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アングル:温暖化で収入激減、難題に直面するインドネシア漁業

[カランゲネン(インドネシア) 24日 トムソン・ロイター財団] - 漁を始めて4時間後、スサントさんは仕掛けたわなを見つめ、がっかりした様子で首を振った。掛かったのはボラが4匹だけだ。

 漁を始めて4時間後、スサントさんは仕掛けたわなを見つめ、がっかりした様子で首を振った。掛かったのはボラが4匹だけだ。写真はインドネシア・レンバンの港で8月12日撮影(2022年 ロイター/Thomson Reuters Foundation/Asad Asnawi)

8月の午後、例年ならスサントさんは漁船に乗ってインドネシア沖合に漕ぎ出し、ボラやカツオなどの魚を獲って家族を養っている。だがこの夏は激しい嵐と高波のため、漁船で沖合に出るのが危険な日も多かった。

代わりにスサントさんは、中部ジャワ州のカランゲネン村の漁港のそばで漁労用のわなを使った漁を行う。大きなプラスチックボトルと糸で作ったもので、小麦粉を練った餌を使う。

「厳しいね」と42歳のスサントさんは言う。「4匹しか獲れないのでは、唐辛子も食用油も買えない」多くのインドネシア人と同様、スサントさんは姓名の区別がない名前を使っている。

豊漁のシーズンには1日にその4倍も魚が獲れ、市場では1キロ2万5000ルピア(約240円)とけっこうな価格で売れるという。だが、インドネシアの漁業にとって、そうした好調なシーズンはめったに見られなくなりつつある。

強風で海が荒れることがますます日常化し、危険度も増している。科学者によれば強風は地球温暖化に関連しているという。海水温の上昇で魚が死ぬこともあるし、もっと海水温の低い水域に移動してしまう原因にもなっている。

独立系の非営利団体「インドネシア環境フォーラム(WALHI)」のキャンペーンマネジャーであるパリッド・リドワヌディン氏は、「結局、漁民たちは損失を取り戻すために、さらに遠洋に向かうことになるだろう」と予想する。

「海の天気は荒れがちで、リスクに満ちている。多くの漁民が犠牲になるだろう」

<上昇する気温、増す危険>

地球の気温は産業革命以前に比べて摂氏1.2度以上上昇しており、現在その上昇幅は急速に1.5度に近づいている。1.5度の気温上昇は、気候変動の影響による費用・人命の犠牲がこれまでより大幅に増える分水嶺になりかねないと科学者らが危惧するラインだ。

約200カ国が批准した2015年のパリ協定では、地球温暖化を摂氏1.5度に抑える「努力を推進」しつつ、摂氏2度よりも「かなり低く」するという目標を掲げた。

だが、二酸化炭素排出量削減の公約にもかかわらず世界全体では化石燃料の消費が依然として増加しており、気候学者らによれば、1.5度のラインは10年以内に突破してしまう可能性がある。

科学者らが懸念するのは、極地の氷の融解による海面上昇から、永久凍土の融解に伴いメタンが放出されることによる急激な温度上昇に至るまで、取り返しのつかない生態学的な転機が訪れるのではないかという点だ。

地球温暖化は異常気象の増加、農作物の生育不良、生物種の絶滅の引き金となり、地球上の多くの人々が移住を迫られ、人命や財産の損失が増大すると予想されている。

インドネシアは1万7000以上の島々からなる。同国政府の予測では、気候変動の影響により2024年までに国内で年間115兆ルピア(約1兆1000億円)近い経済損失が生じる可能性がある。その70%は海洋・沿岸関連セクターにおけるものだ。

西ジャワ州IPB大学の沿岸・海洋資源専門家ヨンビトナー氏は、ますます危険度を増す異常気象の原因となるだけでなく、地球温暖化は、インドネシア周辺の水産資源の縮小にもつながっていると語る。

陸地に近い水域の海水温が上昇すると、特定の温度域で繁殖する魚介類はもっと水温が低い水域に移動する傾向を示し、同じ水域に留まる個体もあるものの繁殖率は低下する、とヨンビトナー氏は指摘する。

同氏は過去5年間、サバやマグロその他一般的に消費される魚介類について研究してきたが、海水温が30度に達すると魚介類の繁殖率が低下することが分かっているという。

インドネシアは包括的な海水温データを収集していないものの、同氏の研究では、島嶼国であるインドネシア周辺水域の海水温は、3年に1度のペースで目安となる30度を超え、その後約29度に戻っていると推定しているという。

「海水温の上昇が続けば、将来的に水産資源が脅かされるのは確実だ」

<死滅するサンゴ礁>

海水温上昇によるストレスは、サンゴ礁の白化現象の原因にもなっている。インドネシア政府のデータによれば、同国のサンゴ礁は、世界のサンゴ礁全体の10分の1以上を占めている。

東ジャワ州のマランにあるブラウィジャヤ大学沿岸海洋研究センターのスカンダル研究員は、「サンゴが死滅する、あるいは白化現象が進んでいくと、サンゴ礁はもう魚介類の生息・繁殖に適した場所ではなくなってしまう」と語る。

政府系の海洋学研究センターが2020年に発表した報告書では、インドネシアのサンゴ礁の3分の1近くを「悪い」「やや悪い」に分類している。サンゴ礁を構成するサンゴの半分以下しか生存していないという意味だ。

この報告書では、サンゴ礁に対するダメージの一部は海水温の上昇によるものだとして、多くのサンゴ礁が「回復不能点」に達している、つまり、すでに死滅しているか近い将来死滅する可能性があると述べている。

<海を去る人々>

レンバンにあるタシカグン漁港で、漁民のアブディさんの話を聞いた。10年前なら、3日間海に出れば10トンの魚を獲れたという。

現在、同じだけの漁獲を得るには、15日は漁に出る必要があるだろうとアブディさんは考えている。「ただし、天候がそれを許せばの話だ」

このところ漁業による収入がひどく減ってしまい、日々の生活を支える現金を得るためオートバイを手放さざるをえなかったという。

「また海に出られるようになったら買い戻すよ」とアブディさんは前向きに語る。

WALHIのリドワヌディン氏のグループは、魚が従来の漁場よりも遠くに移動し、異常気象のために漁業がこれまでより危険なものになれば、インドネシアの漁民たちの所得は大幅に落ち込んでしまうと予測しているという。

中部ジャワ州海洋水産省のクルニアワン・プリヨ・アンゴロ氏は、インドネシアの海洋関連セクターが気候変動と乱獲のために、インドネシアの海洋関連セクターが今後大きな課題に直面することを認識していると語った。

アンゴロ氏によれば、同州海洋水産省では州内漁業の持続可能性を高めるための指導に取り組んでいるという。その1例が、特定の魚種を獲るのに1年で最も適した時期を詳細に指定することで、これによって、いつ漁に出る必要があるかを正確に知ることができ、悪天候や海が荒れているときに不必要に船を出すことを避けられる。

またインドネシア政府は、漁獲量を改善するために、刺し網など近代的な漁具や、獲れた魚を市場価格の高い水産製品に加工する方法についての研修を、無料で漁民に提供する計画を立てている。

だが今のところ、家族を養うための苦労が増しているせいで、漁業を離れる漁民は増加している。

インドネシアの中央統計局が昨年発表したデータによれば、国内で活動する漁民の数は過去10年間で1割以上減少した。

東ロンボク県でも漁民の減少は顕著だ。かつては、日本、台湾その他の国に輸出するイカを加工する産業が盛んなことで知られていた地域だ。

漁獲量が急減し、漁民が他の仕事を探すようになる中で、漁業を営むH・アミン・アブドゥラさんは、「(繁栄は)昔の話だ。加工場もすべて閉鎖されてしまった」と語る。

アブドゥラさんによれば、この地域の住民は漁業ではもはや生計を立てられないと感じており、ほとんどすべての家庭では家族の誰かが国外で働き、仕送りをしているという。

「18歳以上の若者は海外に行ってしまう。なぜかって、漁業ではもう稼げないからだ」とアブドゥラさんは言う。

「温暖化が進行し続ければ、海から何を期待できるか分かったものではない」

(Asad Asnawi記者、翻訳:エァクレーレン)

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