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COLUMN-〔インサイト〕米消費の「ニューノーマル」志向と世界経済の行方=信州大 真壁氏
2009年10月23日 / 04:34 / 8年後

COLUMN-〔インサイト〕米消費の「ニューノーマル」志向と世界経済の行方=信州大 真壁氏

 最近の株式市場の推移を見ると、投資家心理が振れていることが分かる。人々の心の中で、景気回復期待が盛り上がったり、後退したりを繰り返している。実体経済は、短期間にそれほど大きく変わることはないはずだから、そうした振れは、景気を見る側の認識の問題なのだろう。

 多くの場合、人々の関心は、そのとき最も注目されるポイントに集中し、それに基づいて景気の状況を判断する。そのため一部企業の業績が改善していると「景気は回復している」との期待が先行し、逆に雇用状態の改善が遅れていると「本格的な景気回復には至っていない」という見方になりやすい。

 

 <フロー部分は大きく改善>

 

 現在の世界経済の状況を考えるとき、経済をフローとストックの2つの視点からみると分かりやすい。

 まず、経済のフローの側面から見ると、米国をはじめ世界の経済はかなり改善している。世界的に在庫調整が一巡し、主要国の積極的な経済対策の効果が顕在化しているからだ。それは、主要国のGDP(国内総生産)統計の推移を見ても明らかだ。わが国を例にとっても、リーマンショック以降の大幅な落ち込みに歯止めがかかり、すでに4─6月期はプラスになり、7─9月期も水面上に浮上すると予想される。

 回復が遅れぎみといわれている欧州でも、ドイツ、フランスは今年4─6月期にGDPはプラスになっている。米国では、雇用・所得環境の改善は進んでいないものの、企業業績には明るさが見え始めている。

 また、中国やインド、ブラジルなどの新興国は、政府の景気対策の効果もあり、経済はかなり元気を取り戻している。今のところ新興国の経済が世界全体を持ち上げるほどのマグニチュードはないものの、新興国向け輸出の拡大や、新興国の株式市場の上昇などのパスを通って、世界経済に明るい要素を提供している。

 

 <ストック部分の調整、いまだ終わらず>

 

 一方、ストック面に目を移すと、見えてくる景色はかなり異なる。米国など主要先進国を中心にまだ、大きな課題が残っているからだ。米国の住宅価格は下げ止まりの兆候を見せているものの、11月には政府の初期住宅取得者に対する8000ドルの減税措置が終了する。その後の住宅価格の展開については、完全に不透明感を拭い去ることはできない。 

 また、下落傾向を鮮明化している商業用不動産の価格には、今までのところ、下げ止まりの兆候が見られない。それに伴い、米国内の地方の中小金融機関の貸し出し債権は、かなりの痛手を受けている。このことは銀行破たん件数が100件近く(10月初旬現在)に上っていることを見ても明らかだ。

 さらに今、人々の記憶の中で存在感が低下しているファニーメイや、フレディーマックが発行した債券についても、一時期のような混乱は収まったものの、流動性の回復や価格の戻りは遅れている。現在でも、FRBが市場を支える構図に大きな変化はない。

 大規模なバブルを経験した世界の主要国でも、いずれも大同小異という状況と考えるべきだ。世界的にまだストック面の問題が残っており、依然、世界経済は不安定さを完全に払しょくできたとは言い難い。

 

 <フローとストックは表裏一体>

 

 フローとストックとは、経済活動の表裏一体の関係にある。フローで儲けた資金が集まって、ストックベースの資本の蓄積となり、逆にストックベースの資本がき損すると、フローで稼いで資本のき損部分を修復することになる。それは個人でも同じだ。毎月の給与をためて貯蓄を行い、その貯蓄を使って住宅などの資産を購入することになる。

 今回のように、バブルによってストック部分が大きくき損すると、フロー部分の収益で、そのき損部分を簡単に埋め合わせることができなくなる。そうしたケースでは、人々はとりあえずストックのき損を忘れて、フローベースの経済活動に目をやることで、心理状態を改善させたくなる。ストックのき損部分に目をつぶり、フローの改善部分だけ見ていれば、なんとか元気になれるからだ。

 ただ、悪いことに目をつぶっていても、問題の解決にはならない。フローの改善に停滞感が出たり、ストック部分のき損が拡大するようなことがあると、人々は、どうしてもストック部分に目を向けざるを得なくなる。現実の問題を直視すると、時として、事の重大さに嘆息することになる。現在はまさに、そうした状況なのである。

 

 <新興国が大国化するまで望めない世界経済の高成長>

 

 もう1つ、経済状況を考える上で無視できない要素がある。それは人々のマインド(心理)だ。元々、人間の心理は、経済学者が想定したほど合理的に動くものではない。時に人は、理屈では正当化できないようなことを行うことがある。だからこそ、数年に1回程度、伝統的な理論では想定しないような価格の変動=バブル、が発生するのである。何かみんなが、それとなく納得するようなレトリックがあれば、人々は、簡単に流されてしまうことがある。

 逆に、あるとき、ふとわれに返って「馬鹿なことをした」と反省するとき、人々は、筆舌に尽くしがたいほどの悔恨の念をもつ。そこでようやく学習効果が働く。というよりも、学習効果が働きすぎて「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」現象が発生する。

 今度は、恐怖心が過度に働きすぎて、安値で買っておけば儲かる機会を敬遠する。そのために株式などの金融資産の価格は、時にオーバーシュートすることになるのである。

 

 景気についても、ほぼ同じことが言える。昨年のリーマンショックの直後は、ほとんどすべての人が、一種の世紀末的な暗い感情にとらわれ、下を向いて、お金を使うという行動を削ったのである。そうなると経済は、一時的にフリーフォールの状態になってしまう。そうした状況がひとしきり続いた後、人々の心理は少しずつ正常に戻り、いずれかの段階で「冷静に考えれば、景気が永久に下落することはない。いつか底を打って上昇し始める」という考えに到達する。

 問題は、人々がそうした心理状態に行き着いたとき、ストック調整という課題が残っていることだ。自分の身の回りに「バブルの残骸」が残っていることに気がついても、以前のように、過度に悲観的になることはない。

 しかし、まったく無頓着にお金を使える状況でないことが分かる。そうなると不要不急の出費を抑えて、できるだけ効率よく生活しようとするはずだ。つまり適切な学習効果によって、それまでのような放蕩(ほうとう)生活から離脱するのである。それが一部の経済専門家が言う「ニューノーマル」という経済状態だろう。

 先進国の中でも特に米国の家計部門が、「ニューノーマル」という新たな定常状態を指向すると、世界経済はすぐに以前のような好調な経済状態を再現することは難しい。当面、相対的に低い成長率が続くことになるはずだ。時を経て新興国の経済規模は大きくなり、世界経済全体を持ち上げられるようになるまで、世界的な高成長を期待することは困難だろう。

 

 真壁昭夫 信州大学・経済学部教授

 (21日 東京)

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