December 10, 2010 / 4:33 AM / 8 years ago

COLUMN-〔インサイト〕高まるアジア安全保障の経済価値、資源エネルギー外交強化が緊張緩和の鍵=名古屋市立大 永野氏

  <高まるアジア地域の安全保障コスト>

 

 朝鮮半島では北朝鮮による韓国・延坪島砲撃以降、一触即発の状況が続いている。日本においても、尖閣諸島での中国漁船衝突事件、メドベージェフ大統領国後訪問など、国境問題を巡る様々な出来事が、この数カ月間、頻発している。北東アジア情勢が恒常的に緊迫の度合いを高め続ける背景には、中国の国防力増強、ロシア経済の再興、北朝鮮体制の政権移譲など多様な要因があるとみられている。しかし、以前ほど、米国主導の安全保障体制がこれらを事前に抑止できていないことも事実だろう。

 

 冷戦時代、そして冷戦崩壊から現在までの20年間、日本及び多くの東アジア諸国は、米国が約束する安全保障の下で、輸出主導型の経済発展を続けてきた。この輸出の最大の相手国は米国であり、米国の家計需要に自国の成長を依存し、さらには安全保障面でも米国に従属する時代が長く続いてきた。このため、この時代の東アジアは、米国一国に外交政策を集中すれば、「経済成長」と「安全保障」の2つの政策目標が同時に達成可能であった。

 しかし、リーマン危機後、低迷する米国経済に代わって同地域を牽引しているのは中国経済である。この結果、経済成長の牽引者が中国、安全保障は米国となり、通商外交と安全保障政策の交渉相手の不一致が、戦後初めて東アジアで生じている。冷戦崩壊後の経済移行期を経て、市場経済システムを具備した中国は、ロシアとともに高い経済成長率を達成、財政規模も拡大し、結果的に軍事予算増をも手にしている。米国経済の低迷と、中国、ロシアの成長が今後も長期的に続けば、東アジアの安全保障体制も、いずれ変革を余儀なくされるだろう。いかにすれば、安全保障のコストを高めずに持続的な成長が可能となるのか、東アジア経済の将来にとって、今ほど安全保障政策が重要性を高めている時代はない。

 

  <経済的側面から見た中国の戦力増強>

 

 シンクタンク数社の経済予測を総合すると、中国経済は2030年頃、世界のGDP規模の24%を占め、現在の米国とほぼ同水準に達する。しかし、仮にGDP比で2%とされる直近の中国国防予算が過少公表であるとしても、近年の増加テンポでは、2030年時点の中国の国防費は現在の米国の6600億ドルの半分程度にしか達しない。その意味で、対GDP比で4%を超える国防費を拠出する米国は、20年後も世界で突出した軍事予算を拠出していることになる。

 

 しかし、この米中間の国防費格差は、アジア地域、特に北東アジアの安全保障が今後も安泰であることを意味しない。

 第一に、経済成長率を超えて拡大し続ける中国の国防費の使途は、主として旧式戦力の近代化に向けられていると言われる。米国の巨大な国防費が横ばいもしくは減少へ向かえば、両国の技術格差縮小も急速に進む。第二に、米国は現在、例えば海上戦力一隻当たり1.7万トン(中国は0.1万トン/隻)といった、資本集約型の戦力を東アジアに集中配備することで、抑止力を機能させてきた。在日・在韓米軍の兵力は、3.6万人に過ぎず、中国が空母を建造するなど、単位当たりの海上戦力規模の格差が縮小すれば、同地域の安全保障は直接的にこの影響を受ける。

 陸上戦力、海上戦力、航空戦力のうち、中国が海上兵力を重点的に増強する理由は、海洋権益の確保、台湾問題の対処、エネルギー海上輸送路の確保の3つがあると言われる。特に近年は、10%近い経済成長が続くことでエネルギー・資源需要が急増、海洋権益確保が最大の目的となっている。尖閣諸島問題のみならず、韓国との間の蘇岩礁問題、ベトナム等に対する西沙諸島問題、ASEAN諸国との間の南沙諸島問題を抱えるのは、このように中国の国内経済情勢と密接な関係がある。

 

  <安全保障と資源エネルギー外交の歴史>

 

 マクロ経済情勢と深く関係する北東アジアの将来の安全保障において、どのような通商外交政策が、「安心・安全な社会」の再構築に貢献するのだろうか。現在の欧州連合(EU)の礎となった欧州石炭鉄鋼共同(ECSC)は、終戦から5年後の1950年に設立されている。目的は、戦乱が続いた欧州において、この再発を防ぐため、エネルギー資源や鉄鋼といった軍備に必要とされる資源開発を共有することで、互いの国々の安全保障を担保することにあった。エネルギー資源共有化の結果、市場統合といった経済面での進化のみならず、リスボン条約等の政治・法制度面での統合へも進展した。

 

 この欧州の経験は、資源エネルギー外交が地域の政治関係の強化へつながった好例である。もし中国が関わる領海問題の背景に、高成長経済とエネルギー消費の急増があるとすると、資源エネルギーを巡る通商政策の進展はひとつの緩衝役となりうるはずである。実際、1994年のカーター元大統領訪朝では、エネルギー支援策が朝鮮半島情勢の安定化に多大な貢献をもたらしている。

 米国経済の長期低迷の可能性が高まる中、今後も東アジアでは、中国、ロシア、インドの経済面でのプレゼンスが高まり続けるだろう。過去の経済連携協定(EPA)を中心とする東アジアの通商政策は、締結国に数多くの成長機会をもたらした。今後の通商外交は、成長のみならず、地域の安全保障に貢献するための資源・エネルギー外交の位置づけを高める必要がある。 

 

 永野 護 名古屋市立大学大学院教授、三菱総研客員研究員

 

 (10日 東京)

  

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