[東京 20日 ロイター] - 「モノ言う株主」村上ファンドの幹部だった丸木強氏が、ロイターのインタビューに応じ、日本企業の問題点として、現金を溜め込み過ぎていると指摘した。そのうえで余った現金を株主に返し、投資や消費に向かわせることが日本経済の活性化につながるとの認識を示した。
丸木氏は現在、100億円弱のアクティビスト・ファンドを運営。近いうちに、最大200億円まで運用できる「適格投資家向け投資運用業」の登録を目指すとした。
丸木氏は野村証券を経て、通商産業省(現経済産業省)出身の村上世彰氏が1999年に立ち上げたファンドに参画。2006年に村上氏がニッポン放送株をめぐる証券取引法(インサイダー取引)で逮捕された後、ファンド解散の手続きを指揮した。
一時期、表舞台から身を引いていたが、一昨年末に自らのファンドを立ち上げ、低い株価純資産倍率(PBR)でキャッシュリッチな中堅企業への投資を開始した。今年に入って、投資先企業に株主提案を行うなど、アクティビストとしての活動を本格化させている。
主な一問一答は以下の通り。
――村上ファンドの事件後、なぜまた投資の世界に戻ったのか。
「不完全燃焼だったという思いがある。2006年に(村上氏が)起訴され、07年春まで投資家に資金を返す仕事を責任を持ってやった。その後、意気消沈していた時期もあった。違う仕事をしようと思い、チョコレートの輸入販売なども手掛けた」
「一方で、日本経済の停滞を見ていて、なんでこんなことになっているんだろうと考えてきた。やはり、株主に原因の1つがあると思う。投資家に声を掛けてもらったこともあり、日本を変えるために、もう一度やりたいと思った」
――株主が原因とはどういうことか。
「政治が悪いという時に、結局、選んでいるのは国民だ。国民のレベルにあった政治家が選ばれている。企業も同じだ。経営者が悪ければ、主権者である株主が意見を言わなければならない。経営者を選べるのは、株主だ」
「しかし、日本の株主は権利の上に眠っている。きちんと権限を行使しなければいけない。今までの日本の株主は、常に政権与党である時の経営陣の政策に賛成してきた。それでは変わらない」
――そんなに悪い経営がはびこっているか。
「日本企業は現金を持ち過ぎだ。過去20年、日本の国内総生産(GDP)はほぼ横ばいだ。その間、上場企業の純資産は2倍以上に増えた。企業の持っている現金は220兆円程度あるとされる」
「企業に金融資産が溜まり過ぎて、滞留しているためにデフレになったと考えている。このお金を動かさないといけない。消費税を3%引き上げるために、5兆円の補正予算を組んだ。しかし、企業に溜まっているお金を2%使えば済んだはずだ」
「資金の使い道は、設備投資でも、従業員の給料でも、M&Aでもいい。しかし、使いきれないなら株主に返さなければいけない。株主はそのお金を再投資するかもしれない。個人だったら消費をするかもしれない。付加価値生んでいるのは営利企業だけだ」
「富を生んだ結果としてのせっかくのキャッシュを銀行に置いておくだけだったり、有価証券投資しているだけでは日本経済はよくならない。お金を循環させなければならない」
――日本版スチュワードシップ・コード導入で、投資家は変わるか。
「すごくいい政策だと思っている。もちろん、各方面に配慮した内容になっていて、定義があいまいな点もある。例えば、企業の持続的成長のため、という文言が入っているが、僕は株主価値向上のため、と読み替えて理解している。コードを決めた意義もあるし、すごく大きな進歩ではないかと思う」
――当たり前の内容だという指摘もある。
「他のファンドマネージャーが企業とどのような対話をしているのか分からないが、少なくても議決権行使行動だけをみていると、日本の運用会社は有権者としての権限行使をしてきたとは思えない」
「株主総会の議案数に対する反対の比率だけをみると、海外の運用会社の中には4割以上に反対している会社がいくつかある。日本の会社は10%、あるいはせいぜい10数%程度だ。権利の上に寝ているだけではないか。ステュワードシップ・コードに記されている通りに、やるべきことをやるのであれば、大きく変わるのではないか」
――企業と友好的な関係を築くフレンドリー・アクティビストを称するファンドも出てきた。
「それは、ネーミングの問題であり、営業戦略ではないか。はっきり言えば、アクティビストではなく、普通のボトムアップ投資だと思う。運用手法の1つであるし、それでパフォーマンスが上がるならいい。ただ、社長に面と向かって、辞めた方がいいのではないですか、とは言わないだろう」
「私たちのファンドは、アクティビストと言ってもらっていい。言う内容は厳しいかもしれないが、語り口はソフトなつもりだ。株主総会でもけんか腰では喋らない」
「相手が激高することはある。追い詰めるのではなくて、問い詰める。なんでこんなに現金を持っているのか、ここはおかしいのではないか、と問い詰める。合理的な答えが返ってくることは少ないが、途中でやめたりしない」
――ファンドの規模はどの程度までに拡大させるのか。
「ゼロから再スタートさせたファンドだ。まだベンチャー企業のようなもので、運用資産は100億円に達していない。ただ、早期に適格投資家向け運用業の登録を目指す。最大200億円の資金の運用が可能になる。その後、フルの運用業の登録を取り、いずれは、それなりの規模の企業にも影響力を持てるようなサイズにしたい」
「現在は時価総額が小さい企業にしか投資できない。大企業が変われば、日本経済はさらに変わるのではないかと思う」
――どういう出資先を募るのか。
「基本的に国内外の機関投資家を相手にしたいと思っている。まれに個人の富裕層もあるだろう。ただ、日本の年金は無理だろう。元村上ファンドには資金を出さないと思う。期待はしていない」
――投資先は、低PBR、キャッシュリッチなどいろいろな要素があると思うが、どういう銘柄が対象か。
「投資家と対話をしたがらない、コーポレート・ガバナンスが悪い会社が割安になっている。投資対象として魅力的だ。僕の投資した銘柄を見れば分かるが、過去にも5%以上買ったファンドがある」
「しかし、みんないつの間にかに撤退している。結局、やっぱりこの経営者は話しても無理だな、と感じて持っていても変わらないと思って売ってしまう。だから、割安で放置されている。でも、もし変わる可能性があるとしたら、投資対象として魅力的だし、投資する価値はあると思う」
――対象となる企業はどの程度あると見ているか。
「企業数で150―200社。時価総額で言うと、10兆円程度はあると考えている」
――増配の株主提案を行っているが、通りそうもない。
「株主提案は大和冷機工業6459.Tにすでに出し、確かに通らなかった。もともと創業者一族で4割以上持っているので難しいのは分かっていたが、一般株主の半数以上が賛同した。一般株主の賛成が増えてくれば、だんだん変わっていくかもしれない。そういう動きを期待している。日本デジタル研究所 6935.Tは、投資後、これまでに増配を2回している。これも、主張しなければ変わらなかったかもしれない」
――村上ファンドの反省点は。
「(村上ファンドとは)思想も手法もあまり違わないと思うが、ただ、穏やかにやろうと思う。態度は穏やかに、言語ははっきりと主張する。僕は別にアクティビストだからと言って、フレンドリーじゃないとは思っていない」
「(村上氏は)相手を追い詰めてしまう言い方をするときもあったと思う。もちろん、法令順守は、昔も今も気を付けてる」
*インタビューは18日に行いました。
(インタビュアー:布施太郎 程近文)
布施太郎 編集:田巻一彦
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