[東京 22日 ロイター] - 神田真人財務官は22日夕、円買い介入に踏み切ったことを明らかにした。政府・日銀がドル売り/円買い介入を実施するのは1998年6月以来、24年ぶり。ドルは一時142円前半まで急落した。
市場関係者に見方を聞いた。
●低金利維持と介入、いずれも成功せず
<アシメトリックアドバイザーズ アナリスト アミール・アンバーザデ>
これで日本は2正面で戦うことになった。日銀は長期金利の上昇を抑えるために戦い、財務省は日銀の政策ミスの影響を相殺するために為替介入する。
いずれも成功しないだろうと我々は見ている。日銀の国債購入と同様、市場が為替介入に鈍感になるにつれ、145円台が再び試されることになるだろう。
●いったん落ち着きも単独では効果限定
<農林中金総合研究所 理事研究員 南武志氏>
神田真人財務官が準備万端と言っていたが、米、そしてスイスが利上げし、内外金利差が拡大したことを受け実弾を投入したのだと思う。
145円が日本政府の防衛ラインというのが認識されたことで、いったん為替は落ち着きそうだ。しかし、単独介入であり、効果には限界がある。この先、米国が想定以上に利上げする可能性を示唆する指標が出てくると、145円以上、150円に向けて円安が止まらなくなるリスクもあり得る。
●資金に限界、米国債売れば円安要因に
<ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 上野 剛志氏>
為替介入の規模は不明だが、円買い介入には外貨準備高という規模の限界がある。さらに外貨準備高の大半は米国債であり、介入のために米国債を売れば、米金利が上昇し、ドル高・円安要因になってしまいかねない。すぐに介入に使える資金は20兆円程度ではないか。
日米金利差や日本の巨額な貿易赤字など、ファンダメンタルズ的には、依然としてドル高・円安の環境だ。ドル高圧力が弱まるのをじっと待つ戦略なのかもしれないが、トレンドとしての円安を転換させるのは現時点では難しいだろう。
●当面145─146円が上限、米国の反応を注視
<大和証券 チーフエコノミスト 末広徹氏>
いったんは145円ぐらい、146円台が上限として意識される。為替介入でどれほど外貨準備使ったかまだ詳細が分からず、あとどれくらいできるかも分からないが、しばらくはその水準で動くと思う。日銀が政策維持を決め、米連邦準備理事会(FRB)のドットチャートも出た。しばらくは波乱がないと思う。
しかし、1か月半後ぐらいに米連邦公開市場委員会(FOMC)があり、米国は利上げをさらに続けていく。その間の経済指標を見て、FRBがどう動くかまだ不透明な部分も大きい。米国が利上げを加速するのでは、という話が出れば円安方向に試す可能性はある。
また、米国の反応を注視する必要がある。米財務省から好感するような発言があれば円安リスクは減る。逆に、日本が勝手にやったこと、といったコメントが出てくれば、この先さらに介入はやりにくくなる。
●日本孤立の危険、為替操作国に指定リスク
<岡三証券 投資情報部 シニアストラテジスト 武部 力也氏>
現在の状況では、米国から日本が為替操作国に指定されかねない危険をはらむ為替介入だ。米国の協力もしくは、G7(主要7カ国)など国際協調の枠組みが採られなければ、国際的な非難を受けかねない。そうなれば為替介入の効果は薄まり、マーケットは再び円売り攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
日本当局が1ドル145─150円のレベルは死守するという覚悟が見えた為替介入であり、当面はマーケットも敬意を表して、いったんはドル/円も落ち着くだろう。しかし、日本が孤立するような事態になれば、再び円安に向かうとみている。
●トレンドを変えるのは困難
<りそなホールディングス エコノミスト 村上太志氏>
日銀が金融緩和を維持したことを受けて、主要中銀との金融政策の方向性の違いが意識され、ドルは145円を超えて上昇した。同水準に達しても日本当局が口先介入にとどまるという認識を払しょくするため、実弾介入に踏み切ったのだろう。
実弾介入に踏み切ったことで、足元では一時140円前半まで下落するなど、ドル/円を一旦押し下げる効果はある。ただ、全体的なマクロ環境が変わらない限り、トレンドを変えるのは困難で、じりじりとした円安圧力はかかりやすい。
ドル売り/円買い介入は無制限に出来るわけではない。なるべく少ない実弾で効果的なことをしたいというのが政府の本音だろう。
米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過し、市場の不透明感は一旦払しょくされた。足元の米10年債利回りは3.5%台で推移している。長期ロンガーラン予想が2.5%で維持されたことを踏まえると、米金利上昇圧力は限定的になり、ドル/円は徐々に上値が重くなりやすい。今後米金利見通しが上振れた場合は、ドルが150円方向を目指すような展開となれば、トレンドは変えられない。
●効果は一時的か、数日で水準戻る可能性
<三菱UFJモルガンスタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>
政府が円買い介入をしても効果は一時的で、今後、円売り投機を招く可能性があるとみている。その理由は3つある。
1つ目は、日銀が金融緩和政策を行っている中で、財務省が円買い介入するというのは、政策として整合性がとれないからだ。円安を止めるために金融引き締めをしながら円を買うのであれば効果はあるが、国内の政策の整合性がとれない「ちぐはぐ介入」なので、効きが甘いとみている。
2つ目は、日本政府の単独介入であるためだ。過去の介入でも、単独で介入を行ったときは、短いと数日、長く続いても数週間で元の水準に戻ってしまう傾向がみられた。米国はインフレ抑制を最重要視しているので、ドル売り介入で協調してくれるとは思えない。
3つ目は、今回の介入は円売りではなく、外貨売りの介入であるためだ。現在政府は1.3兆円ほど外貨を持っているので、複数回(介入が)できるが、そうは言っても無限にはできない。どこまで外貨を取り崩すのか、市場に試されるリスクがあるだろう。
介入が実施されたのが1ドル=145.80円レベルと推測されるので、早ければ数日、数週間くらいで(同水準に)戻ってくるのではないか。ただ、介入することに全く意味がないかというと、市場がスピード違反になっている状況で、スムージングオペという意味合いはあるだろう。
150円台でドルを買うのが嫌だと思っている国内輸入企業に対し、140円台でドルを買わせるチャンスを一時的に与えたという、激痛緩和措置的な意味もあるのではないか。
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