[30日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は29─30日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50─1.75%に25ベーシスポイ/ト(bp)引き下げることを8対2で決定した。
利下げは予想通りで、前回9月に続き今年3回目。貿易戦争により米経済がリセッション(景気後退)に陥るのを防ぐ。ただFRBは、利下げを今後休止する可能性があることを示唆した。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●米中協議の先行き懸念でブル・フラット化
<モルガン・スタンレーMUFG証券 エクゼクティブディレクター 杉崎弘一氏>
ニュートラルという印象だ。声明文では「適切に行動する」という文言が削除され、前回と比べるとタカ派的。ただ、2.0%を上回るような物価上昇率がみられない限りは、FRBとして利上げパスに入ることはないことが示された。政策金利は当面据え置きになるだろう。
注目すべき点は、米国債のイールドカーブがブル・フラット化したことだ。リスクオンの環境下で、政策金利が現状維持という形になれば、カーブはスティープニングしてもいいはずだ。ブル・フラット化したということは、市場は米中通商協議の先行きを懸念しており、明るい未来を描けないということだろう。
米10年債利回りは2.0%の水準までは届かないという印象だ。米中通商協議で明確な合意がない限り、そこを抜けることは難しいだろう。円債も、米国債の動きにつられることから、金利上昇余地は限定的となるだろう。
10年最長期国債利回り(長期金利)は当面、マイナス0.10-マイナス0.25%のレンジで推移するとみている。仮に、米中通商協議が9月の関税を完全に撤廃して合意に至るなど、明るい未来がみられた場合、レンジ感が大きく変わる可能性はある。
●建前としての利下げ打ち止め、本音は不安
<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>
今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明では、持続的な景気拡大を維持するために「適切に行動する」が削除され、「FF金利の目標誘導レンジの適切な道筋を見極める」に置き換わったことで、市場では米連邦準備理事会(FRB)が利下げの打ち止めを示唆したと捉える向きが多かった。
しかし、12月以降のFOMCにおいて利下げが封印されたわけではない。
理由は、FRBはイエレン前議長の時代から毎回の会合を『Live Meeting』と位置付けており、過去の政策対応の延長線上に現在の政策があるのではないというスタンスを維持しているからだ。
パウエル議長も利下げ打ち止め感を強調せず「政策はあらかじめ決められたものではない」と記者会見で述べている。
ではなぜ今回、利下げはいったん収束という雰囲気を出したのかといえば、米中通商協議で両国が第1段階の簡素な合意に至りそうなことを市場が好感していることと、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱の可能性が後退していることがあるだろう。
この2大懸念要素が次回12月会合まで落ち着いているのであれば、あえて今、利下げ継続の方針に固執する必要はない。
今回のFOMCでは、短期金融市場でのドル金利上昇を抑制するために、少なくとも来年半ばまで大規模なドル資金供給を続ける計画を、パウエル議長が初めて口頭で伝えている。
こうした実質的な量的緩和に加え、今年3回目となる利下げまで実施したのであるから、当面緩和は十分というのが、FRBの本音ではないだろうか。
もしも、米中通商協議で第1段階の合意ができず、第4弾の対中制裁関税発動となった場合や、FRBが短期金利の上昇圧力を制御できなかった場合には、追加利下げや実質的な量的緩和の延長・拡大を選択することになるとみている。
●米好況を確認する形に
<キャピタル・パートナーズ証券 チーフマーケットアナリスト 倉持宏朗氏>
25ベーシスポイント(bp)の利下げを決定したことは予想通り。一方、パウエル議長が今後の追加利下げがないことを示唆したものの、そうなった場合に軟化すると懸念されていた米国株式市場が上昇し、東京市場に安心感を与えそうだ。
折しも、米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)GE.N、アップルAAPL.Oと好決算の発表が相次いでおり、追加利下げがないという失望感よりも、むしろ、米国の好況を確認する形になったと解釈されたのではないか。
東京株式市場では、アップルの好決算を受けて半導体関連株に物色の矛先が向けられるとみられるなど、好調な米国企業の業績に下支えされることになりそうだ。
●利下げ打ち止めで110円方向のドル高余地
<みずほ証券 チーフFXストラテジスト 鈴木健吾氏>
今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、「予防的」な利下げにいったん終止符が打たれ、今後の道筋を探る方向が示された。概ね市場予想通りの判断だった。
一方で、もう利下げはないと市場に受け止められたり、タカ派に転向したとみられたりすることを避けるため、パウエル議長は記者会見で、連邦準備理事会(FRB)が利上げを検討していないことや、利上げには大幅な物価上昇が必要との認識を示し、市場に対するニュアンスの伝達に細かく配慮した格好だ。
結果的に、こうした配慮は米長期金利の低下を招きドルの上値も抑えられたが、前日の長期金利低下やドル安の反応は、フローに基づく一時的なものだと考えている。
中長期的には、第3・四半期の米国内総生産(GDP)が前期比年率1.9%と市場予想を上回る伸び率を示したこと、米国と中国の間に横たわる政治リスクが落ち着く傾向をみせていること、そして今回の利下げ打ち止めとポジティブな材料がそろっているため、ドルは110円方向を目指すとみている。
●米中合意締結なければ12月利下げ
<ファースト・フランクリン・フィナンシャル・サービセズ(フロリダ州)の主任市場ストラテジスト、ブレット・ユーイング氏>
米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果は0.25%利下げで、先行きに関する文言もハト派的な内容だった。次回12月10ー11日のFOMC会合については、もし「第一段階」の米中通商合意締結が11月に実現しなければ、0.25%の追加利下げが行われ、反対に合意締結が実現すれば、指標内容に応じた対応が取られるだろう。
●適切に行動」削除に注目、サイクル半ばの調整終了の公算
<ステートストリート・グローバルアドバイザーズ(ボストン)の首席投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏>
予想通りに25ベーシスポイント(bp)の利下げが決定された。市場では、FRBがこれまでは「適切に行動する」としていたところを、今回は状況を注視するとしたことが注目されている。「行動」の文言削除で、将来的な利下げの公算が小さくなったと受け止められている。ただ、個人的にはそうした意図があったか確信はできない。
個人的には、金利据え置きを主張し、利下げに対する反対票が2票あったことが興味深かった。将来的な金利の道筋について、統一された見解はまだ出ていないようにみえる。
(9月のFOMCで50bpの利下げを主張した)セントルイス地区連銀のブラード総裁が今回は反対票を投じなかったことも重要な点だ。これにより、少なくともブラード総裁はサイクル半ばの調整は終了に近いと考えていることが示された。
●「保険」としての利下げ局面は終了
<CIBCキャピタル・マーケッツの北米為替戦略主任バイパン・ライ氏>
「保険」としての利下げ局面終了の可能性が示唆されたが、利下げサイクル終了の明白なシグナルは発せられなかった。われわれは声明上の文言変更をFRBが当面金利を据え置くシグナルと受け取ったが、依然不透明感は幾分漂う。
●データ次第で対応、追加緩和余地も
<フィエラ・キャピタル(ニューヨーク)のアセットアロケーション・マネジャー、キャンディス・バングサンド氏>
0.25%利下げは予想通りだった。声明では景気拡大を維持するために「適切に行動する」という文言が削除される一方、政策を巡って既定路線は設けず、まず今後の経済データを注視する姿勢が強調された。米連邦準備理事会(FRB)としてはデータ次第(data-dependent)で対応しつつ、正当化されれば追加緩和する余地も残すことで、タカ派とハト派のバランスを取ったといえる。
●強気姿勢後押し、債券市場は悲観論すぎ
<トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズ(ニューヨーク)の最高経営責任者(CEO)、マイケル・パーベス氏>
米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定は、債券市場よりも株式や信用市場の見方が正しかったことを裏付けている。債券市場はこれまでかなり悲観的な見方を示してきた。
FRBが指摘した非常に良好な経済状況は、朝方発表された国内総生産(GDP)統計でも裏付けられており、株式・信用市場の強気姿勢を後押しするものだ。債券市場は海外経済の低迷もあって、今年に入り異常に歪んだ動きとなっている。
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