February 24, 2011 / 12:03 AM / 9 years ago

COLUMN-〔インサイト〕ナショナリズムは取引所再編を阻むか=野村総研 大崎氏 

 2011年2月、有力取引所間の二つの経営統合合意が、相次いで発表された。一つは、ロンドン証券取引所(LSE)グループとトロント証券取引所などを運営するTMXグループの統合(9日)であり、もう一つはニューヨーク証券取引所(NYSE)などを運営するNYSEユーロネクストとドイツ取引所の統合(15日)である。

 

  <第二幕が開いた取引所再編>

 

 二つの統合は、2000年以降本格化した国境を越えた取引所再編が、金融危機という幕間を経て、本格的に第二幕に入ったことを示すものだ。再編劇の第一幕は、2006年から2007年にかけてのNYSEユーロネクスト、ナスダックOMXという二つの大西洋にまたがる国際的な取引所グループの登場でクライマックスに達した。第二幕の序曲は、昨年10月に発表されたシンガポール取引所(SGX)とオーストラリア取引所(ASX)の統合合意である。

 

 かつては、取引所と言えば非営利の会員制組織が一般的だったが、いまやシステム産業化し、ATS(代替執行市場)、PTS(私設取引システム)などと呼ばれる取引所外の電子取引システムとの厳しい市場間競争にさらされている。このことを象徴するのが、2月18日に発表された米国のBATSグローバル・マーケッツによる英国のATSチャイエックス・ヨーロッパの買収である。両者の運営する欧州株取引システムが統合されれば、その取引金額は、これまで欧州最大の株式市場であったLSEを上回ることになるのである。

 

 こうした中で、各国の取引所は、国境にとらわれない統合を進めることで、企業規模を拡大して次世代のシステム構築に向けた大規模な投資に備えるとともに、成長が期待されるデリバティブ取引の強化を図ろうとしているのである。

 

  <国内世論の反発も>

 

 一国の株式や債券、デリバティブ取引のための市場というインフラストラクチャーの管理・運営機能を担う取引所は、多くの国で自主規制機関としての位置づけを与えられるなど、高度の公益性を帯びている。それだけに、取引所が多国籍化することには、一般事業会社とは異なる難しさも伴う。

 

 実際、実質的にSGXによる買収となるASXとの経営統合計画に対しては、オーストラリアの一部政治家から、国益に反するのではないかといった反対意見が上がった。NYSEユーロネクストとドイツ取引所の統合計画に対しても、新会社の株式の60%をドイツ取引所の株主が保有することとなり、取締役会の構成も9人がドイツ取引所から、6人がNYSEユーロネクストから指名されることになるといった点をとらえて、「米国の取引所がドイツに乗っ取られる」といった批判が生まれている。

 

 こうした情勢に配慮したのか、SGXとASXは、2月15日、統合計画の細目を見直し、これまで15人中4人をASX出身者とすることを内定していた統合会社の取締役会の構成について、13人のうち5人をオーストラリア人、5人をシンガポール人とすると発表した。NYSEユーロネクストとドイツ取引所との統合計画についても、米国内の反発が収まらないようであれば、今後、何らかの修正が加えられたり、修正をめぐる合意が整わないために破談に至る、といった展開の可能性を念頭に置いておく必要があるだろう。

 

  <批判は合理性を欠く>

 

 もっとも、一国の取引所が外国企業の傘下に入ることで、具体的にどのような弊害が生じるのかは必ずしも明らかでない。誰が株主であれ、取引所に対しては国内の法令が適用され、問題があれば規則の認可拒否や制裁的な行政処分がなされる仕組みとなっているのが通例だ。日本の金融商品取引法では、役員の解任命令という手段すら設けられている。従って、例えば、外国運営会社の母国の企業に一方的に有利な上場規則を設けるとか、国内の証券会社が不利になるような仕組みや手数料体系をとる、といったことが行われる可能性はほとんどない。

 

 より現実的な可能性として考えられるのは、取引所を支配する外国企業が、ある国の取引所の運営を続けることが採算上難しいと判断し、撤退してしまうことだろう。しかし、そのような事態が生じる場合は、当該外国企業の判断が合理的なものであれば、国内の取引所運営会社であっても市場を維持することは難しいだろう。他方、当該外国企業の判断が不合理なものであれば、取引所運営への参入規制が過剰に厳しいものでない限り、国内資本(あるいは別の外国資本)による取引所が取って代わることになるだけだろう。

 

  <自国中心主義が妨げに>

 

 このように、一国の取引所が他の国の企業に支配されることへの反対論は、「外資」に対する漠然とした不安に基づく感情論に過ぎず、合理的なものとは言えない。しかも、かつてNYSEによる欧州のユーロネクスト買収を歓迎した米国の世論が、ドイツ取引所による買収には反発するという事実からも明らかなように、偏った自国中心主義的な感情論なのである。

 

 一連の統合計画に関する報道を受けて、日本国内でも「東証はアジア戦略を強化すべき」といった主張がなされたが、そうした見解を支持する論者は、果たして東証のアジア進出だけでなく海外の取引所による日本市場への進出も歓迎する「度量」を持ち合わせているのだろうか。率直に言って筆者は、いまの日本社会の大勢が、中国や韓国、あるいはシンガポールの資本が東証を支配することを素直に受け入れるのは難しいのではないかと判断している。

 

 前述のSGXとASXの統合見直し案は、日本国内でしばしば批判される「対等」にこだわる企業合併を彷彿させるような内容である。経営者自身が合理的とは考えない内容を必ずしも合理的な根拠に裏付けられない「国益」や「世論」に配慮して採用するのであれば、新会社の経営は非効率なものとなりかねない。「外資」に対する不合理な不安感や身勝手な自国中心主義が、真に競争力の強化につながる取引所再編を妨げる危険性は大きい。

 

  大崎貞和 野村総合研究所未来創発センター 主席研究員

 

  (24日 東京)

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

 このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターの第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターは第三者からコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、第三者コンテンツ・プロバイダーによって提供されたいかなる見解又は意見は当該第三者コンテンツ・プロバイダー自身の見解や分析であって、ロイターは、それらを是認せず、またはそれらの正確性についても保証しません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below