October 28, 2009 / 4:34 AM / 11 years ago

COLUMN-〔インサイト〕対米政策と東アジア共同体構想、EPA強化で両立可能=名古屋市立大 永野氏

 日本の政権交代により、今年ほど日本やその他の参加国間で、東アジアの首脳会合が注目される年もないだろう。そして1カ月の間に、米国が参加しない東アジアサミットと、米国主導のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が立て続けに開催されるのも象徴的である。タイのフアヒンで開催された東アジアサミットでは、米国へ東アジア共同体への参加を呼び掛けるメッセージが表明されている。この流れはシンガポールで開催されるAPECまでどのように展開して行くのだろうか。

 <東アジア共同体構想の理想と現実>

 もともと自民党時代の日本政府内でも、外務省を中心とするグループは、対米関係上の配慮から、日本の東アジア政策はASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3よりも、APECを重視すべきとの立場を主張してきた。

 しかし、東アジアとのEPA(経済連携協定)による「新成長戦略」の旗振り役・経済産業省や、ASEANプラス3財務相会合を日本のアジア金融外交の実践の場としてきた財務省は、二国間協定を通商金融政策の推進役とし、事実上の脱米国型アジア政策を進めてきた経緯がある。

 鳩山由紀夫首相が目指す「東アジア共同体」という語感の直観的なイメージは、欧州連合のような単一通貨を持つ政治同盟である。しかし、欧州では、英国、スウェーデン、デンマークなどのEU主要国がユーロには参加していない。2002年直後は、これらの国々の不参加が参加国より批判を浴びたが、最近はむしろ、参加国間でも、これらの国々の有権者の判断を尊重する空気である。

 翻って日本を考えた場合、民主党を支持した有権者は、首相の東アジア共同体構想に、通貨統合などの極端なゴールを期待しているのだろうか。例えば東アジア諸国に、欧州が単一通貨導入の要件として採用したマーストリヒト収れん基準を当てはめると、ほとんどの国/地域が参加不能となる。

 せいぜい通貨と中央銀行を共有できるのは日本と韓国のみという結論となるが、両国国民にその意思はないだろう。なぜなら、共通通貨により何を有権者が得られるのかが、イメージし難いためである。

 通貨以外の政治・経済面ではどうか。結論から言えば、域内での憲法の統一を目指すリスボン条約の可決が、EUでさえ困難を極めるのであるから、東アジアにおける共通の安全保障政策や司法制度の採用はほぼ不可能だ。

 その反面、EUの前身、EEC(欧州経済共同体、後のEC)のように、地域経済共同体を構築することは、現在発効中や交渉中のEPA、BSA(二国間スワップ取り決め)の強化により十分可能である。日本がこの10年間、なぜ世界の潮流であるFTA(自由貿易協定)ではなく、労働者の国家間移動や資格相互認証を含むEPAを重視してきたのか、その理念の原点に立ち返るべきである。

 <日中韓が鍵を握る理由>

 もともと日本政府が締結したEPAは、農業問題を含め数々の制約に直面した経緯もあり、発効後さらなる検討を前提に署名された協定が多い。例えば、それぞれ2008年に発効したインドネシア、フィリピンとのEPAが、近年ではその典型例である。

 現在、一部の協定で90%台前半に留まっている関税障壁撤廃率を99%まで引き上げ、さらに看護師・介護福祉士以外の専門技能職の国際間移動、投資協定、知的財産保護などを強化することで、事実上の東アジア経済共同体を形成することは、短期的にも実現可能である。

 ここでは、豪州とニュージーランド間で1983年に締結された経済緊密化協定(ANZCER)がお手本となる。ANZCERは、7年後の1990年に貿易品目100%の関税障壁撤廃を達成し、その後に専門技能労働者の移動、投資協定と、この20年弱の間にモノ、ヒト、マネーの順で段階的に経済統合を進めてきた。

 東アジア共同体構想の場合、むしろ実現可能性が問われるのは、歴史問題をはじめとする様々な障壁を抱える日中韓が、本当に東アジア共同体構想の「核」となりうるのかである。

 ASEANプラス3時代の10年間は、対ASEAN関係における日中の主導権争いが激化する一方、日中韓3カ国間での協力関係はほとんど進展していない。中国、韓国2カ国とのEPA締結交渉は、日本政府にとって4年後のマイルストーンとなるだろう。

 <対米政策と東アジア共同体は両立するのか>

 一見、手が付けやすく見える、EPA強化による東アジア共同体構想だが、このアプローチはともすれば米国を刺激しがちである。日本はこれまで、東アジアを中心とする10カ国1地域とのEPAを締結してきたが、逆に二国間協定がゴールであるがゆえに米国が黙認を続けてきたとも言える。

 しかし、地域経済同盟の先輩格、欧州の例を見るまでもなく、閉鎖的で排他的な地域統合は時代の流れとともに変化しつつある。東アジアでも、マレーシア等、脱米国型の共同体構想を強く主張する国々もあれば、米国との協定締結に前向きな国々もあるだろう。

 例えば日本と米国のEPAは、参加国こそ2カ国だが、このEPAはユーロ圏を上回る世界最大の市場を生み出すことを認識しておく必要がある。国際通貨基金によると、世界のGDPに占める米国の経済規模の割合は24%(2008年)であり、ユーロ圏の23%(同)とほぼ同水準である。米国に日本の8%(同)を加えると、ユーロ圏をはるかにを上回り、世界の32%を占める巨大市場となる。世界最大の市場誕生へ向けたEPA交渉は、客観的に見ても、日本の対米政策が対東アジア政策に劣後するものではない。

 欧州連合や東アジア以外に、中南米メルコスールや豪州・NZ経済緊密化協定の現状を見ると、21世紀の世界では、異なる通貨や憲法等、国家間の多様性を維持しながら、事実上の経済共同体を目指すオープン・アーキテクチャーな市場統合へ向かっていることがわかる。東アジアにおいても、開放的な仕組みの中で、対米政策を東アジア各国の判断に委ね、モノ・ヒト・マネーの移動性を高めてゆくことが理想である。

 永野 護 名古屋市立大学大学院教授、三菱総研客員研究員

 (28日 東京)

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