[東京 21日 ロイター] - 元日銀審議委員で慶應義塾大教授の白井さゆり氏は21日、ロイターのインタビューに応じ、黒田東彦総裁の続投を軸とした日銀の新体制においても、安倍晋三政権の下では金融政策の正常化に踏み出すことは困難と語った。
経済・物価が下振れた場合の追加措置では、一段の利下げは難しく、長期国債の買い入れの増額にならざるを得ないとの見方を示した。
政府は16日、日銀総裁に黒田氏の続投と2人の副総裁に若田部昌澄・早稲田大学教授、雨宮正佳・日銀理事を起用する人事案を国会に提示した。
白井氏は、正副総裁の人選について「驚きはない」とし、黒田氏を続投させなければ、政府が物価2%や名目国内総生産(GDP)600兆円という目標をあきらめたと受け止められるとともに「市場を安定させしっかりやる、というメッセージを出すためにも続投しかなかった」との見方を示した。
新体制の金融政策運営に関しては、完全雇用に近い状態を実現し、需給ギャップも解消した2017年が正常化に踏み出し、政策余力を確保する「ベストタイミングだった」と指摘。
今年に入って米長期金利が上昇し、株価が下落している中では「日銀は動けない」と述べ、「少なくとも安倍政権中は難しいのではないか。首相としても2%達成がみえていないのに正常化されたら説明が難しい」と語った。
そのうえで、今後は「五輪特需はなくなっていき、日銀の政策が需要を押し上げる効果も減衰する」とし、現行の緩和政策を維持しても「過去5年間より緩和の効果は出づらくなる。日銀にとっては非常に厳しい状況になる」と展望した。
一方、経済・物価が下振れた場合の追加措置では「できることは、せいぜい今減らしている国債買い入れを再び増やすことくらい」と指摘。現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策における長短金利目標の引き下げも難しいと予想した。
その理由として「YCCはマイナス金利の副作用を認め、マイナスに沈んだ長期金利をゼロ以上に上げ、スティープ化させる政策。事実上、金利を下げるのは無理と認めた政策」であることを挙げた。
また、白井氏は、新体制では2%の物価安定目標の柔軟化が求められると主張。現在の「2%」のままでは「何が何でも達成しないといけない、という誤解を国民に与えてしまう」と指摘。
具体的には「2%を中心にプラス・マイナス1%のレンジにすれば、2%インフレをあきらめてはいないが、1%も許容するということになる。国民にも受け入れられ、政策の柔軟性も確保できる」と語った。
木原麗花 編集:伊藤純夫
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