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コラム

コラム:広がるインドのオンライン決済、デジタル外交を後押し

[ムンバイ 21日 ロイター Breakingviews] - インド政府のデジタル外交が躍進を見せている。6年前、インドが立ち上げたリアルタイム送金を可能にする独自のオンライン決済インフラは、期せずしてテクノロジー主導によるインド版「一帯一路」の基礎となった。

 2月21日、インド政府のデジタル外交が躍進を見せている。写真はコルカタで携帯電話を使う男性。2017年1月撮影(2022年 ロイター/Rupak De Chowdhuri)

地域的な覇権争いが激化する中で、中国が港湾やパイプラインの建設に数兆ドルを投じる大盤振る舞いを演じる一方、インドのナレンドラ・モディ首相は、このオンライン決済インフラにより、費用対効果の高い対案を手にした格好だ。

モディ首相は、このシステムを筆頭に、インドが蓄積しつつあるデジタル公共財の輸出に強い意欲を持っている。こうした狙いのもと、先週には、ネパール中央銀行を後ろ盾とする企業がインドの決済モデルを導入する計画が発表された。中・印2大国がしのぎを削る中で板挟みになっているネパールにとっては大きな進展だ。この計画は、インド準備銀行が中心となって立ち上げたインド決済公社(NPCI)の国際事業部との提携によって進められる予定だ。

この計画により、ネパールは南の隣国インドで活況を呈するデジタル経済の成功の再現をめざす。インドのデジタル経済については、複数のベンチャーキャピタリストが「世界で最も洗練された金融テクノロジー市場の1つ」と評価している。

インドの相互運用可能な「統合決済インターフェース(UPI)」は、オープンセット仕様で、資金の移動を加速し、租税回避の可能性を狭めつつ、スタートアップ企業の成功を後押しするものだ。UPIは、数多くの送金アプリケーションの基盤となる。規模の大きいものとしては、アルファベットが運営するGペイ、ウォルマートのPhonePe(フォンペ)、One97コミュニーケーションズのPaytm(ペイティーエム)などだ。UPIは、電子商取引から航空会社のウェブサイトに至るまで、あらゆる場面で主要な決済手段となっている。

このシステムは決済手段をあらゆる人に開放するもので、労働者でも若い世代の専門職でも、あるいは小規模な商店主でも大規模商業施設であっても、コストなしで、リアルタイムに、お互いの銀行口座にスマートフォンを通じて送金できるようになる。QRコードや電子メール形式のアドレス、または電話番号が利用できる。

2021年、UPIが処理したトランザクションは約390億回、インドのGDPの約3分の1にあたる総額9400億ドルに達した。

今回のネパール以外でも、UPIを支持する動きは広がっている。デジタル分野におけるインドの急速な発展に勇気づけられて、グーグルは2019年、米連邦準備理事会(FRB)に対して、FRBが計画中の銀行間リアルタイムグロス決済サービスに「UPIに類似した」オープンシステムを採用するよう提言する書簡を送った。

昨年、やはり戦略的位置にあるインドの重要な隣国ブータンは、UPI仕様に基づくQRコードを採用することを決定した。同国がインド発のプロトコルを今後さらに取り入れていく可能性を示している。インドは、UPI仕様のQRコードに基づいた決済システムの受け入れに関してシンガポールとも提携している。

<「おいしい」理由は>

ソフト面でのインフラにおけるギャップの解消は、パキスタンからスリランカに至るハード面でのインフラ不足を埋めようとする中国の習近平国家主席による試みとはきわめて対照的だ。習氏の「一帯一路」構想が公式にスタートしたのは2013年。順調に進めば、この輸送用の回廊の建設は、友好を深めるための良策となる。プロジェクトを通じて、参加国が切に求めている資金、雇用、税収、技術的専門知識が提供されるからだ。

だが悪くすると、不透明な条件で巨額の融資を提供する中国政府の姿勢は、たとえそのような意図ではなくとも、いかにも債務漬けを狙う外交政策に見えてしまう。一方で、テクノロジーの共有によってインドが手にする直接的な金銭的利益は、おそらく名目的な手数料収入にとどまるだろう。

もっとも、インドの成功を模倣するといっても、それはそれで課題はあるだろう。各国政府はUPIに類似した各国独自のシステムを公共財として採用する必要があり、理想を言えば、各国中央銀行が全面支援する中立の統括組織がシステムを監督下に置くことが望ましい。

インドでは非営利団体のNPCIがUPIなどの決済サービスを統括しており、NPCIを支える出資者リストには国内・国外の金融機関、フィンテック企業、国際的な巨大テクノロジー企業などが名を連ね、なおも拡大を続けている。結果として、NPCIはインドの決済コミュニティーを正しく反映する存在となっている。各国が、インドに依存することなく、UPIという基盤の上に、独自の新たな製品・サービスを開発する可能性もある。

テクノロジー分野でインドが上げた実績は、決済システムにとどまらない。「UPIは、さらに広範囲のフィンテック革命の一環として国家によるサービスの『ラスト・ワンマイル』を人々に提供しており、民間セクターが十分に活用できるものだ」と語るのは、ムンバイに本拠を置く外交政策シンクタンク「ゲートウェイ・ハウス」でエグゼクティブ・ディレクターを務めるマンジート・クリパラニ氏。

さらに、インドと、同国が主導するテクノロジーを採用する諸国は、互恵的な利益を得られるかもしれない。UPI仕様のQRコード規格が世界的に採用されれば、国境をまたいだ送金手数料を引き下げるという待望の革命を後押しすることになるだろう。インドにとって、そのインセンティブは大きい。

「移民と開発に関するグローバル・ナレッジ・パートナーシップ(KNOMAD)」の試算によれば、インドは2021年、そうした国際送金を870億ドル受領しており、世界最大の受け手となっている。インドを最大の貿易相手国とするネパールのような国の場合、流入する国際送金は額としては小さいものの、GDPに占める比率は25%近くに達する。

世界銀行の試算によれば、世界各国の間で行われる国際送金のコストは平均で約6.3%、つまり200ドルに対して13ドル近くと負担が大きい。送金額が大きければ手数料の比率は下がるとはいえ、UPIを利用すれば、純粋な外国為替証拠金取引に近い1.4-3%までコストを引き下げることができる。デジタルサービスによる送金では、すでに銀行や送金事業者を利用するよりも手数料が安くなっている。中国が、海外の公共事業プロジェクトをめぐる経済面・外交面での制約に悪戦苦闘するのを尻目に、インドは要となるデジタルテクノロジーによって役に立つ「橋」を築きつつある。

●背景となるニュース

*ネパールは、インドの相互運用可能なリアルタイム・デジタル決済モデルを採用。両国の決済グループが2月17日の共同声明で発表。

*声明によれば、これによってネパールは、インド以外で初めて、全面的に「統合決済インターフェース(UPI)」を採用する国になる。インド決済公社は、この構想に向けてネパール中央銀行の認可事業者と提携している。7月には、ブータンが国内で展開するQRコードにUPI規格を採用した最初の国となった。

*UPIは、即時リアルタイム決済システムであり、利用者は銀行口座の詳細を開示することなく複数の銀行間での送金ができる。UPIは2021年、インドのGDPの約31%に相当する9400億ドルのデジタル決済を処理した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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(翻訳:エァクレーレン)

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