[15日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は14─15日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を75ベーシスポイント(bp)引き上げ、1.50─1.75%とした。27年ぶりの上げ幅で、会見したパウエル議長は、7月の次回会合でも50bpもしくは75bpの利上げを示唆した。FOMC後、米株は上昇、ドルは売られた。市場関係者の見方は以下のとおり。
●タカ派的決定でも米金利低下、円金利も低下方向に
<アクサ・インベストメント・マネージャーズ 債券ストラテジスト 木村龍太郎氏>
FRB(連邦準備理事会)の先行きの景気に対する自信がやや揺らいでいるようだ。期待インフレに働きかけるヘッドラインのインフレ率が、国際商品価格やサプライチェーンといったFRBがコントロールできない要因に左右され、利上げしたとしても将来のインフレが予想通り下がるか自信がないということで、安定的・持続的な成長パスもやや揺らぎつつあると感じた。
また今回が75ベーシスポイント(bp)の利上げ、7月も50bpまたは75bpの利上げというのは結構タカ派な決定だったが、にもかかわらず米金利は短期まで含めて大きく低下で反応した。
特に2023年末には政策金利が3.8%まで上がるというのがFOMC(連邦公開市場委員会)参加者の中央的な見通しだが、足元の市場の織り込みは3.3%まで低下。投資家の間ではFRBは見通し通りに利上げができないのではないか、あるいは利上げしても来年末には既に利下げに追い込まれるのではないか、と景気の持続性にやや悲観的な見方をしている。つまり「FRBの見通しほどうまくいかないだろう」ということで、FOMC後の金利低下につながった。
円債市場にとっては、海外要因からくる金利上昇圧力が和らぐことになる。昨日は大荒れとなった日本国債市場だが、ECB(欧州中央銀行)とFRBの政策会合で金利上昇の景気に対する悪影響に目くばせがされたこと、またそれを受けた海外金利の反応は、円金利を落ち着かせ、低下させる方向に働くとみている。
海外金利が落ち着いてくると、先行きの景気への懸念を含めて、野放図な円安傾向に歯止めがかかるだろう。となると日銀が円安抑制のために政策を修正しなければならないという見通しは弱まるとみている。
明日終了する日銀会合については、政策は現状維持で、外生的インフレがあっても金融政策の修正の必要はないという従来通りの主張が繰り返されると予想する。
●インフレ抑制明確に、日本株は緩やかに上昇
<ソニーフィナンシャルグループ シニアエコノミスト 渡辺浩志氏>
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)時点では、6、7月は50ベーシスポイント(bp)の利上げを行うと示唆していたが、5月の消費者物価指数(CPI)が上振れたことなどを受け、利上げ幅を大きく引き上げた。
イレギュラーな対応ではあったが、FRBとしてインフレ上振れを看過せず景気を犠牲にしてでもインフレ抑制すると示し、信認を取り戻す上では有効な利上げだったのではないか。
先行きに関しては、景気は減速するものの後退はせずハードランディングにはならない形でインフレを抑制していくスタンスが示された。結果として、足元の市場のインフレ期待は落ち着いてきている。
日経平均株価はイベント通過で現在は反発しているが、大きな上昇は見込みにくい。米国株は金利に敏感な成長セクターを中心に下落基調が続いていたが、日本株は米国のバリュー銘柄と連動しやすい傾向があり、これまでの下落は米国株に比べて深くなかった反面、上がりにくい面もある。
円安の恩恵を受けにくい現状では、ドル高/円安基調が続いても株価を大きく押し上げるような要因にはなりにくい。
中長期的にみれば、米国のバリュー株が底入れし、緩やかに上昇する動きに連動する形で日本株も極めて緩やかに上昇していくとみている。年末の日経平均は2万9000円程度を予想している。
●円一段安の余地、払拭できず
<バークレイズ証券 チーフ為替ストラテジスト 門田真一郎氏>
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が、0.75%が「一般的な」利上げ幅になるとは予想していないなどと述べたことで、ドル/円の上昇にはいったんピーク感が出ている。
しかし、今後のインフレ動向や原油価格の推移によって、ドルの上昇余地はまだ残る。米10債利回りが3.5%を超えたり、原油価格が120ドルを上回るような展開になれば、ドル/円も直近高値の135.60円の上抜けを試すことになるだろう。
一方、われわれは日銀が9月会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を修正し、対象年限を従来の10年から5年へ短期化すると予想している。これは4─5%程度の円高圧力になり得ると試算できる。いずれにせよ、現時点で結論を出すのは尚早だろう。
株高が続けば、対豪ドルなどクロス円で円安が進む可能性はある。ただ、米国で景気の減速感が出てきた以上、グローバル株価の上値が重くなるかもしれない点には留意したい。
●データ次第で先行きに変化も 年後半はドル下落方向に
<りそなホールディングス エコノミスト 村上太志氏>
最大の注目点はドットチャートで、22年末で3.375%まで引き上げられた。市場の織り込みからすればサプライズではない。ここ数日の動きでインフレの見通しが変わっていたとみられるものの、ここまで引き上げるというのは正直驚いた。
75bpの利上げについても事前観測が高まっていたことから、市場にとってはサプライズではない。ただ、FRBは事前に示していた50bpの利上げを簡単に覆すなど、ビハインド・ザ・カーブがみられた。先行きを見ていく上で、ドットチャートに全幅の信頼を置いているわけではないが、データ次第で先行きも大きく変わるとみられ、今後は実データを確認しながらとなる。
パウエル議長は75bpの利上げは普通ではないとしているものの、7月会合では50bpもしくは75bpの利上げを挙げている。次回の米消費者物価指数(CPI)が前月と同じような強い伸びが示された場合は、75bpの利上げに踏み切るだろう。
年後半や年末にかけては、需要の落ち着きと共にインフレが前年比ベースではそこまで下がっていないまでも、前月比で鈍化の兆しがみえ、景気減速感が強まれば、ドットチャートを下回ってくるとみている。
インフレの落ち着きがみえるまでは、ドル/円は高止まり状況が続き、140円台にタッチする可能性はある。秋口くらいまでは130円台で推移し、年末にかけては130円を挟んだ方向にシフトしていく。
●目先はアク抜けで株高、インフレ警戒は継続
<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>
6月のFOMCでの0.75%の利上げは、市場でも前週末に発表された米CPIの強かった結果を受けて急速に織り込みが進んでいたため、イベント通過でいったんアク抜けし、株価は上昇で反応した。
FRBのパウエル議長は7月の大幅利上げも示唆した。市場では、年内いっぱい利上げが続くとの織り込みが進んでいる。金融引き締めに対する警戒感は、いったん織り込みが進んだとみて良さそうだ。
金融引き締めによる景気悪化への懸念はくすぶるが、まだ顕在化しているとはいえない。小売売上高は前月比減少とはいえ引き続き高水準にある。賃金も増えているし、PMIも節目とされる50を上回っている。ただ、FRBは、多少の雇用を犠牲にしてもインフレ抑制を優先させるとみられる。インフレ高進への警戒は怠れず、当面は不安定な相場が続くのではないか。
次の焦点は6月末発表予定の個人消費支出(PCE)価格指数と見込まれ、月内の日経平均は2万6500―2万8000円のレンジ内での推移とみている。9月以降に利上げ幅が縮んでくるとの見通しがつけば、警戒感は和らいでくるだろう。
一方、為替の急速な円安進行を踏まえ、明日の日銀の金融政策決定会合の結果への警戒感もにわかに浮上している。円高イベントになるかどうかへの目配りは必要になりそうだ。
●株価は自律反発に、次回米CPIが重要なポイント
<みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト 三浦豊氏>
FOMCに関する米国株のファーストリアクションは反発だったが、それを受けて日本株も反転することになるだろう。ただ、中長期的には不透明感が残り、今後のシナリオとしては下降トレンドが続き、ここでの切り返しは自律反発にとどまるとみられる。
先に発表された5月のCPIが想定以上に強かったことで、今回実施された75bpの利上げが決定的になったと思われるが、6月のCPI次第では次回FOMCでは100bpの利上げもあり得るとみられる。今回の動きでFRBは、よりインフレ抑制に対する姿勢を強めたとの印象があり、物価に関して強めの数値が出た場合、米国株式市場に影響を及ぼすことは想像に難くない。
当面はイベント通過による買い戻しの活発化で、日本株も底堅くなるものの、そうした落ち着いた局面も次回の米CPI発表まで。その数値が重要なポイントになりそうだ。日本株が米株の影響を受ける以上、引き続き米国の物価統計が注目されることになる。
●インフレ抑制で信認確保狙うも指針に影響
<ノーザン・トラスト・アセット・マネジメントのディレクター、ピーター・イ氏>
0.75%ポイントの利上げは市場に完全に織り込まれていた。過去3営業日に市場の予想が激変し、実質的にFRBにゴーサインを出した。FRBはチャンスを生かす必要性を感じ、インフレ対応への信認を高める好機だと捉えたのかもしれないが、フォワードガイダンスの信頼性を犠牲にしたと私は考える。
(カンザスシティー地区連銀の)ジョージ総裁が反対したのは恐らく、フォワードガイダンスを示すのが難しくなると考えたからだろう。
●景気後退回避に疑問符
<F.L.パトナム・インベストメント・マネジメントのチーフ市場ストラテジスト、エレン・ヘイズン氏>
FOMC声明や経済見通しには総じて目立ったサプライズはない。
経済見通しから言えるのは、ソフトランディング(軟着陸)の道が短く狭くなったということだ。つまりFRBは一段と高いインフレ率と失業率を予想し、より低い国内総生産(GDP)成長率を見込んでいる。アトランタ地区連銀の「GDPナウ」予測はゼロになった。
このためリセッション(景気後退)を回避して切り抜けられるか疑問符が付く。誰もが分かっていたことだが、FRBもこれで認めたということだ。今朝発表された小売統計も軟調で、ここ4営業日だけでネガティブな経済指標が複数示された形だ。
●来年以降の景気後退リスク高まる
<アルビオン・フィナンシャルの最高投資責任者(CIO)、ジェイソン・ウエア氏>
経済が急速に変化する中、FRBは後手に回っていることを認識しており、インフレ抑制に向けて必要な措置は何でも講じると再度表明した。
経済や景気後退(リセッション)に関しては、2022年のリスクはかなり低いが、23年と24年のリセッションリスクはFRBの失策によりここ3カ月で上昇した。
最も興味深い点は、カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁が反対したことだ。同総裁は利上げに消極的なわけではないが、現時点で50bpの利上げで十分だと主張している。インフレ対応で遅れ、1年前に対処すべきだったとされる中、景気が減速する今利上げを加速するという点に留意している。
●7月75bp利上げ示唆は一種の信任投票
<CFRAリサーチ(ニューヨーク)のチーフインベストメント・ストラテジスト、サム・ストバル氏>
パウエルFRB議長が次回7月の会合でも75bpの利上げが決定される公算があると述べたことを受け、市場は上向いた。
FRBがインフレ問題にようやく目を覚まし、一段と積極的に対応することへの信任投票のようなものだった。
●FRBまだキャッチアップ途上
<ホームステッド・ファンズ(バージニア州アーリントン)の債券部門トップ、マウリシオ・アグデロ氏>
FRBは全速力で前進しているが、原油価格とガソリン先物の価格から判断すると、総合(ヘッドライン)インフレ率の低下に取り組む必要がある。現時点ではまだキャッチアップしている段階だ。
昨年12月時点では、2022年末のフェデラル・ファンド(FF)金利は1%弱とみられていた。しかし今回は3.4%に上方修正されている。市場の12月会合に向けた将来の期待値を見ると、インプライド・レートは3.7%前後になっている。7月、そしておそらく9月のFOMCでも、もう一段の利上げを行う可能性は依然として残る。
市場は数日のうちに、利上げ予想を50bpから75bpに上方修正した。この速さに着目すべきだ。この時点では全ての選択肢がテーブルの上にあると思う。
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