January 13, 2010 / 4:34 AM / 10 years ago

COLUMN-〔インサイト〕ライツ・イシューに死角はないか=野村総研・大崎氏

 最近、株式市場関係者の間で、ライツ・イシュー(rights issue)と呼ばれる資金調達手法に対する関心が高まっている。これは、上場会社が既存の株主に対して、時価よりも低い価格で株式を購入できる新株予約権(ライツ)を無償で割り当て、その行使を受けて新株を発行するという増資手法である。

 1960年代まで日本の上場会社による増資の主流だった株主割当増資の変形だが、通常の株主割当増資とは異なり、ライツ・イシューでは、割り当てられた新株予約権を市場で売却できる。このため発行会社側は、失権株の数を少なく抑えることができるし、株主側は払い込みの権利を行使しなくても、新株予約権の売却でいくらかの資金回収が可能となる。

 さらに一定の期日に発行会社が未行使の新株予約権を取得できる取得条項を付しておき、証券会社などが会社の取得した新株予約権を譲り受けて全て行使するというスキームにしておけば、株主による払い込みの割合にかかわらず、予定通りの金額を調達できるだろう。

 <日本でも実施可能に>

 ライツ・イシューは、会社法が既存株主による優先的新株引受権(pre-emption right)を保障しているイギリスを初めとするヨーロッパ諸国では、増資の一般的な形態である。一方、日本では1970年代以降、時価による公募(募集)が一般化したほか、戦略的提携先などに株式を割り当てる第三者割当増資が広く行われており、ライツ・イシューは例がない。

 ライツ・イシューが行われない理由の1つとして、東京証券取引所(東証)の上場基準の問題点が指摘されてきた。従来、東証の上場基準では、予約権1個が株式1株に相当するものしか上場が認められなかった。これでは倍額増資など非常に規模の大きい増資にしか使えない。しかし、昨年末の上場基準改正で、予約権1個で株式0.2株といった端数の生じる予約権の上場が認められることになった。

 また、開示書類の提出時期に関する法令の規制などから、ライツ・イシューでは公募や第三者割当増資に比べ、発行決議から実際の資金調達までの期間がかなり長くなるとの指摘もあるが、この点についても、当局は制度見直しに前向きだとされる。近い将来、日本でも上場会社によるライツ・イシューが実現する可能性が高くなってきた。

 <なぜ今ライツ・イシューか>

 ライツ・イシューが関心を呼んでいるのは、日本の上場会社による増資の手法が、既存株主の利益を軽視しているとの批判が絶えないためである。例えば、大規模な第三者割当増資によって、既存株主のあずかり知らぬところで経営支配権が異動したり、議決権が大幅に希釈化するといった事例が多数みられた。こうした株主の利益を損ないかねない第三者割当増資に対しては、昨年8月の東証の規則改正で、株主の納得性を高めるための措置を講じることが要求されるようになった。しかし、取引所による規制の対象ではない公募増資に対しても、とりわけ大規模なものは、既存株主の権利を希釈化するとの批判が根強い。

 これに対してライツ・イシューであれば、権利の希釈化を嫌う株主は払い込みに応じれば良いので、大規模な増資を行う場合でも既存株主の理解を得やすいとの見方がある。英国など海外の機関投資家にもなじみのある増資手法という点も、ライツ・イシューが注目される理由の1つとなっている。

 <ライツ・イシューも使い方次第>

 もっとも、ライツ・イシューが既存株主にとって、公募や第三者割当増資よりも絶対的に優れた増資の方法だというような理解は誤りである。

 そもそも公募であれば、希釈化を嫌う株主は、公募に応じるなり市場で買い増しするなりして、持ち株比率を維持することも可能である。公募が時価で行われるのに対し、ライツ・イシューであれば時価より低い価格で株式を取得できるので有利だという誤解もあるが、時価より低い価格で新株を発行すれば、ふつうは株価が下落するので、既存株主が発行決議時点の時価と発行価額の差額を享受できるわけではない。大規模な公募が株価を押し下げるとの批判も目立つが、これは大規模なライツ・イシューであっても同じことだろう。

 一方、東証が規制を導入したこともあり、第三者割当増資という手法そのものを悪玉視する向きもあるが、これも誤りである。既存株主の権利にも配慮しつつ、企業価値の向上につながる第三者割当増資は十分可能であり、公募に比べて機動性が高いとか発行費用を抑えることができるといったメリットも大きい。

 逆に、ライツ・イシューが悪用される懸念もある。新株予約権の行使には現金が必要なので、零細な個人株主の行使率はかなり低くなるとも想定できる。それを見越して、新株予約権に取得条項を付しておき、発行会社が特定の投資ファンドなどに取得した未行使の予約権を一括売却すれば、会社法の有利発行規制や東証の第三者割当増資規制を潜脱するような資金調達も可能になりかねない。

 ライツ・イシューが実現し、上場会社の資金調達方法の選択肢が増えるのは結構だが、どんな資金調達方法にも一長一短がある。増資をすれば1株当たりの利益が短期的に希釈化するのは当たり前であり、それを過度に問題視したのでは、株式上場の最大の目的である株式発行による資金調達が不可能になる。上場会社としては、小手先の工夫に頼ることなく的確な財務戦略を練って欲しいものだ。中長期的な成長戦略をしっかり提示できるのであれば、公募であれ第三者割当増資であれ、丁寧に説明すれば株主の理解は得られるはずである。

 

 大崎貞和 野村総合研究所研究創発センター 主席研究員 

 

 (東京 13日)

 

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