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〔特集:アローヘッド〕高速取引で証券業界の格差拡大へ、高まる再編のうねり
2009年12月21日 / 03:47 / 8年後

〔特集:アローヘッド〕高速取引で証券業界の格差拡大へ、高まる再編のうねり

 [東京 21日 ロイター] 取引の高速化で株式売買の景色が激変しそうな中、短期的な売買による利益を収益源としているディーリング専業や、経営に占める比率が高い中小規模の証券会社にとって、アローヘッド導入は死活問題になる可能性が出てきている。長らく中小証券がひしめいていた業界の地図を塗り替え、再編のうねりが高まる年になるのではないかとの声が広がっている。

 年明け後の株式市場では、目視で株価の微妙なアヤをとらえて稼ぐ「人間技」では太刀打ちできなくなる。東証は「投資家が注文を出そうとする間に、何度も取引が行われる可能性が生じる。動きが速いことからザラ場中の成り行き注文は慎重に行った方がいい」(市本博康株式部長)と指摘する。

 

 ディーリングを専業とする中堅証券会社に所属するディーラーは「外資系証券のアルゴリズム取引(コンピュータによる自動委託発注取引)が目立ってきた際にも、古いタイプのディーラーが淘汰(とうた)されるなど、ディーラーの世界は厳しさを増した」とした上で、「アルゴリズム取引の活発化とともに会社の収益が落ちてきた経緯から、業容は縮小や、場合によっては自主廃業も選択肢に入ってくるのではないか」と話す。

 目にも留まらぬ速さは相場の臨場感も薄れさせるため、影響は「古典的なディーリング売買ができなくなるだけではない。対面営業では電話で相場を実況中継のように顧客に伝えて注文を取るところもあるが、そうした古くからある営業手法が難しくなる」(野村総研・主席研究員の大崎貞和氏)といった声もあった。

 <高速化対応に巨大なコストの壁>

 

 東証システムの高速化に備えて、自社のシステム増強が取るべき施策と一般的には考えられるが、業界の実態は別のところにある。

 ディーリングの経営比重が高い証券会社では、特別な対応をしていないところが多い。ある中堅証券のディーリング責任者によると「外資系証券などに対抗してプログラム売買などを執行するため、システム分野に設備投資しようにもコスト負担が大きい。当面は様子を見ることになる」という。

 また、別の中堅証券のディーリング部長は「情報ベンダーのトレーディングツールなどの利用もあるが、従来のトレード手法がどうなるかは、ふたを開けてみないと分からない」と語る。

 岡地証券・投資情報室長の森裕恭氏は「『板』を読んでのディーリングは衰退する。コストとの見合いでシステムを増強できないのであれば、先行きディーラーは相場観で勝負せざるを得なくなる」と話す。

 

 見切りを付けるような動きも出ている。準大手証券の一角では「ディーリング業務は思うようにできなくなる可能性が高いので、エクイティ部の縮小も念頭に置いている」(ある国内系上場証券会社の幹部)との声があった。今年に入って廃業したある証券会社の会社の元社長は「(廃業の理由はアローヘッドが)一番ではない」としながらも、「ただでさえ収益が上がらなくなっているところに、売買の高速化によって既存のディーリングのモデルも通用しないようになれば、ますます利益が出しにくくなる」と指摘する。

 <勝ち組にもデータ処理速度の表面化リスク>

 他方、「アローヘッド」導入でアルゴリズム取引が縦横無尽に駆使できるようになり、「勝ち組」の立場を固めそうなイメージがある外資系証券や国内大手証券だが、どうも話はそう単純にはいかないようだ。

 現在の東証システムのスピードが遅かったため、従来は表面化してこなかった証券会社間のデータ処理の差がアローヘッド導入を契機に鮮明になることが想定される。フィデッサのマーケティング部統括部長、松原弘氏は「執行のスピードなど技術力で格差が浮き彫りになれば、国内と外資系でも顧客の注文をめぐって明暗を分ける可能性がある。これは大口の機関投資家向けだけではなく、個人向けのインターネット証券でも同様のことが言えそうだ」と話す。

 さらに「売買執行能力で最上位に位置するグループも、全体的に売買処理のスピードが速くなることで、これまでの優位性が薄れることも考えられる。米国でも取引所の売買スピード化が進んだ際、そうした事例が見られた」(米系信託銀行に在籍していたトレーダー)との指摘もあった。

 <コロケーションへの対応でも温度差>

 東証はアローヘッド導入とともに、取引参加者の自動発注サーバーなどを東証システムと同じプライマリーサイトに設置し、送信時間を極小化させるサービス、コロケーションをスタートさせる。このサービスを利用すると情報配信方法を多様化させ、注文発注の柔軟性を高めることができる半面、導入するには多額の設備投資を要するとともに、大口注文が入らないと投下費用を回収できないという事態にも直面してしまう。

 市場関係者の間では、コロケーションを導入するか否かでトレーディングの優劣が生じるとの見方もあるが、東証によると、12月上旬の段階で同サービスに対する引き合いが会員のうち10数社からにとどまっているなど、スタート時点から業界内で取り組み方に差がある状況だ。

 最良の取引条件で執行する最良執行に対する意識が高まると想定される中、売買の執行能力に差があれば、当然、能力の劣るブローカーの売買取次ぎ部門は淘汰の対象となろう。証券市場では、機関投資家が売買執行とリサーチなどをセットにして注文を出す動きが一般的だが、そうした商慣習が崩れることもありうる。

 野村総研の大崎主席研究員は「(アローヘッド導入後に)顧客が証券会社を評価する基準として、執行能力が重視されるようになりそうだ。良いリサーチをする証券会社と良い執行を行う証券会社、これらを組み合わせる、アンバンドリングと呼ばれる動きが広がることも考えられる」と分析していた。

 アローヘッドのスタートは、中小証券の既存ビジネスモデルを揺るがすだけにとどまらず、国内大手や外資のトレーディング業務に格差を生じさせ、業界再編への大きなうねりを生む契機になる可能性があり、年明けの証券業界は相場の先行きだけでなく、業界地図の変動にも神経質になりそうだ。

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 (ロイター日本語ニュース 水野 文也記者;編集 田巻 一彦)

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