[ファリダバード(インド) 20日 ロイター] - インド北部ファリダバードで暮らすラビ・ベルマさんは昨年初めに電子部品製造会社で職を得た。国内の景気が上向いたためだ。しかしこの企業が輸出受注を幾つか失うと11月に失職。その後は再就職がかなわず、スクーター購入のために借りた10万ルピー(約16万円)の返済ができなくなっている。2カ月にわたり職を探しているが見つからず、「すぐに就職しなければ債務不履行の恐れがある」という危機的な状況だ。
インドの都市部ではベルマさんのような若者の失業者が大量に発生している。調査会社CMIEのデータによると、インド全体の雇用者総数は4億1000万人と新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に戻ったが、都市部は昨年12月の失業率が10.1%に上昇した。
失業者の増加は経済がパンデミックから順調に回復していることを示す他の経済指標と矛盾する。しかしインドは世界的な景気減速で輸出が落ち込んでいるほか、都市部にはパンデミック後に地方から2000万人近い労働者が再流入し、失業問題が悪化している。都市部の失業率はパンデミック期間に急上昇する以前には6─7%で推移していた。
CMIEのマネジングディレクターのマヘシュ・ビアス氏の話では、12月の求職者数は3700万人近くと、パンデミックが最も激しかった2021年6月以降で最高を記録。パンデミックの不安が薄れ、女性や地方の働き手が労働市場に戻り、労働参加率が上がったという。
一方、海外との比較ではインド経済はなお良好だ。米国と欧州で景気後退入りの懸念が高まっているのに対して、インドは今会計年度の成長率予想が7%で、来年度も6%弱が見込まれている。
しかし国内企業は海外需要の減少に直面。エンジニアリング、繊維、ソフトウエアなどの輸出依存型製造業で雇用が鈍り、製造業製品輸出は12月に前年同月比で12.2%減った。
失業はモディ首相にとって高ンフレ率と肩を並べる課題に浮上しており、年内の州議会選や来年半ばの総選挙で重荷になりそうだとアナリストは見ている。最大野党、国民会議派は物価高と失業を重要な争点とみて、政権批判を続けているからだ。
ジャワハルラール・ネルー大学の元教授で経済学者のアルン・クマール氏は「失業問題は深刻化している」と指摘。労働者の9割近くを雇用する中小企業が廃業し、成長を主導しているのは大企業やサービス業だという。
インドの人材コンサルタント会社Naukri.comのデータを見ると、12月のIT、ソフトウエア、教育、小売りの雇用は前年比で最大28%減ったが、保険、銀行、自動車などのセクターは底堅さを保っている。
<高収入の職なく>
若い労働者の多くはこれまでに受けた教育に見合った、スキルが必要な職に就きたいと語り、賃金の低い単純労働には見向きもしない。そのためハリヤナ、ラジャスタン、ビハールなど一部の州では失業率が記録的な水準に跳ね上がっている。
北部ハリヤナ州はマルチ・スズキなど海外企業を擁する製造業の中心地だが、パンデミック前に約20%だった失業率が12月に37.4%と歴史的な水準に急騰した。
ハリヤナ州ファリダバードの技術系大学で学ぶ女子学生のアンジャリ・ヤダフさんは「電子工学のコースを3年学んだら少なくとも2万ルピーの給料が必要だ」と話す。
しかし労組のリーダーのミトレス・クマールさんによると、当地の工場や企業には月に1万ないし1万2000ルピー以上の給与を支払う用意はない。
やはり職を探しているウタム・シャイリさん(22)は、電子機械工になるために2年間勉強した。低賃金の仕事を受け入れるくらいなら「家にいるほうがいい」という。
<成長リスクも>
エコノミストは、雇用情勢の悪化が消費者需要に影響を与え、民間投資を抑制し、成長の見通しを悪化させる恐れがあると指摘する。
フィッチ・レーティングスのインド部門、インディア・レーティングスのエコノミストのスニル・シンハ氏は「ITや一部の製造業における雇用喪失が消費者心理を直撃し、家計消費と企業投資に打撃を与えかねない」と危惧を示した。
シンハ氏によると、インド企業は国内外の市場で需要低迷に直面しており、雇用がさらに失われる恐れが高まっているという。
(Manoj Kumar記者)
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