[ニューデリー 14日 ロイター] - インド北部の平原と首都ニューデリーは、毎年冬を迎えるとどんよりとしたスモッグに包まれる。当局は対策を講じるものの、大気浄化の効果はほとんど見られず、膨大な数の人々の健康に懸念が生じている。
ニューデリー都市圏の人口は2000万人。健康のために空気清浄機やマスクを利用する人はほとんどいない。大気汚染の監視を担うSAFARによれば、ここ数日、大気質指数は500段階で350を超え、「非常に悪い」水準に近づいているという。
そもそもこれは、60を超えただけで健康に悪いとされる指標だ。
大気質指数は、大気中の微小粒子状物質PM2.5の水準を測定する。PM2.5は肺の深部まで運ばれる可能性があり、がんや心疾患など生命に関わる疾病の原因となる。
雨季は通常9月に終わり、10月になると大気の質が悪化し始める。気温が下がり、風がやんで大気中の汚染物質が滞留する時間が長くなるからだ。
11月になると汚染はさらに悪化する。ニューデリーに近い農業地帯のパンジャブ州とハリヤナ州で収穫が終った作物の刈り株を焼き払うからだ。
こうした穀倉地帯の農家は機械化農業を率先して採用しており、コメの収穫にハーベスター(刈り取り機)を使う例も増えている。
だが手作業での刈り取りと違って、ハーベスターを使うと刈り株や稲わらが田に残ってしまう。
冬季の作物のために田畑を整える準備期間は限られているため、農家は刈り株や稲わらを焼き払ってしまう。専門家によれば、インド北部における大気汚染のうち、約4分の1は農地から流れ出すすすを含む煙が原因だという。
だがニューデリーの場合、こうした刈り株の焼却がほぼ終る12月になっても事態は一向に改善しない。汚染原因の多くをニューデリー自身が産み出しているからだ。
ニューデリーを走る自動車は1000万台。他の3大都市であるムンバイ、チェンナイ、コルカタの合計よりも多く、大量の排気ガスを排出する。さらに工場からの排出ガス、建設現場から出る粉じん、家庭での火の利用による煙が加わって、複合的な汚染となる。
都市の急速な拡大で、周囲にわずかに残っていた酸素の供給源の森林は失われつつある。建築産業に砂利を供給するために違法業者が近郊の丘陵地一帯を違法に削り、タール砂漠からの砂ぼこりを防ぐ天然の障壁が姿を消していく。
スモッグの状況があまりに悪化すると、当局は建設作業を禁止し、子どもたちを守るために休校措置を取る。だが、違法事業の取締りや排ガス規制を十分に行うにはリソースが足りないとあきらめ顔だ。
最高裁判所は、大気浄化の取組みを怠ったとして当局を非難し、デリー及び周辺州の地方政府や連邦当局に対し、大気汚染解消に向けて協力するよう要請している。
デリー州政府で優位に立つのは、モディ政権与党のインド人民党ではなく、野党のアーム・アードミ党だ。両党間に協力関係はほとんどない。
6月頃に雨季が再開する前に、大気汚染は多少改善する。気温の上昇でスモッグ滞留に適した気象条件が終るためで、人間の努力ではなく自然の力によるものだ。
(写真:Adnan Abidi記者、文:Mayank Bhardwaj記者、 翻訳:エァクレーレン)
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