April 27, 2007 / 5:00 AM / 12 years ago

COLUMN-〔インサイト〕円安で解消した内外価格差=エコノミスト・岡田氏

 岡田 靖 エコノミスト

 

 かつて日本の抱える深刻な構造問題として「内外価格差」が存在した。消費者は「なぜ同じような商品でも外国で買えば安いのに、国内では高価なのか」と不満を募らせていたし、企業家は「日本の物価高が製品コストを押し上げ、競争力を奪い取っている」と主張していたのである。

 だが、今日では「内外価格差」という言葉を聞くことはほとんどないと言ってよいだろう。深刻な構造問題だったはずの内外価格差がなぜ取りざたされなくなったのか。理由は簡単である。内外価格差はほぼ解消してしまったのである。

 

 <物価の下落で実質的な円の下落が進む>

   

 日銀が毎月公表している「名目実効為替レート」「実質実効為替レート」というデータが存在する。前者は円と主要な他通貨間の為替レートを貿易ウエイトで加重幾何平均したうえで、基準時点を決めて指数化する形で算出される。だが、これだけでは円の対外価値の正しい指標にはならない。

 たとえば日本の物価が50%低下すれば、市場レートが一定であっても、日本製品の輸出価格は50%低下するし、輸入品は国内品に対して50%値上がりする。つまり、円の対外価値を測ろうと思うなら、日本と貿易相手国の物価変動を調整しなければならないのである。これが「実質実効為替レート」である。

 

 基準時点としてプラザ合意の成立した1985年9月を取り、名目実効為替レートを100とすると、大幅な円安が進んだといわれる今日ですら、その値は200にもなっているのである。(邦貨建てとは逆に大きな数字は円高を意味する)

 

 他方、現在の円の実質実効為替レート=対外価値は、プラザ合意による円の急騰の直前とほぼ等しくなっている。つまり円高の時代は過去の物となってしまっているのだ。実質実効為替レートがプラザ合意時点の水準まで低下している主な原因は、名目的な為替レートの変化ではなく、日本と海外の物価の変動だということだ。要するに日本の物価は低下し、一方で海外での物価は上昇しているのである。

   

 <日本と諸外国の物価情勢のかい離>

  

 アメリカは、サブプライムローン問題が日本の不良債権問題のように拡がるのではという懸念がくすぶりながらも、依然としてインフレ率が低下しないため、一時は間近かとも思われた金利引き下げは遠退いている。

 ユーロ圏は、ドイツやフランスの自動車業界などに不満がうっ積しているようだが、金融引き締め局面に入っている。

 対ドルレートで四半世紀ぶりの最高値を記録しているポンドは、すでにインフレ目標の上限を突破してしまい、イングランド銀行総裁は、事情の説明書簡を財務相に提出するはめに陥り、金融引き締め政策を続けざるを得ない状態にある。

 アメリカを除く多くの主要国が金融引き締めに動いているということは、世界は今や好景気の下でのインフレ状態、いわゆるディマンドプル(需要)インフレの圧力にさらされているということなのである。

 

 前年比でプラス0.1%の消費者物価上昇率で、デフレを脱却しつつあると言っている日本の物価情勢と、世界の物価情勢の間には、大幅なかい離が生じている。そしてこのかい離は程度の差こそあれ、過去四半世紀も続いており、それがついに内外価格差を消し去ってしまったのである。

   

 <円安進行と不況からの脱出>

  

 デフレと長期不況の原因を構造問題に求める意見は、依然として極めて有力である。そうした主張をする人々の多くは、貨幣的な問題が10年を超えるような長期間にわたり経済に影響を与えることはあり得ないと言うのが常だ。

 だが、名目実効為替レートでの円高を維持しながら、年率1%か2%程度のデフレによって内外価格差を解消するためには、10年は決して長い期間ではなかったのである。

 

 昨今の円の対外価値の低下は好ましくないという主張も強い。確かに現金やそれに類する元本の安全な資産を抱え込んでいる人にとっては、円高の進行は安価な海外旅行を可能とするし、輸入品の価格は低下し、ひいては国内の物価にも低下圧力が働き、金利を生まないはずの現金の実質的な価値は着実に上昇するのだから、堪えられないものだろう。

 だが、この円安の進行の結果、ようやく日本経済は泥沼のような不況から脱出したことを忘れるべきではないだろう。それは輸出製造業に偏った回復かもしれないが、一時は経済破たんで国際通貨基金(IMF)に助けを求めざるを得ないなどという提案が書店で幅を利かせていたことを考えれば、大学新卒求人倍率が2倍を超える状況が続く状況を「悪化」と呼ぶことは不可能だろう。

 

 為替レートは、実質賃金や金利同様に、相対価格の1つである。高ければ高いほど良いとか、低ければ低いほど良いなどということはあり得ない。経済全体のバランスから、そのふさわしい水準が決まってくるのである。 

 変動相場制を取る現代の主要国経済においては、結局のところ「ふさわしい水準」は、望ましいインフレ率に対応するものとして決まってくるのだ。欧米諸国が円安に文句を言いながらも、自国通貨を上昇させる金融引き締めを続けていることは、当然すぎる事柄なのである。

 (25日 東京)

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