July 6, 2007 / 4:32 AM / 12 years ago

COLUMN-〔インサイト〕世界同時好況の裏で進む新たな危機=エコノミスト・岡田靖

 IMF GATT体制を生み出したのは第二次世界大戦であるが、その大戦の原因となったのは世界大恐慌である。大恐慌から経済学が学んだことは「金融政策と国際通貨制度はコインの裏表にすぎない」「長期的には物価の単位を決めるだけの金融政策(その裏側の国際通貨制度)が、時には10年単位の世界規模での経済変動を引き起こす可能性がある」というものであった。

 しかし、対外的な軍事活動の拡張、福祉国家建設のための歳出拡大、金利の安定を重視する金融政策の伝統的な考え方、これらが組み合わされた結果として、成功が失敗を招き寄せる典型的な事例が米国で発生した。

60年代、米国の景気はめざましく拡大したが、金融政策は景気追従的であり、ことに70年代初期の大インフレ前には、市場が求める資金を潤沢に供給することに専念した。

 これにより、インフレ率が高まる中で名目金利は安定的に推移し、実質金利は低下したため、さらなる景気刺激的な効果を生み出した。この環境で固定レート制を維持するためには、他の諸国は米国の金融緩和に合わせて金融緩和を実施しなければならない事態となった。

 結果として、世界同時好況が出現。国内では賃金上昇とインフレのスパイラルが起こり、生産能力に限界のある食料や鉱物資源の需給をひっ迫し、それらの国際価格は上昇した。産油国やその他の資源生産国は輸出により収入を増やし、それを先進国からの輸入に振り向けた。こうして、世界同時好況は世界インフレへと転化していった。

 

 <世界同時好況が生み出す国際問題>

 

 ひるがえって今日である。日本が好景気であるという実感は、東京など大都市の大企業で就労している労働者か新卒でもなければ持てないが、世界全体としては驚くような好景気が続いている。

 米国経済の抱える危機の源も好景気である。好景気で投資家のリスク許容度が増し、それまで住宅ローンを借りることのできなかった低所得者層にまで潤沢な貸出が行われた結果、サブプライムローン(信用力の低い借り手向け住宅融資)問題が発生している。

 米ロ関係の緊張をもたらしている東欧でのミサイル迎撃システム配備問題も、ロシアが資源価格の急騰で急激な経済成長を開始し、自信を取り戻したことと無関係ではない。

 また、ダルフール紛争での中国の振る舞いも、中国の経済成長が膨大な資源需要を生み出している結果に他ならないのである。このように、多くの人々が注目する国際問題は、世界経済の同時好況の結果であると言っても過言ではないのである。

 

 <好況下のインフレ管理>

 

 60年代から70年代と今日では、多くの相違点が存在する。特に重要なのは、国際通貨制度が金ドル本位制から変動相場制へと移行したことだ。欧州の多くの国はユーロという共通通貨の下にあり、いわば固定相場制となっているが、それに匹敵する経済規模を持っている米国、日本、欧州の通貨の交換比率は市場によって毎秒ごとに決定されている。

 国際金融制度というコインの裏側にある各国の金融政策も、日米を例外とすればインフレ目標政策に収れんしている。各国は自国内の物価上昇率を目標圏内に維持するように金融政策を実行しており、為替レートは金融政策のスタンスの相違を吸収するように変動している。この意味では、世界全体として見たインフレは適切に管理されている。

 今日の世界同時好況は、世界インフレへと転化して、世界同時金融引き締めを引き起こしたり、世界的スタグフレーションを発生させるような状況とは大きく異なっている。

  

 <サブプライム問題と円キャリートレード> 

  

 だが、そこにもいくつかの危機の種は残っており、その種は発芽・成長しているかもしれない。グリーンスパン前連邦準備理事会(FRB)議長が指摘したように「低インフレと低金利、そして高成長という優れた経済的成果こそ、バブルの温床」なのである。

 好ましい経済環境が維持されていると、人々のリスク許容度が上昇し、ついには過度にリスキーな投資が拡大し、最後には不良債権を生み出し、その過程で金融市場に大きな危機を生み出す可能性がある。サブプライムローン問題は、まさにそうした危機の典型であると言えよう。

 同じように危機が懸念されているものに、円キャリートレードの巻き戻し問題がある。経済危機に対処するためにとられた超低金利政策であるが、当初は国内での金融危機からくるリスク許容度の低下と根強い円高予想によって、投機的な外貨投資をそれほど増加させなかったが、不良債権処理が進み、金融危機が終了し、さらに景気が回復して来るにつれて事態は大きく変化した。

 人々のリスク許容度が上昇し、内外の金利差に目が向けられるようになったわけだ。この結果、「景気回復は通貨高」という通念とは逆に、景気回復が投機的な外貨投資の激増を招き、これによる円安がさらに輸出製造業の業績改善を通じて景気を押し上げ、さらにリスク許容度の上昇を引き起こすという循環を開始させた。現在では物価水準と貿易額の変化を調整した「実質実効為替レート」が、プラザ合意による円高以前の水準まで低下している。

  

 <バブルに対する2つの政策的アプローチ>

 

 経済実態に不整合な過度の通貨高が大恐慌の発生と不可分の関係にあることは、今日ではだれもが認めることである。これは大恐慌当時は金本位制であったため「金の足かせ」と呼ばれているが、その本質は為替レートという(相対)価格が正常な経済状態とバランスを失していることである。

 その意味では、日本経済の長期停滞とプラザ合意による円高は深い関係にあるし、それ以前への実質実効レートの回帰と景気回復が同時に起こっていることは当然であると言えるのだ。

 だが、この一方的な正のフィードバックは、発散的な円安の懸念を引き起こしている。つまり経済実態とかけ離れた円安とその裏側の円キャリートレードを一種のバブルであるとすると、それが崩壊するとき、世界的な為替投機家のバランスシート調整が暴力的な形で起こるのではないかと危ぐされているのだ。

    

 結局、われわれはこの15年ほど議論し続けてきた問題に立ち戻っているのである。つまりある時期に必要とされる金融政策が成功し、結果的にバブルが形成される可能性が生じたとき、何をすべきなのかという問題だ。 

 これには2つの答えが用意されている。1つはFEDビューと呼ばれるものであり、「危機が起これば必要な流動性を十二分に供給し、危機を押さえ込め」と教えている。人によってはグリーンスパン前FRB議長の政策運営はこれだけだったと酷評する人がいるが、確かに彼の行ったことのある一面を的確に評価しているとも言えよう。

 これに対して、BIS(国際決済銀行)ビューあるいはブンデスバンク(ドイツ連銀)ビューとでも言うべきものがある。これは「混乱を引き起こすバブル崩壊の原因となる資産価格の過度の上昇それ自体を押さえ込め」と教えている。

 この2つの教義のどちらが正しいのか、純粋な理論レベルでは必ずしも決着はついてはいない。しかし、実績をみれば、米国はITバブル崩壊を乗り越え、依然として成長を持続しているのに対し、バブルつぶしを決行した日本は15年の低成長に苦しんできたのである。

 岡田 靖 エコノミスト

 

(6日 東京)

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