Reuters logo
コラム:技術革新と賃上げ、来年は物価めぐる綱引きの結果判明へ
December 21, 2017 / 12:06 PM / in a month

コラム:技術革新と賃上げ、来年は物価めぐる綱引きの結果判明へ

田巻 一彦

 12月21日、日米ともに好調な経済が続いているが、長期金利の上昇圧力が弱い。写真は都内のオフィスビル、2015年3月撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)

[東京 21日 ロイター] - 日米ともに好調な経済が続いているが、長期金利の上昇圧力が弱い。様々な要因が考えられるが、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)に代表される急速な技術革新が社会の構造を変え、物価や長期金利の上昇を抑える方向に作用している可能性がある。一方、日本ではようやく賃金上昇の圧力が高まりだした。この上下両方向の力のどちらが強いのか、2018年はその結果が明らかになる「年」になるのではないか。

<米に金利平坦化のなぞ>

10年米国債利回りUS30YT=RRは20日のNY市場で一時、2.497%と今年3月21日以来の水準に上昇した。米税制改革法案が成立する見通しとなり、景気押し上げの観測が広がったためだ。

ただ、来年に米連邦準備理事会(FRB)が3回の利上げを行う構えを見せている割には、上昇基調に力がない。

米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は18日、米国のイールドカーブがフラット化していることは、債券市場で米国の成長とインフレ率が将来的に低迷するとの見方が出ていることを示していると指摘。「こうしたことを深刻に受け止める必要がある」と述べている。

イールドカーブコントロール(YCC)を導入している日本では、10年国債利回りJP10YTN=JBTCが0%台前半から半ばで推移することが多く、低水準で安定した動きとなっている。

<長期金利に技術革新の下押し圧力>

日米で長期金利に上昇圧力がかからない理由として、米国では主要な機関投資家の中に株から債券へのシフトを進める動きがあり、このローテーションが需給を引き締めているとの見方がある。

また、日本では日銀のYCC政策が導入されて1年3カ月が経過し、超長期ゾーンも含めて金利が上昇しないという「予想」が、市場で浸透しているとの声が多い。

だが、日米ともに物価や長期金利が上がりにくいという「予想」が、市場でかなりの”支持”を集めていることが背景にあるのではないか。

その要因として、AIやIoTに代表される技術革新の波が、社会の構造を変えつつあるという現象があると指摘したい。

たとえば、米インターネット小売り大手アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)が物流倉庫で導入している自走式ロボットを駆使したシステムでは、国内の同業者が展開している倉庫に比べ、大幅に人手を減らすことができる。

国内でも、ヤマト運輸が来年早期に神奈川県内の新しい物流センターで、省人化の実証実験を開始。最先端の技術を活用して、コストの低減と生産性の上昇を目指す。

こうした取り組みは、中期的に生産性を上げ、日本経済の潜在成長力の引き上げに貢献することになるが、短期的には物価と長期金利の上昇圧力を緩和させる方向に働く。

米国では、こうした技術革新の進展が日本をはるかにしのぐスピードで展開しており、トランプ米大統領の製造業の米国回帰促進策で戻ってくる米企業の生産現場では、AIやIoTを大幅に取り入れたシステムで、省力化を図る現象に弾みがつくとみられている。

<人手不足と賃上げの効果>

一方、人手不足が深刻化する日本では、ようやく賃金上昇の圧力が顕在化してきた。日銀の黒田東彦総裁は21日の会見で「企業収益は過去最高で、労働需給も引き締まり、消費者物価の前年比上昇率も少しずつ上昇しており、賃金上昇圧力は着実に高まっている」と指摘。

    さらに「政府も企業による力強い賃金アップを後押しの姿勢。具体的な賃上げ率へのコメントは差し控えるが、日銀としても、労使双方で前向きの取り組みが広がることを期待している」と述べて、来年の春闘での賃上げに大きな期待感を示している。

    賃金が上昇すれば、勤労者の購買力が上がり、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費の拡大に弾みがつく。

    需要が高まれば、企業の価格転嫁への姿勢も変化し、値上げに慎重な企業の割合が低下し、物価上昇圧力が高まる方向に動き出す可能性が出てくる。

    米国では、税制改革による需要追加の効果で物価と長期金利を押し上げる要因が増えるという見方が、一定程度の割合を占めている。

    しかし、その結果として米長期金利が3%を超えて上昇すると予想する参加者は、今のところ少数派だ。

    2つの大きな力のどちらが強くなって、物価と長期金利がどちらの方向にシフトするのか──。

    AIなどの技術進歩がかつてないスピードで進み、過去の経験から未来を推し量ることが難しくなっている今、どちらの力が強くなるのかを正確に推理するのは難しい。

    この綱引きの結果次第で、日銀が導入しているYCCによる最適な「イールドカーブ」の形状が決まってくることになるだろう。

    *筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

    *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

    0 : 0
    • narrow-browser-and-phone
    • medium-browser-and-portrait-tablet
    • landscape-tablet
    • medium-wide-browser
    • wide-browser-and-larger
    • medium-browser-and-landscape-tablet
    • medium-wide-browser-and-larger
    • above-phone
    • portrait-tablet-and-above
    • above-portrait-tablet
    • landscape-tablet-and-above
    • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
    • portrait-tablet-and-below
    • landscape-tablet-and-below