May 10, 2019 / 4:36 AM / 16 days ago

米政府が対中関税引き上げ、市場影響は:識者はこうみる

[東京 10日 ロイター] - 米政府は10日、中国からの2000億ドル(約22兆円)相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げた。新たな関税は米東部時間10日午前0時1分(日本時間同午後1時1分)以降の輸出品に適用される。

 5月10日、米政府は、中国からの2000億ドル相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げた。写真はトランプ米大統領。ワシントンで昨年4月撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)

市場関係者のコメントは以下の通り。

●対立は根深い、折に触れ円債を支援

<みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏>

米政府による中国からの輸入品に対する追加関税がスケジュールどおりに発動された。今回は米税関が猶予期間を設けており、すでに出航した貨物については追加の部分は適用しないということもあり、市場はその辺りの猶予措置を含めてすでに織り込み済みのイベントだった。

今回の通商協議がいったん妥結したとしても、軍事的な部分を含めた米中の対立関係は根深い。長期的にみると、日本が軍事的には米国、経済的には中国と近いことから、立ち位置をどのように見出すかが今後の課題だ。

こうした背景から、折に触れて株安を経由して、円債のサポート材料になるだろう。

●世界・日本経済へ影響わずか、株安も米利下げで打ち消し

<日本総研の調査部長、牧田健氏>

昨年秋からの米中摩擦に比べて、今回の世界経済への影響は限定的だとみている。前回に比べて、中国は経済対策を打っており、米国は金融政策の方向性としては利上げから転じて利下げ観測が出ている。このため貿易摩擦の経済減速への影響は薄まる見通しだ。

経済インパクトとしては、中国からの2000億ドル相当の輸入品に対する関税を25%に引き上げても中国経済は0.2─0.3%減速にとどまり、それほど大きくならないだろう。日本経済への影響も、国際通貨基金(IMF)ではゼロと試算している。

もし追加で3250億ドル分にも関税が発動されると中国経済は最大0.7%程度の減速となるとみているが、IMFでは世界経済への影響はわずか0.2%程度、日本については東南アジアや米国からの輸入代替地となりむしろ若干ながらもプラス効果が出ると試算している。中国向けの日本からの投資は抑制され、資本財出荷もスローダウンするだろうが、代替地効果の方が上回るためだ。

リスクがあるとしたら、米国経済がコスト高となり、企業収益が下押しされ、株安が進行、リスク回避で円高となるシナリオだ。ただ米国で利下げが実施されれば株高となり、それほど大きなリスクとはなりにくく、これをきっかけに日本経済が景気後退となることは考えにくい。

●米国優勢でも手放しでドル買えず

<FXプライムbyGMOの常務取締役、上田眞理人氏>

米政府は中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げた。

為替市場では、追加関税自体は想定内だったが、協議が長期戦に持ち込まれたこと、日本の対米貿易黒字に対してもいずれ米国が強硬的な態度に出る可能性があることなどから、悪材料出尽くしでドル買い/円売りという流れにはならず、リスク回避の円高という方向に振れている。

通商協議からマクロ経済に視線を移せば、これまでのドル高トレンドを牽引してきた「相対的に強い米経済と利上げサイクル」という重要な車輪は既に失われている。

市場参加者の間では米国の利下げの可能性も取り沙汰され始めており、米中通商協議で米国が優勢だからという理由で、簡単にドルを買うわけにもいかなくなっている。

ドル=111円は天井感がでてきている。6月末までを見渡せば、ドルの反発余地は110円後半にとどまりそうだ。一方、ドルの下値余地は108円程度まであるとみている。

●世界経済、米大統領の想像以上に冷える可能性

<米州住友商事ワシントン事務所長、高井裕之氏>

トランプ米大統領が中国やイランなどに対して強硬姿勢を強めているのは、ロシア疑惑を巡る、長男ジュニア氏に対する上院委員会の追及などをかわしたいためだろう。

中国に対する強硬姿勢は株式市場や米国・世界経済にとってはネガティブだが、2020年の大統領選まであと1年半あり、トランプ大統領としては今年の5月、6月に経済や金融市場が多少動揺しても、来年秋まで良い形になれば良いと思っているのではないか。

もっとも、昨年末の株価急落時にはトランプ大統領も相当肝を冷やしたと米政権関係者から聞いた。今後も同様に株が急落するようなことがあれば、大統領としてもいったん戦線を縮小、対中貿易協議では妥協を図り、米連邦準備制度理事会(FRB)には利下げを要求させる、といった展開となるのではないだろうか。

米中貿易対立の世界経済への影響はすでに表れているが、トランプ大統領が対中、対欧など通商面の強硬姿勢を続けるのならば、世界経済は大統領の想像以上に冷える可能性がある。前人未踏の領域での話なので、影響がどの程度になるかはわからない。

米国は夏になると大統領モードに突入し議会が動かなくなるため、大統領はそれまでに米中問題を片付けたいだろう。ただ貿易面での合意は可能だが、知的財産などの構造問題に関しては、中国側の妥協も難しく、数年かかるのではないか。

●中国成長率を0.3―0.5%ポイント押し下げ

<バークレイズ証券調査部長・チーフエコノミスト、山川哲史氏>

米政府が2000億ドル相当の中国製品に対する関税を25%に引き上げることで、中国の成長率が0.3―0.5%ポイント引き下げられる。現在は関税を課していない3250億ドル相当分にも拡大した場合、加えて0.5%ポイント低下することになり、合計で1%ポイント低下する。

中国の成長率は明確に6%を割り込み5%に近付いてしまうため、相当大きなインパクトになる。欧州や台湾、日本は中国経済に対する感応度が高いため、大きな影響が出てくる。

今後、協議を続けて何らかの合意に達しても、米国が中国に対して輸出を増やすことになる。これによって、欧州や日本が割を食う可能性が高い。こうした問題も時間を経て出てくることになる。

中国の成長率が低下してしまう場合、中国政府は何らかの政策を発動する可能性がある。インフラ関連投資などの財政拡大かもしれないが、余地は限られている。預金準備率引き下げなど金融緩和を行う可能性や、人民元下落を容認する可能性が出てくる。

国内のデフレ圧力を人民元の下落で相殺することを容認することで、秩序ない形で人民元が下落すれば、日本でもドル安/円高が加速度的に進む可能性がある。

現在、円は15―20%割安とみており、100円付近まで緩やかに調整することは受け入れざるを得ない。ただ、短期間で急ピッチに進行した場合、「金融政策でとる手段はありません」と対岸の火事で構えることは不可能に近い。

どのような手段をとるかは、どの程度緊急性があるかによるが、日銀としては大々的な金融緩和にはもって行きたくないだろう。フォワードガイダンスの強化など緩和色をかもし出すことで何とか対応していくことになるのではないか。

消費増税をベースに教育無償化などの政策が組み立てられている。今から全てをやり直すのは難しく、必要ならば、補正予算を組んで対応することの現実性が高いと見る。

ただ、完全に決裂するとリーマン級という話にもなりかねないため、ほとんどゼロ成長の1―3月期GDPなども踏まえ、消費増税はもう一度見送る結論になってもおかしくない。今回のイベントは、消費増税の可否にとっても重要になる。

ただ、景気や市場への影響を考えると、米中双方ともクラッシュは避けたいだろう。いったん25%に上がっても、対話を続け、どこかで10%に戻す可能性もあるとみている。

*内容を追加しました。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below