June 23, 2010 / 4:33 AM / 9 years ago

COLUMN-〔インサイト〕イスラム金融を日本法に適用する際の考え方=国際協力銀 吉田氏

 <法令面の理解が必要>

 イスラム金融という言葉自体は、日本でも既にある程度受け入れられる存在になったと言ってよいだろう。もちろん万人が全貌を理解しているとは思わないが、金融に関係したり中東や東南アジアでビジネスに従事したりする人々の間では、一定の知識を有する人が多くなった。

 他方、現在の日本の金融機関があらゆる面でイスラム金融をできる状況にあるかというとそうではない。邦銀の海外拠点においていくつかの実績はあるにせよ、日本の銀行が行う業務として法的に認められるか、税務の観点からどう扱うのか、会計処理はどうするのか、リスク管理上の整理はどうすればよいか、こうした業務を各分野で担う人材をどのように育成するのか、役員・管理者はきちんと関与できるかなど、実務を行う上での課題はまだまだ多い。

 とりわけ、イスラム金融が法的に可能であるかという点については、多くの関係者の間で誤解があるように思われる。本稿ではイスラム金融に関する日本の法令面の現状と方向性を整理し、日本関連の取引の実現可能性をより高める一助としたい。

 

 <多くみられる誤解>

 誤解の中で比較的多いのが「日本法上、イスラム金融取引はできない」という考え方である。また、その次に多い誤解は「2008年12月の法令改正で銀行がイスラム金融をできるようになった」との誤解を持っている人も少なくない。

 日本の法律上可能なイスラム金融取引は次のように整理されると考えられる。まず、大原則として、日本では、マレーシアのようにイスラム金融の特別法があるわけではないので、各取引に応じた法律の構成要件を満たすようであれば日本法上の取引として認められることとなる。このため上述の第1の誤解は、十把ひとからげに「イスラム金融はできない」と言っているところが誤りである。そもそも「イスラム金融は日本法上不可能」という認識は、銀行分野にのみ(部分的に)当てはまるものであって、その他の金融分野について適用されるべきものではない。

 上述の誤解が広まった背景には、銀行法第12条の他業禁止規定(銀行は同法11、12条に規定された業務以外は営んではならない)があると思われる。イスラム金融の代表的取引手法に、ムラバハ(割賦販売に似た取引)やイジャラ(リースに似た取引)など商品の売買・貸借を伴うものがあり、商品を伴うのであれば銀行法の規定する金融業務に該当しないと考えられているため、こうした取引は不可能という考え方である。

 しかし、この考え方は2つの点で誤っている。1つは、本条項はあくまで銀行法に基づく銀行向けの規定であって、金融商品取引法や保険業法で扱われるべき証券や保険等の業務については、この条項の規定に従わないという点である。もう1つは、ムラバハやイジャラについては確かにそうした考えも成り立つと思われる一方で、たとえ銀行の業務にスコープを絞っても、イスラム金融の取引は上述のものに限られず、ムダラバやムシャラカなどを用いた出資系業務については、法的にも大枠で問題がないとみられることである。

 <法令改正のポイント>

 上述の第2の誤解の訂正とともに、2008年12月の法令改正のポイントをあらためて説明しておく。2008年の銀行法施行規則が改正され、第17条の三の2の二の二として、イスラム金融を是認することが法的に認められた。ただし、本条項で業務を認められた主体はあくまで「銀行の子会社」なのであって、いわゆるメガバンク等の「銀行」の本体ではない。残念ながら、こうした誤解は海外にも広くまん延しており、公的機関による立派な調査資料にもこうした記述は載ってしまっている。

 要点を繰り返すと、イスラム金融には各種異なる取引形態があり、それらが日本法に照らして可能か不可能かを問うという作業が必要になってくるのであり、イスラム金融の特別法でも作らない限り(日本でこうしたアプローチが採られる可能性は限りなく低いが)、決して「イスラム金融はできない」「イスラム金融をできるようにする」といった総論になるわけではないと考えるべきであろう。なお、この点、シンガポールのMAS(金融管理局)は2009年5月、「銀行規制のイスラム金融への適用に関するガイドライン」を制定し、ある程度包括的に銀行関連法規との関係を明確化しており、関係者の参考になるだろう。

 <税制面での対応も不可欠>

 業務分野に関する法的整備に加え、税務面での整備も重要な課題である。イスラム金融取引が法的に問題なくできたとしても、税務面での対処不足により同等の取引をイスラム金融方式とした場合にコスト高となってしまうようであれば、イスラム金融にしようとするインセンティブが大幅に薄れてしまうからである。

 実際、英国やシンガポールなどは、いくつかの取引形態で生じていた税務的に不利な取引を、イスラム金融にした場合でも一般の金融(コンベンショナル)の場合と同等の税率にとどまるよう税制を改正した。例えば、土地取引に関する割賦販売に似た取引(ムラバハ)が代表的な事例である。ムラバハによる土地購入取引では、土地を取得しようとする人は、銀行にその土地を購入してもらって再販売を受ける格好となる。購入者は銀行に対し当初価格以上の金額を払うが、利子に似たものではあるものの土地購入代金の一部となるため、イスラムの禁じる利子には当たらない。

 しかしながら、税務面で何の対処もなければ、販売者─銀行、銀行─購入者という2つの取引が生じてしまい、本来的には1つで済む土地取引に関する税が二重にかかることになってしまう。英国やシンガポールは「同条件の取引をイスラム金融方式にすることで不利になってはならない」という原則の下で、こうした取引の場合に二重課税にならないような法的措置を講じたのである。なお、適切な税制を整備する上で、会計処理との関係についても十分に考慮される必要がああるだろう。

 <必要な連携>

 日本についても、民間セクターや当局が一体となって、業務分野面ならびに税制面での取り組みがなされることが期待される。笑い話でもないのだが、金融における新規分野について、民間セクターからは「当局に主導してもらいたいが、当局の考えが分からない」といった声が聞かれ、当局からは「民間セクターからの要望がなくては動きにくい」といった指摘がある。

 現在のイスラム金融がこうした状況にあるわけではないが、イスラム金融が日本で成立する上では、民間事業者と当局のほか、弁護士や海外事情に詳しい研究者等のエキスパートが情報交換を密にしつつ、適切な枠組みを整えていく必要がある。

 日本の金融・資本市場が世界から孤立しないためにも、こうした体制整備により、イスラム金融が提供できないということのない市場になることを望む。

  

 国際協力銀行・アフリカ室調査役、早稲田大学ファイナンス研究センター・客員准教授 吉田悦章

 (23日 東京)

 

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