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アングル:インドで台頭する女性ゲーマー、悩みは「言葉の暴力」

[ハイデラバード 15日 トムソン・ロイター財団] - 幼い頃、ソナリ・シンさんは自分もビデオゲーム機で遊ばせてくれと兄にせがみ、やがては口論になっていた。母親はそういう時に決まって、シンさんに童話の本を渡してケンカを収めようとした。

 幼い頃、ソナリ・シンさんは自分もビデオゲーム機で遊ばせてくれと兄にせがみ、やがては口論になっていた。写真はムンバイでノートパソコンを使う女性の手。2013年撮影(2023年 ロイター/Vivek Prakash)

「女子はゲームで遊ばないものだ、というのがインドの文化だ」とシンさんは言う。

大人になったシンさんは今、米国の大規模大学のソフトウェア技術者としてリモートで働く。それだけでも給与水準は高いが、夜はゲームをプレーして給与の50-60%に相当する副収入を得ている。

シンさんの成功の背景には、インドにおける市場規模15億ドルのゲーム産業が急速な成長を遂げ、徐々にではあるが、今の世代の女性や少女にも門戸を開きつつあるという状況がある。彼女たちはゲームを楽しみ、稼ぎ、ゲームを介してデートもしている。

だが女性プレーヤーたちは、オンラインで他のゲーマーと言葉を交わすと、ウンザリするほど暴言を浴びると語る。レイプの脅しは日常茶飯事だ。

そうした暴言以外の面でも、女性を対象にした大会の賞金は男性の大会に比べ大幅に低い。ゲーマーや業界の専門家によれば、これまで改善が進められてきたものの、この世界は公正とはとても呼べない状態だという。

「伝統的に男性に支配されてきた産業に、女性たちは何とか自分たちのスペースを切り開いている」と語るのは、ゲーム産業に注力するベンチャーキャピタルファンド、ルミカイの創業ゼネラルパートナーであるサロネ・セーガル氏。

ルミカイが最近公表したレポートによれば、インドのゲームプレーヤーは5億700万人、そのうち43%が女性だという。ルミカイがプレーヤーをジェンダー別にカウントしたのは今年が初めてだ。

インドの総人口14億人のうち、15-29歳の層は27.3%。ゲームを楽しむ人口は年12%のペースで増加している。

スマートフォンやインターネットを利用するコストが下がり、インドの大衆にとってモバイルゲームが身近になった今、需要は非常に大きくなっている。昨年、インドにおけるモバイルゲームの消費は他のどの国よりも多くなり、ダウンロード件数は合計150億件へと増加した。

これによって、女性ゲーマーにとって新たな収入の機会が生まれた。複数の専門家によれば、それが特に顕著なのが、競技性のあるeスポーツの世界だという。

コロナ禍に伴うロックダウンが続く中で新たに大きな人気を博したのがeスポーツだ。eスポーツは競技性のあるゲームで、プレーヤーは練習を重ね、スポンサー契約を獲得し、グローバルな大会に参戦する。

インド商工会議所連盟によれば、競技性のあるeスポーツにおける女性プレーヤーの比率は、2020年の12%から2022年には22%へと上昇した。

<新たな収入源に>

メインストリームのスポーツとして認知を得ようと何十年も努力を続けてきたインドのeスポーツ産業は、昨年、ポーカーなど他のオンラインゲームとの縁を切った。こうしたゲームは、賭博の取り締まりに積極的な一部の州で禁止されている。

競技志向のゲーマーが求めているのは、国際大会に出場し、著名ブランドによる高額なスポンサーシップを獲得して、クリケットやテニスのスター選手と同じような名声と財産を得ることだ。

だが、これまでそうした成功を収めてきたのは、もっぱら男性だった。

インドeスポーツ連盟によれば、女性プレーヤーが女性限定の大会に出場して獲得できる賞金は約1200ドルだが、男性のチームが中心となるオープン形式の大会では、賞金は100倍も高くなる。

賞金だけでなく、ストリーミングによる収入やブランドによるスポンサーシップ獲得も加わるが、セーガル氏によれば、得られるものはこうした金銭的なメリットだけではないという。

「テクノロジー産業における女性への注目度が高まり、ジェンダーに関する固定観念が打ち砕かれ、テクノロジー関連分野でキャリアを築こうとする女性が増えていくことを促せる」とセーガル氏は言う。

女性を主役とするゲームや女性の強い共感を呼ぶ設定が増える中で、ゲーム産業は女性プレーヤーを取り込み、参戦を促す方向へと変化しつつあるという。

クシュビーン・カウルさん(21)は、eスポーツの選手として、有力プロチーム「ゴッドライク」でプレーしている。初めてビデオゲームで遊んだのは6歳のとき。17歳でプロゲーマーとなった。

カウルさんが初めて競技に参戦したときは男子たちにからかわれた。だが彼女の方が強かったため、仲間たちも一目置くようになった。彼らの評価と仲間意識は、うつ状態だった辛い時期を乗り切る際にも力になった。

「前よりも自信を持てるようになった」とカウルさん。

カウルさんの変化と並行して、ゲーム産業も変わっていった。

「女性の参加を促し、安全なスペースを生み出すために、女子限定・女性限定の大会が開催されるようになった」とカウルさんは言う。カウルさんは収入も成功もゲームだけに頼っている。

「3-4年前は、女子には何のチャンスもなかった。だが私は今、恵まれた生活を送れるだけの収入を得ている」

<オンラインでの暴言>

だが、インドの女性ゲーマーの拡大には犠牲もともなっている。

シンさんがマイクに向かって「ハロー」と呼びかけると、汚い言葉を浴びせられる。敵をなぎ倒そうとパラシュートで離島に降り立つあいだも、レイプの脅迫や性的なヤジがヘッドフォンから響く。

「ひどく不愉快なことを男たちから言われる。女子として耳にする最悪の言葉だ」とシンさんは言う。オンラインでは「PlayLikeIncognito(匿名プレーヤー)」というハンドルネームを使っている。

オンラインでの言葉による暴力は深刻だ。

地域ソーシャルメディアサイト「ローカル・サークルズ」が2023年に行った調査によれば、都市在住のインド人女性の8割がインターネットを利用しており、そのうち86%が「荒らし」やハラスメント、暴言を受け、あるいはサイバー犯罪の被害者になったという。

2021年、シンさんは賞金約12万2300ドル規模のオンライン大会で、メンバー全員が女子のチームを率いるよう要請された。

その大会初の女子限定チームは、祝福されるどころか、その大会のストリーミング視聴者からは、「フリーキル(簡単に倒せる相手)」と呼ばれたとシンさんは言う。

また、女性プレーヤーが「リザベーション(特別枠)」と揶揄されることもあったという。インドでは、この言葉は社会的弱者を支援するために割り当てられた定員枠を指す。

「私が受け取るダイレクトメッセージは、ヘイトスピーチばかりだった」とシンさんは言う。「オンラインでしか勇ましいことを言えない連中ばかり。(略)プレーするのが嫌になってしまった」

インドeスポーツ連盟のディレクターを務めるロケシュ・スジ氏は、まだ必要な取組みは残っていると認める。

スジ氏は、eスポーツ産業は嫌がらせを排除する努力を続けているとして、ゲームの世界で、女性が男性と同じように豊かに成長していってほしいと語った。

だがスジ氏は、「(最終的には)この国の文化の問題だ。実際のところ、人々は女子にゲームを楽しむことを勧めていない」

(翻訳:エァクレーレン)

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