December 21, 2019 / 10:55 PM / a month ago

アングル:インド身分社会の闇、レイプ殺害事件で村が分裂

[ヒンドゥ・ナガー 13日 ロイター] - 深い霧が立ち込め、まだ暗さが残る朝、ラビンドラ・プラカシュさんが営む商店に、若い女性が助けを求めてよろよろと近づいてきた。ひどく焼けただれた姿がまるで魔女のように見え、彼は思わず木のステッキをつかんで彼女を追い払おうとした。

 12月13日、複数の男性からのレイプ被害を警察に訴えてた女性は、男性らから火をつけられ、病院に運ばれたが死亡した。写真は亡くなった女性の遺族。12月7日、ウナオで撮影(2019年 ロイター/Anushree Fadnavis)

店の薄暗い明かりに照らされ、プラカシュさんは同じヒンドゥ・ナガー村に住む女性だとようやく気づいた。

彼が警察に電話をかけると、23歳のその女性は、受話器の向こうの警察官に、かすれた声で悲惨な経緯を語った。近くの畑で同じ村の男性5人に殴打され、火を付けられたという。そのうち2人は、昨年この女性をレイプしたことで、被害者本人から告訴されていた。

警察の報告書に記された彼女の供述によれば、この日、つまり12月5日の朝、彼女は午前5時ごろに出発する列車に乗るため、早々に家を出た。レイプ被害について弁護士に会うためである。

火傷はひどく、当局は彼女をニューデリーの病院に移送するよう命じた。6日遅く、彼女はその病院で息を引き取った。

女性の死は全国的な怒りを呼び起こしたが、インドで最も人口の多いウッタルプラデシュ州にあるその村は、事件をめぐって分裂した。立場を隔てたのはもっぱら、所属するカーストの違いだ。

<インド農村の共通課題>

女性は低位カーストに属していた。女性殺害の容疑をかけられた5人の男性は、ヒンドゥ・ナガーを支配する地主カーストの出身である。

上位カーストの村民の多くは男性たちを擁護しており、女性の人格を疑問視し、一部には彼女の死を痴情のもつれにすぎないと軽視する人もいる。また、女性が偽って男性らに罪を着せようとしていると非難する人もいて、男性らの家族はえん罪だと主張している。

村外れの道沿いでシャベルなどの農器具を作っている女性の父親は、「娘には大きな計画があった」と話す。土でできた家の前に村人が集まるなかで、父親は椅子に座り、うなだれて言う。「娘のために公正な裁きを求めている。殺人犯は死刑になってほしい」

インドの最高裁判所は、性犯罪被害者の身元を明かすことを、家族を通じた場合も含めて禁じているため、本記事でも被害女性と家族の氏名を伏せている。

カラシナの畑に部分的に囲まれたヒンドゥ・ナガーは、人口約2000人。住民の分裂は、インドが直面する課題を浮き彫りにしている。女性権利擁護団体によれば、レイプは、特に農村地域を中心に国内共通の問題になっているという。

2012年、デリーのバス車内で発生した若い理学療法士に対する残酷な集団レイプ、殺人事件が広い範囲で激しい反発を呼んだことを受けて、インドは世界でも最も厳しい処罰法を導入しており、場合によっては死刑も適用される。

だが、女性の人権に詳しい複数の専門家によれば、効果はほとんど見られないという。事件は通報されるが、政府統計を見る限り、有罪になる確率は低い。

南部の都市ハイデラバード近郊では今月、27歳の獣医がレイプ、殺害されている。この事件では4人の男性が逮捕されたが、逃亡を試みたとして警察に射殺された。

<「相手は有力者だ」>

人口の3分の2が暮らす農村地域を中心に、性犯罪被害者やその家族の前に往々にして立ちはだかるのが、地元の有力者やカースト上の厳しい力関係だ。

ヒンドゥ・ナガーでは、カーストの境界線は道を歩いているだけで分かる。コンクリート製の住宅には上位カースト、土と藁でできた小屋には低位カーストの人々が住んでいる。冒頭の事件の後、多数のジャーナリストと政治家が村を訪れたため、治安維持のために何十人もの警察官が新たに雇用された。

レイプ事件の主犯として女性が名指しした2人の男性、シバム・トリベディ、シュバム・トリベディ両容疑者は、どちらもサビトリ・デビ・クンダン村長の一族であり、上位カーストに属する。シュバム容疑者は村長の息子で、シバム容疑者はその従兄弟だ。

クンダン村長はロイターに対し、自身の息子を含む5人に対する告訴はでっち上げだと述べた。

ロイターは、近隣の街で拘置されている容疑者たちに接触することはできなかった。家族によると、彼らは殺人事件について争うため、弁護士を雇う交渉に入っているという。

シバム・トリベディ容疑者のレイプ事件を弁護するプラデュマン・シュクラ弁護士によれば、同容疑者はレイプ事件に「不当に連座させられた」と話しているという。シュクラ氏は、殺人事件に関しては家族からの連絡はないとしている。

12月7日、告発された男性と同じ一族出身の女性・少女ら数十人は、告発に抗議するスローガンを叫びながら、村内の砂利道を行進した。容疑者たちは殺人のあった朝は家で寝ており、無実であると話していると、彼女たちは言う。

彼女たちは連邦機関による調査を求めており、金銭目的でシバム・トリベディ容疑者にいわゆる「ハニートラップ」を仕掛けたとして被害女性を非難している。

「シバムは彼女と結婚したいとは思っていなかったから、彼女は腹いせのために自分でガソリンをかぶったに違いない」と、プリーティ・バジパイさんは言う。彼女は告発されている1人、ウメシュ・バジパイ容疑者の姉妹である。

村民によると、ヒンドゥ・ナガーの低位カーストの女性は大半が高校を卒業しておらず、10代のうちに結婚する。殺害された女性は、数少ない高卒女性の1人だった。

父親によれば、彼女は昨年、警察官の採用に応募したが、乗車したバスが遅れたため面接を受けられなかった。ウッタルプラデシュ州で警察に欠員が出ることはまれであり、その後は挑戦していなかったと父親は言う。

インドの社会は変わりつつあるが、ヒンドゥ・ナガーのような保守的な村では、昔ながらのカースト制度が依然として根強く残る。

出自で身分が決まるカーストは、ヒンドゥー社会に広く見られ、階層を超えた恋愛関係は受け入れがたいとされている。

ロイターが取材した住民数十人によれば、殺害された女性とシバム被告の関係は、上位カーストの多くの人から許しがたいものと見られていたという。

女性が最初に警察に駆け込んだのは2018年12月だった。このとき彼女は、12日にシバム・トリベディ、シュバム・トリベディ両容疑者に畑に連れ込まれ、銃を突きつけられてレイプされたと訴えていた。当時の訴状によると、彼女は同日に帰宅した後、叔母と地元警察に被害を話したという。

彼女は18年12月から19年2月にかけ、少なくとも3回、男性らによるレイプ被害を警察に訴えている。ロイターが閲覧した訴状のコピーによれば、警察は3月に彼女の事件を受理した。

この3月5日の報告書によれば、女性はシュバム・トリベディ容疑者が2018年中に複数回にわたって彼女をレイプし、虚偽の結婚の約束をしたと訴えている。女性を近隣のラーエ・バレリ市に連れて行き、短時間ながら1室に監禁、逃げようとしたら殺すと脅したこともあった。

その後2─3カ月にわたり、彼女は警察に繰り返し手紙を送り、捜査を急ぎ、容疑者を逮捕するよう求めていた。4月1日付の警察への手紙には「訴えにもかかわらず、私は医師の診察も、事情聴取も受けていない。レイプ犯も逮捕されていない」と書かれている。

「警察が動かないから容疑者の家族は大胆になり、私の家族に嫌がらせをし、私が告訴を取り下げざるをえなくなるよう脅迫している」

女性は4月15日付の手紙で、自分と家族の命が脅かされていると書いている。「相手は金持ちの有力者だ」、「私たちの命は脅かされている」。

警察の報告書によれば、彼女は命の危険を感じ、3月にラーエ・バレリの叔母の家に移った。だが、叔母によれば、家族恋しさのあまり、事件の数週間前に村に戻っていたという。

叔母は「(村には)戻らないでくれと頼んでいたのだが」と話す。

7月12日の手紙では、もしレイプの訴えに警察が動いてくれないのであれば自殺するとほのめかしている。

シバム容疑者は9月19日に逮捕されたが、11月30日、つまり彼女が火をつけられる数日前に出所している。

<「他に誰が戦おうとするだろう」>

女性が襲撃された朝、商店主のプラカシュさんが目にした彼女は短い髪の先が焦げ、衣類も燃え落ちていた。それでも彼女は、襲撃現場からプラカシュさんの店まで半マイル(約800メートル)近くを歩き、警察署にたどり着こうとしていたという。

ウッタルプラデシュ州政府は、女性の遺族に250万ルピー(3万5000ドル)の弔慰金を支払い、家族を守るために兄弟に銃所持のライセンスを与えることを約束した。また当該地域の警察官が7人、職務怠慢により停職処分となった。

女性が暮らしていた土の家には、木製のベッド、壁に飾られた宗教的な偶像、ヒンドゥー教徒の家庭ではよく見られる、家族が祈りを捧げる小さな鉢植えのバジルを除けば、ろくに家財道具もない。嘆き悲しむ家族は、容疑者の男性らからの報復を恐れつつ暮らしていると話す。

叔父の1人は、「彼女は一族のなかで唯一教育のある、道理の分かった子だった」と涙に暮れる。「一族の男のなかにも、彼女ほど勇敢な人間はいない。たった1人で戦っていた」 

彼が言う戦いの相手は、村内の階層社会だ。「あの子がいない今、他に誰が戦おうとするだろう。

(翻訳:エァクレーレン)

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