている。外貨準備保有高2位の日本が、米国追随主義を鮮明にした姿とは対称的である。そしてIMF改革において出資比率を高め、今後発言権を強めることが確実な中国は、将来の国際金融システムシステム改革において主導的役割を担うことになろう。

 その究極の目標が、国際金融マーケットにおけるドルの時代の軟着陸であり、SDR(特別引き出し権)建て金融取引を普及させる構想の実現である。新興国が歴史上初めて首脳会合の場に組み込まれたG20金融サミットは、脱ドル体制時代の輪郭が浮かび上がった2日間とも言えよう。

 <SDR建て金融市場創設の意味>

 第2次世界大戦後の国際金融秩序は、1944年から1971年までのブレトン・ウッズ体制、そして1985年からの「G7・G8の時代」と、一時的な端境期を除けば、2つの時代に区分することができる。単純化すれば、前者は準固定相場制・為替管理を前提とするクローズドなシステムの時代、後者は通貨制度・為替管理がともに自由化された非システム化の時代と解釈可能である。

 G7・G8が定期的な首脳会合の場を持たざるを得なかった理由は、非システム化により数倍に膨張した資本フローへの機動的対処のためである。そして歴史的見地から、第三の時代として新興国が加わる2009年以降の「G20の時代」として位置付けられる可能性が高まっている。1993年に刊行された世界銀行著『東アジアの奇跡』が象徴するように、東アジア経済は、この国際金融秩序が非システム化された時代に国際社会へと台頭した。このため1998年、2008年と、この地域は宿命として周期的な金融危機に見舞われる経済構造を持つ。

 その金融ぜい弱構造とは、韓国を事例にとるとわかりやすい。韓国銀行のリポートによると、昨年秋以降の韓国ウォンの急落は、輸出業者による為替先物予約のための海外借入、国内不動産ブームによる手元現金の不足した外銀による海外借入の2つの要因によると結論付けている。

 すなわち高い輸出依存度の下で金融自由化が進んだ経済構造では、いずれの国でも短期対外債務が外貨準備を上回るペースで急増し、通貨の急落と金融危機が起こりうる。その意味では、G20金融サミットは、東アジアがこの宿命から逃れるため初めて発言の機会を得た首脳会合であり、この共通の金融ぜい弱的な体質への措置が、金融規制とIMF改革ということになる。

 東アジアをASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3カ国と定義すると、G20には、日本、中国、韓国、インドネシアの4カ国がこの地域からの参加国である。これらの国々はいずれも、外貨準備の運用の大半をドル建て米国債へ投資する一方、実物面では輸出相手先を米国に依存するという特徴を持つ。

 興味深いのは、この特徴が、戦後から1960年代までの英国と、豪州、ニュージーランド、香港、マレーシアなどの旧英領諸国との関係に酷似していることである。1948年時点で、世界の外貨準備は、金を除けば英ポンドが世界の8割を占有し、英国はこの旧英領諸国に対し、英ポンド建て対外債務を急増させていた。外貨準備を英ポンドで持つ旧英領諸国は、この外貨を英国金融市場で運用し続けてきたが、1960年代の2度にわたる英ポンドの切り下げにより、自国通貨の対ポンド固定制を放棄し、外貨準備もドルへの入れ替えを行っている。

 つまりG20金融サミットでの中国のSDR市場育成構想は、将来のドル下落により生じうる外貨準備の減損を避けるため、代替的な資産市場の育成を進めることを目的としている。そしてこの構想は中国のみならず、輸出主導工業化の過程でドル依存度を高めてきた東アジア全ての国々が望む解決策を代弁していると言えるだろう。

 <対米重視か東アジア追随か、G20の鍵握る日本>

 日本は米国─欧州間で深まった財政出動に関する溝を埋める役割に追われ、東アジアの代表者としての意味合いは極めて小さな役割にとどまっている。筆者には、この状況は、日本が推進役となり進めてきた過去10年のASEANプラス3金融外交を放棄し、その中心役が中国にとって代わられたように見受けられた。

 したがって日本のアジア金融外交も、G20金融サミット以降、大きく方向修正する可能性が高いと思われる。1960年代、世界の外貨準備に占めるドル比率は10%程度であったが、ポンド切り下げを契機に、70年代には米ドル準備の比率が9割超まで高まった。現在、財政出動以外の景気対策を模索する米国政府にとって、輸出増につながるドルの下落は魅惑的な政策手段である。

 しかし、英ポンド退潮の歴史に習えば、短絡的なドルの切り下げは、東アジアのみならず多くの新興国の外貨準備をドルからSDR建て金融資産へシフトさせるだろう。1968年のバーゼル協定により保証されたポンド価値保証の有効期限が経過した1970年代前半、クウェート、シンガポール、マレーシア、香港が、いっせいに自国通貨の対ポンド固定相場制を放棄し、米ドル固定制もしくは変動相場制を採用している。

 そして、この米ドルからSDRへのシフトが現実化した場合、世界第2位の外貨準備保有国である日本は、通貨金融外交上、戦後最大の選択を迫られることになる。すなわち、ドル価値を支え対米関係を引き続き重視するのか、国富である外貨準備の目減りを防ぐため東アジア諸国と行動をともにするのかである。

 そのときの日本の選択は、G20のパワー・オブ・バランスを変えてゆく可能性もあることを認識しておく必要がある。 

 永野 護 名古屋市立大学大学院教授、三菱総研客員研究員

 (8日 東京)

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