[5日 ロイター] - 米国債市場が将来のインフレ率上昇を織り込んでいる。米経済が新型コロナウイルス流行による壊滅的な事業閉鎖から回復しているためだ。物価上昇圧力が引き続き弱いことから、米連邦準備理事会(FRB)はこうした動きを歓迎しており、インフレ期待はさらに上昇しそうだとアナリストはみている。
米国の向こう10年間の平均年間インフレ率の見通しを示す10年物米物価連動債(TIPS)のブレークイーブン・インフレ率(BEI)は一時2.19%と、2018年半ば以来の水準に急上昇した。
期間10年のBEIは先月、利益確定売りで2%を割り込む場面もあったが、その後再び上昇に転じた。
トレーダーは、昨年に第二次世界大戦後で最悪の落ち込みとなった米経済が今年下半期には正常化に向かい、物価が上昇するとみて投資に動いている。
ジャニー・モンゴメリー・スコットのチーフ債券ストラテジスト、ガイ・ルバス氏は、製造業、サービス業、労働市場、住宅市場がいずれも改善していると指摘、「今はすべてがホットだ」と述べた。「これほど多くの要因がインフレ上昇方向に傾くのは久しぶりだ」と言う。
大規模な新型コロナ追加対策法案が成立する見通しになったこともインフレ期待を押し上げている。米上院は5日、バイデン大統領が掲げる1兆9000億ドルの追加経済対策法案を実現するための予算決議案を可決、民主党は共和党の賛成が得られなくても数週間以内に法案を成立させることが可能になった。
FRB当局者らはインフレ期待の上昇を支持。FRBは昨年、物価上昇圧力が高まった状態を従来より長期間放置し、その間は利上げしない新戦略を打ち出した。
TIPSは、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が昨年12月の1.4%から将来2%超まで上昇することを示唆している。しかし実際のところ、FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数は過去、CPIより30-50ベーシスポイント(bp)低い水準で推移してきた。つまりPCE物価指数の上昇率はFRBが目標とする2%に届かない見通しだ。
バークレイズ(ニューヨーク)のマイケル・ポンド氏はTIPSが示すCPI予想について「2%のPCE見通しと比べて特に高い水準ではない」と述べた。
インフレ率が上昇するかどうか米経済が正常化するまではっきりしないことも、インフレ期待が高まる要因になっている。ポンド氏は「目先の見通しや現在のインフレ率がどうであれ、リフレのシナリオが間違いに終わるかどうかは今年下半期をしっかり見極めるまでは分からない」と話した。
また、物価の前年比上昇率は、昨年3月より前の分が比較対象から外れれば、見かけ上の伸びが非常に大きくなり、短期的にインフレ期待に拍車が掛かりそうだ。
とはいえ、実際にインフレが上昇しなければ、最近のインフレ期待の高まりが失望に変わる可能性もある。
PGIMのチーフ投資ストラテジスト、ロバート・ティップ氏は最近のインフレ期待の上昇について「市場はものすごく大きなフェイントをかけられた状態になる」と述べた。
ティップ氏はBEIについて、年内は上昇を続けそうだが、2.50%を超えることはないとみている。「投資家は米経済が絶好調だった2018-19年の状態に戻ると考えている。彼らが見落としているのは過去40年間、一貫して人口の加速ペースが鈍り、成長が鈍化しており、それに最近拍車がかかっている点だ」と言う。
TIPSのBEIは債券の需給にも支えられている。米財務省は財政支出を賄うために通常国債の発行を増やしているが、TIPSの発行拡大ペースは通常国債よりも鈍い。
しかも財務省は大量のTIPSを買い入れている。債券市場ではTIPSの流動性が通常国債よりも細り、価格変動が大きくなっている。
マニュライフ・インベストメント・マネジメントのマイケル・ロリツィオ氏は「TIPSの相対的な流動性不足がBEI拡大の要因の1つであるのは間違いない」と述べた。
ただ、年末に向けてインフレ上昇への期待が後退した場合には、TIPSの流動性不足がリスクをもたらすかもしれない。ロリツィオ氏は「市場の基調が変われば、TIPSの流動性不足が相場の逆転を加速することになるのは明らかだ」と述べた。
(Karen Brettell記者 Karen Pierog記者)
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