[東京 29日 ロイター] - 元日銀金融市場局長の山岡浩巳氏(フューチャー取締役最高サスティナビリティ責任者)は29日、ロイターのインタビューに応じ、日銀の金融政策運営について、物価の伸びが想定を上回って推移する場合には円安を放置することが難しくなり、出口戦略を示すことが選択肢になると述べた。
出口戦略では現在の10年金利ターゲットの代わりに緩めのレファレンス・レート(基準金利)や金利のレンジを示すことも一案だと話し、金利急騰時には国債買い入れで上昇を抑制するメッセージも必要だとした。金利上昇に伴う財政運営への懸念を払しょくするため、政府は財政運営上のコミットメントも示すべきで、政府・日銀の連携が出口戦略でも重要になるとの見方を示した。
山岡氏は2013年5月から15年9月まで日銀の金融市場局長を務めた。
<物価上振れなら円安「放置」困難に>
日銀は7月の金融政策決定会合で経済・物価情勢の展望(展望リポート)を議論する。消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の2022年度予想について、前回4月の前年度比プラス1.9%からどう修正するかが焦点の1つ。
山岡氏は、前年の携帯電話通信料の大幅値下げによる指数押し下げ効果が今年秋にかけてもう一段はく落し、コアCPIを押し上げることなどを踏まえれば、日銀の4月時点の予想は2%を超えると見込む民間調査機関に比べ「かなり低めだ」と話す。
7月会合で日銀が出口戦略を示す可能性は低いものの、先行き値上げがより広範に進み、日銀や民間の予測を上回る推移になると「円安が物価の追加的な引き上げ要因として働く」と指摘。「長期金利ペッグ政策による円安を放置できなくなる」と述べ、「為替レートそのものをターゲットにすることはできないが、物価の安定を確保していく観点から為替レートの変動にも対処しないといけない。長期金利の0.25%は維持できないという話になっていく可能性はある」と語った。
<出口戦略、財政もコミットメントを>
山岡氏は「物価が上がってしまって、中央銀行としての基本的な責務を達成できなくなったとなると中銀は世論の批判に耐えられるものではない」と指摘。出口戦略でも政府・日銀の連携が不可欠になるとの見方を示した。
山岡氏は日銀が出口に向かう際、市場を安定させるため、10年金利ターゲットの代わりにレファレンス・レートを示したり、先行きの金利の想定レンジを示すことが一案になるとした。その際、金利の急騰に対応するため、日銀が必要に応じて介入するというメッセージを出す必要があるだろうと話した。
そうした将来の金利パスに関する日銀のメッセージとともに、政府による「財政に対する何らかのコミットメントを出さなければいけない」と指摘。財政の持続可能性への懸念から長期金利が高騰するリスクがあるため、長期金利のペッグを修正する場合には財政への信任を確保するメッセージが必要になるとした。
国際機関で出ているイールドカーブ・コントロールの下での誘導対象を10年物国債金利からより短い年限に変更すべきとの指摘については「机上で経済学を学ぶと出やすい議論だ」と反論。10年物カレント銘柄の市場が圧倒的に厚いという日本の市場の特殊性を考えると「10年物をある程度ターゲットにするのは逃れがたい」とした。
<チーペスト銘柄の指し値オペ、出口のハードル高める>
6月の金融政策決定会合前には10年金利に強い上昇圧力が掛かった。日銀は先物への投機的な売りに対抗してチーペスト銘柄の指し値オペを実施した。
山岡氏はチーペスト銘柄の指し値オペについて「金利の先行き上昇を予想する先物市場に対して、その予想は間違いと言っているに近い」と指摘。チーペスト銘柄の指し値オペを継続したまま出口戦略に踏み込むと「市場には不意打ちになる」とし、「チーペスト銘柄の介入は投機的アタックに対抗する意味では強いコミットメントを示すことになるが、先行きの出口のハードルを高めていることは間違いない」と話した。
(和田崇彦、木原麗花 編集 橋本浩)
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