[東京 31日 ロイター] - 元財務次官の木下康司・政策投資銀行会長は31日、ロイターのインタビューで、コロナ禍からの回復や円安が一因となって足元の日本経済は堅調としつつ、円安による交易条件の悪化は長期的にマイナスの影響を及ぼすとの認識を示した。世界経済の鈍化が日本に波及し、来年にかけて市場が荒れる可能性も指摘した。
木下会長は日本経済の現状について「堅調」だとし、新型コロナウイルス渦からの回復に加え、円安で円ベースの企業収益が押し上げられていることが要因の1つと指摘。自身が財務省国際局長を務め、政府・日銀が為替介入した2011年の円高局面を振り返り、「当時はドルが75円を割りそうになると日本の産業界が阿鼻叫喚という雰囲気になった」が、「今は円安で業績がかさあげされている企業も多く、産業界も阿鼻叫喚の当時とは若干雰囲気が違う」と語った。
一方で円安のマイナス面にも言及し、「交易条件の悪化は長期的に日本経済に悪影響を及ぼす」と述べた。日銀の大規模な金融緩和が円安の一因とされることについては、「いずれ出口を目指す必要がある点は、みんな分かっている」としたが、出口戦略は慎重に進める必要があると指摘。金利が急上昇した英国の例に触れた上で、「これまで以上に財政当局と金融当局が緊密なコミュニケーションを取る必要がある」と語った。
世界経済の先行きは「減速する予想が多い」とし、「コロナ禍からの回復とどれくらいせめぎ合うか。先行きの日本経済も楽観できず、経済やマーケットは今年から来年にかけて荒れる可能性もあり、注意深く見る必要がある」と警戒した。
政投銀は日本国内で資本性資金(リスクマネー)の担い手が少ない現状を踏まえ、2015年から特定投資業務を始めている。木下会長は 「ことし3月末で政投銀の実行額が約9600億円に対して、同一プロジェクトに民間資金が約6兆2300億円拠出されている」と説明。政投銀のリスクマネーが呼び水となり6倍の民間資金につながっていると述べた。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」