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焦点:制裁解除でイランが「のけ者」脱却へ、守勢に立つサウジ
January 19, 2016 / 8:18 AM / 2 years ago

焦点:制裁解除でイランが「のけ者」脱却へ、守勢に立つサウジ

[ベイルート 17日 ロイター] - 欧米による制裁が解除されたことで、イランが「のけ者」状態から地域的大国へと変身し、米国と新たな関係に入ったことが裏付けられた。これによって割を食う可能性があるのは、アラブ世界で米国の最も重要な同盟国であるサウジアラビアだ。

 1月17日、欧米による制裁が解除されたことで、イランが「のけ者」状態から地域的大国へと変身し、米国と新たな関係に入ったことが裏付けられた。写真はイラン国旗。ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部前で15日撮影(2016年 ロイター/Leonhard Foeger)

世界と主要国と核開発をめぐる合意に達し、16日の制裁解除を経て国際政治の表舞台へと踊り出たことで、イランは中東における陰の実力者として遠慮なく振る舞えるようになった。敵も味方も、イランの新たな姿に慣れていかなければならない。

今月、イラン領海に入り込んで拿捕(だほ)された米海軍の哨戒艇2隻の乗員が迅速に解放されたことは、数十年にわたり続いた西側との対立を越えて、新たな関係の時代が始まったことを印象付けた。

1979年の革命でシーア派ムスリムの聖職者が権力を握った後のイランでは、このような事件で手中に収めた人質を利用して、対立する西側諸国からの妥協を引き出す場面がよく見られた。

革命初期のイランは、テヘランの米国大使館で捕らえた52人の人質を444日間にわたって拘束。この事件と並行して、レバノンでは西側諸国の大使館や駐留部隊に対するイランの支援を受けた自爆攻撃、航空機のハイジャック、在留西側国民の誘拐・人質事件が相次いだ。

これらの事件は深い傷を残し、中東地域でも世界全体でも、無法国家イランに対する敵意を募らせた。だが、先週の米海軍との一件を2007年に起きた事件と比べると隔世の感がある。当時、同じような状況で拘束されたイギリス海軍の乗員はスパイ行為を疑われ、2週間にわたり拘束されたのだ。

米海軍の乗員の拘束をめぐる緊張は新たに生じた友好的な関係のなかであっさりと抑え込まれ、「米国とイラン両政府のあいだでの新たな関係の誕生を象徴している」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの中東問題専門家ファワーズ・ゲルゲス氏は語る。

<「邪魔者」ではなくなったイラン>

米国政府は依然として、イラン政府を牛耳るイスラム教の学者や指導者たちと相思相愛の関係にあるとはとうてい言い難く、公式にはイランの仇敵であるサウジを支持している。だがイランは政治的にも経済的にも魅力的だ。ゲルゲス氏は「地域的な超大国になる可能性があり、トルコに似た大きなポテンシャルを秘めた新興市場」と同国を評する。

「この地域におけるイランの極めて重要な役割、『イランはこの地域に浸透している』という新たな理解に基づいた、新たな関係がある」と同氏は指摘。したがって、米政府にとってイランはもはや邪魔者ではなく、中東地域の安定化に向けてポジティブな役割を果たし、「戦火を止めることに貢献する」可能性のある国になっていくだろう。

だが、サウジは依然としてイランと対抗することに執着している。厳格なワッハーブ主義スンニ派ムスリムであるサウジの宗教指導者は、シーア派を異端と見なしており、その点では、シーア派を根絶すべき偶像崇拝者だと考えている過激派「イスラム国」とさほど大きな違いはない。

イランがイラクからシリア、そしてイラン政府が提携する武装組織ヒズボラが最大の政治勢力となっているレバノンへと「シーア派枢軸」を構築するのに成功したことで、サウジは大いに慌てている。

サウジ政府は、シーア派が多数を占める隣国バーレーンにおける混乱も、またサウジが昨年空爆を開始したイエメンにおけるシーア派武装組織フーシによる反乱も、イランの支援によるものだと主張している。また、サウジ産原油のほぼすべてを埋蔵する東部州(同国内で少数派として軽んじられているシーア派の大半が暮らしている)においても、イラン政府が混乱を煽っていると考えている。

今月、サウジが反体制派のシーア派宗教指導者ニムル師を処刑したことで、イランとの関係はいっそう悪化した。

だが、米国とその同盟国である欧州諸国にとっては、イランを味方につけることが国益上きわめて重要になる可能性が高い。特に、イラクとシリアにおけるイスラム国との戦いにおいては、イラン政府の存在が非常に重要となろう。

同じことは、シリア内戦の収拾をめざす際にも言える。シリアのアサド大統領にとって、昨年秋にロシアが空爆によって参戦するまでは、権力の座を維持するうえで味方になってくれる国はイランだけだったのである。

<守勢に立たされるサウジ>

イランが自信を深める一方で、サウジ政府は守勢に回っているように見える。昨年、高齢のサルマン国王が王位を継承し、若年のムハンマド副皇太子に大きな権力が委譲されたことで、サウジ政府の動きは読みにくくなっているとサウジの情勢に詳しい筋は語る。

「サウジは混乱した非生産的な政策を推進しているという見方が広がっている」と、前出のゲルゲス氏は語る。サウジ指導部に経験と知恵が欠けているなかで、ワッハーブ主義がアルカイーダ及びイスラム国の台頭の背景となっているという。

「サウジは四面楚歌の思いで動いており、何か事件があるたびに、まるで世界が終わってしまうかのように反応している。長期的な視野なしに、怒りに任せて見境なく相手を非難している」と同氏は指摘する。

対照的にイランは「自国が上り調子にあり、世界から必要とされていると信じている」という。またイラン政府は、米国が国内シェールオイルの大幅増産によってサウジ産原油への依存から解放されたと理解しているように見える。

サウジ当局者は、自国の地域政策には一貫性があり、イデオロギーや宗教を動機とするものではないと説明する。

「イランがこの地域に混乱を招くことを認めるわけにはいかない。イランが我が国や同盟国の市民を傷つけることを許さないし、そのようなことがあれば対応する。だが、対応するといっても、イラン側の侵略があればという話だ」と、今月ロイターの取材に応じたサウジのジュベイル外相は語っている。

オックスフォード大学のファルハン・ジャハンプール氏は、サウジはイラン及び他のすべての湾岸諸国、さらにエジプトやトルコといったスンニ派の主要国とのあいだで、地域的な安全保障構造に合意する必要があると主張する。

「これらの諸国は協力し合うべきだ。敵対的な現状が続けば、敗者となるのは彼らだ。中東地域全体、さらにはそれ以上の範囲で数十年にわたる戦争が起きることになるだろう」と同氏は語る。

<新たなジレンマ>

イスラム教内のスンニ派とシーア派の対立は何世紀も前に遡る。近代以降においては、スンニ正統派のワッハーブ主義を奉じるサウジと、シーア派の宗教国家イランとのあいだの戦略的対立という形を取ることが多い。

2003年、米国主導の介入によってイラクにおいて少数派だったスンニ派による支配が覆され、イランの影響下でシーア派政権が樹立されたことで、宗派間の対立が再燃した。

レバノン出身のアナリスト・研究者であるアリ・アル・アミン氏によれば、サウジ政府は、イスラム国など同じスンニ派の対立勢力や、ワッハーブ主義的なシーア派に対する偏見を植え付けられた国内の反抗的な若者からの脅威の方をリアルに感じているように見えるという。

「イランとの戦いは国内での立場を強め、意志を強固にする」とアル・アミン氏は指摘。「体制を守り、すべてのスンニ派をサウジ政府のもとに結集することが目的だ」と語る。

もっとも、イランにも弱みがないわけではない。自国経済が世界市場とのつながりを取り戻し、投資によって新たな権力集団が生まれたときに、どこまで自由化を進めるべきかというジレンマに同国は直面している。

レバノン、イラク、シリアといった国々でイランが影響力の拡大に成功したのは、これら諸国が戦争や侵略によって無理やり開放され、分裂が当たり前になった状態での話だ。イランは、民兵組織など不安定な抜け道を使い、国家制度を迂回して利権を拡大してきた。

イラン政府が何よりも必要としているのは、中東地域で正当かつ建設的な地域的大国として受け入れられることだ。

「イランの役割は常に、社会における対立と分裂に立脚しており、政府機関を通じたものではない」とアル・アミン氏は言う。「イランのプロジェクトは危機なしには存続できず、国家との関係を通じた安定というオプションは持っていない。シリアにおけるイランの影響力はすべて国家の枠外であるし、イラクやレバノンでもそれは同じだ」

イランが地域的大国としてアラブ諸国に認めてもらうためには、妥協する必要がある。その一つは、イラク、レバノン、シリアの状況に関して、これまでよりも控えめな役割に甘んじることだ。

「イランは地域的な大国にはなったが、その立場を承認されるためには、自らの役割を限定しなければならない。シリア及びレバノンでのプレゼンスを維持することはできない」とレバノン出身のベテラン評論家Sarkis Naoum氏はロイターに語る。

アラブ首長国連邦(UAE)の英字紙「ザ・ナショナル」の論説委員であるファイサル・アル・ヤファイ氏は、イラン政府は中東地域のさまざまな武装グループに対する支援を見直さなければならないと主張する。「(イランが)国際社会の一員になりたいと心から願うのであれば、国際社会のルールに従わなければならない」と同氏は言う。

中東をめぐる争いにおいてイランが勝者であると宣言するのは時期尚早と、ゲルゲス氏は指摘。とはいえ、「イラン人は確かに巧妙さと賢明さ、交渉能力、駆け引きの力を示している。自らが置かれた環境のなかで主要なプレイヤーとしての立場を確立し、(世界)経済における主要なプレイヤーになる能力を持っている」と付け加えた。

(Samia Nakhoul記者)

(翻訳:エァクレーレン)

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