December 24, 2010 / 4:34 AM / 8 years ago

再送:COLUMN-〔インサイト〕米金利上昇が示唆するリスクプレミアム=第一生命経済研 熊野氏 

  <米国経済への潜在的不安は続く>

 

 オバマ政権のブッシュ減税延長は絶妙のタイミングだったが、長期金利上昇の副作用を軽視すべきではない。バランスシート調整には、金利上昇がマイナス効果を及ぼすからだ。ドル円レートをみても、米長期金利が3.5%前後まで上昇すれば、もっと円安になってよいはずなのに、そうはなっていない。そこにはリスクプレミアムが加わっていると考えられる。

 

  <絶妙のタイミングだったブッシュ減税延長>

 

 世界経済全般に、悲観から楽観方向へのシフトが感じられる。特に、米経済を巡っては、経済政策の発動が鍵になって、何とか最悪期を通過したと考えられる。ポイントは、オバマ政権がブッシュ減税を延長したことである。オバマ大統領は、これまでの富裕層への減税停止を翻して、25万ドル超の家計にも減税を継続する方向転換を決めた。これは、2011年初に予想された個人消費の減速懸念を取り除く上では大きな威力があったと考えられる。中間選挙の敗北によって、2年後の大統領再選も危ういと思わせたことが、景気悪化要因に先手を打たせた背景なのだろう。

 この時期に、減税延長を決めたことは絶好のタイミングだったと言ってよい。雇用統計やISM製造業景況指数は、11月初から改善方向に変化を始め、クリスマス商戦も堅調を維持しそうである。FRB(連邦準備理事会)は11月にQE2(量的緩和第二弾)を発動し、その影響も手伝って株価上昇が進んだ。米個人消費には株価上昇に伴う資産効果も表れてきているので、富裕層への減税延長は今の流れを後押しする役割を持っている。オバマ政権の経済対策は、8580億ドルの規模で、給与税減税や設備投資減税を含んでいるので、2011年の米国経済にはプラス効果を及ぼすことになるだろう。

 

  <長期金利上昇の副作用>

 

 問題は、こうした大型の経済対策は長期金利上昇という副作用を伴うことである。長期金利上昇は、経済対策の好影響を減殺する効果があり、ネットアウトして米国経済がどこまで前向きな刺激を受けるかが今後の焦点とも言える。

 筆者は、「短期楽観、中長期は慎重」という見方である。ブッシュ減税の延長は、実によいタイミングで下した英断だと考えるが、その効果が十分に雇用拡大につながるかどうかは慎重に見ているからである。商務省の個人所得・支出統計では、米家計の所得環境がどう変化するかを捉えている。可処分所得ベースでは所得拡大は続いているが、それを支えているのは公的支出や減税による支援である。民間部門の賃金はまだ拡大ペースが鈍い。民間の所得形成力が弱いのは、民間サービスというよりも、製造業など財部門の回復力が力強さを欠くせいである。オバマ大統領の提唱する中間層の再生や製造業の復活という質的な変化は、まだ十分に達成されていない。だから、マクロ環境を支えるために、富裕層への実質増税という方針を取り下げざるを得なかったと言える。

 

 こうした家計につきまとう脆弱性は、リーマンショックないしサブプライム・ローン問題の後遺症にほかならない。GDPの項目の内訳をみても、個人消費以上に、企業・家計の投資活動の停滞の方が目立つ。最も低迷しているのは、住宅部門の投資であり、次いで商業用などを含む構造物投資も回復力が乏しい。

 これは家計のバランスシート調整がまだ道半ばであり、過剰債務の解消が完了していないことの表れだとみることができる。家計債務の対可処分所得比は、2007年央の130%のピークから、2010年7─9月は118%まで下がってきているが、90年代のトレンドラインに戻るのにはどんなに早くても1年半はかかる。そこへ金利上昇というショックが加われば、債務返済の進ちょく度は落ちてしまう。米国内への投資活動に対しても、金利上昇の影響はマイナスである。

 達観すれば、バブル崩壊後のバランスシート調整は、債務返済という需要吸収作用を及ぼし、マクロ経済政策を機能不全に陥らせる。さらに、金利上昇というショックは債務返済自体を逆行させるリスクを持つ。QE2や減税延長は、債務の拡大のペースを抑えて、減税が間接的に債務返済を後押しするというメカニズムで評価できる。しかし、そうした作用も、長期金利上昇という副作用によって差し引かれるところが留意すべき点である。

 

  <為替に織り込まれたリスクプレミアム>

 

 日本にとっては、米国の長期金利上昇は間接的にプラス効果も持っている。それはドル円レートが、日米金利差の縮小を通じて、円安・ドル高の方向に動くからである。一時は1ドル80円まで進んだ円高は、11月初のQE2の発動を境にして円安方向に反転した。その後、米長期金利は、ブッシュ減税延長の影響などを受けて3.5%前後まで上昇した。本来ならば、3.5%前後までの長期金利上昇があれば、日本の長期金利との金利差は大きく拡大して、円安も大きく進むはずだと考えられる。筆者の計算では、米長期金利が3.5%になれば、ドル円レートは計算上1ドル=88─91円程度まで円安に振れてもおかしくない。

 しかし、そうはならないのは、米長期金利上昇の中に、財政再建の遅れを予想するなどの要因で、リスクプレミアムが内在しているからだと考えられる。ざっくりと計算すると、米長期金利が2.5%から3.5%前後まで上昇した変化幅のうち、約5割がリスクプレミアム要因、つまり「悪い金利上昇」であり、残り5割が景気拡大を先取りした金利上昇だと計算できる(計算の仕方ではもっと「悪い金利上昇」のウエートは大きくなる)。

 こうした「悪い金利上昇」の副作用は、おそらく、2011年後半の米経済に表面化してくるだろう。時々刻々と発表される景気指標をみながら、QE2や財政政策の効果が思ったほどは好影響につながっていないという反応が、株価や為替レートを動かすことになるだろう。そうした意味で、日本にとって為替レートの変動は2011年後半には再び不安定要因になってくるリスクがあるだろう。現在上昇している米長期金利も、経済対策の有効性が乏しくなってきたと金融市場が評価を変えてくれば、どこかでピークアウトして上昇から低下に向かう可能性もある。2011年は、そうした不安定性に警戒するべき年だと考える。

 

 第一生命経済研究所 主席エコノミスト 熊野 英生

 

 (24日 東京)

 

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターの第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターは第三者からコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されたいかなる見解又は意見は当該第三者コンテンツ・プロバイダー自身の見解や分析であって、ロイターは、それらを是認せず、またはそれらの正確性についても保証しません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below