October 12, 2019 / 11:00 PM / 7 days ago

焦点:流血広がるイラク貧困地区 反政府騒乱さらに激化も

[バグダッド 8日 ロイター] - イラク国内に広がる反政府デモが、一段と深刻化する様相を示している。バグダッドなど複数の都市で起きた当局とデモ隊の衝突による流血の事態は、反体制色の強い貧困地区にも拡大。事態の悪化を恐れる政府側は住民支援などを打ち出しているが、抜本的な解決には程遠く、国内には「死と復讐の連鎖」を懸念する声もある。

 10月8日、バグダッドなど複数の都市で起きたイラク当局とデモ隊の衝突による流血の事態は、反体制色の強い貧困地区にも拡大。写真はバグダッド市内を走る軍用車と警察部隊。10月7日撮影(2019年 ロイター/Wissm al-Okili)

<抗議参加者は「みな同胞」>

反政府デモに伴う衝突ではこれまで当局側からは実質的な譲歩がほとんど見られなかった。だが、バグダッド市内でも特に貧しいサドルシティ地区で抗議参加者が死亡、当局の対応にも変化が生じた。

イラク軍は同地区からの撤退を命じ、治安部隊は過剰な暴力を振るったことを初めて認め、市民に対する実力行使に関わった者の責任を追及することを約束した。 また貧困層支援に向けた予算の拡大も約束されている。

治安部隊や現地有力者、国会議員やアナリストらの見方では、イラク政府は、サドルシティでのデモが拡大によって、さらに多くの死傷者を伴う混乱につながるのではないかと動揺しているという。この地区は、2003年の米国によるイラク侵略の後、シーア派民兵が米軍を攻撃する拠点となっている。

現地の部族有力者であるシェイク・シヤー・バハドリ(Sheikh Shiyaa al-Bahadli)氏は、「兄弟や親族を殺されて憤激する人が出てくる。彼らは部族を通じて復讐したいと考えるだろう」と語る。

「我々は事態を落ち着かせようと努力している。抗議参加者はみな我々の同胞だから、話し合っている。武器を使う、あるいは政党が絡むような方向に進めば、イラクはますます秩序を失い、より多くの血が流れることになる」

アルバハドリ氏は、混乱の原因は腐敗した当局にあるとして、政府が本格的な改革に向けた立法措置を行わなければ、抗議デモは続くだろうと警告した。

しかし、政府の改革が多くのイラク国民を十分に納得させるものとなる可能性は低い、という専門家らは見る。イラク国民は政治システム全体の刷新を要求しており、彼らに言わせれば、嫌悪の対象である支配階層が、平時においてさえ大半のイラク国民の生活を惨めなままとしているからだ。

<政府の腐敗や劣悪な暮らしに怒り>

先週バグダッド中心部で突然発生し、南部の都市に広がった抗議行動は、6日になってようやくサドルシティ地区に波及した。同地区で10数名が死亡したことで、死者数は少なくとも合計110人に達した。そのほとんどは抗議参加者である。

イラクは2003年から2017年にかけて、外国による占領、内戦、イスラム国による反乱を経て、ここ2年近くにわたり相対的な安定を実現していたが、今回の混乱により、それも崩れ去ってしまった。イスラム国に対する勝利が宣言されて以来、今回の混乱は、イラクの治安にとって最大の難問となっている。

抗議参加者の多くは無秩序に広がる郊外で暮らす若者たちだ。都市郊外は、市民の怒りの原因である劣悪なサービス、失業、慢性的な汚職を象徴する地域であり、有力聖職者ムクタダ・サドル師を支持する民兵の多くも、都市郊外で暮らしている。

サドル師は、シーア派の名家に生まれた聖職者であり、数万人の支持者を動員する力を持つ。先週は抗議参加者の側に立って政府の退陣、選挙の実施を要求し、イランに支援された政治勢力・民兵が優位を占める政府・議会に対抗する姿勢を見せた。ただし、自らの支持者に街頭行動への参加を促すには至らなかった。

8日の国営テレビの報道によれば、アデル・アブドルマハディ首相は、危機の打開に向けて、有力な宗教指導者・部族指導者との協議を行ったという。

連鎖反応的な暴力というリスクを裏付けるように、バグダッドでは、6日にサドルシティで殺害された犠牲者の遺族を含む一群の抗議参加者からの銃撃により、一晩のうちに治安部隊の隊員1人が死亡、4人が負傷したと警察が発表した。

政府は当初、貧困層への補助金支給、大卒者の雇用機会拡大を提示していた。バグダッドでは8日、新たに約束された給付金を得られるものと期待して、労働省前で数十人が列をなした。

イランに支援された民兵組織「人民動員隊」(PMF)出身の国会議員は、今後、バグダッドや暴力的な衝突が発生した州の治安機関トップを更迭するといった動きがあり得ると話している。

アブドゥル・アミル・アルタイバン氏は、「政府は抗議参加者であれ治安部隊の隊員であれ、死亡者の遺族に補償を行っている」と話す。

<弾圧拡大の脅しも>

抗議行動に対する政府側の当初の対応は非常に苛烈だった。ロイターのジャーナリストは、屋上から群衆に向けて発砲する治安部隊の狙撃手によって、抗議参加者が死傷するのを目撃した。だが内務省は、政府部隊が抗議参加者を直接射撃したことを否定している。

サドルシティ地区の狭い街路には、バグダッドの人口800万人のうち3分の1が暮らしており、この地区で暴力的衝突が発生したことで、政治家たちは、少なくともうわべだけでも、抗議参加者の不安にまともに対応している態度を見せる気になったという可能性が高い、とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのトビー・ドッジ教授は言う。

「サドルシティは常に、バグダッド市の周縁部における不安要因として不吉な影を落としている。(略)この地区で多くの人が命を落とせば、死と復讐の連鎖が始まるだろう」

治安部隊のミスを認める公式声明について、ドッジ教授は「サドルシティが関わってきたこと、そして激しい暴力が用いられたことが、今回の謝罪の引き金になった」とみる。

その一方で、親イラン強硬派は、今回の暴力的衝突は、外敵の支援を受けた「潜入者」の責任であると主張し、改革が実施される一方で、さらなる抗議デモが発生したら、これまで以上の実力行使によって対応することになる、と警告する。

<支配層エリートと民衆との戦い>

PMFのファリフ・アル・ファヤッド(Falih al-Fayyadh)党首は7日、「抗議が突発的で自発的なものだという話も聞くが、私たちは別の筋からの情報を得ている」と述べたが、詳細については明らかにしなかった。

「我が国に害をなそうとする者への我々の対応はして、国家とその機関による断固たるものになるだろう。(略)クーデターや反乱のチャンスはない」と彼は言う。さらに、サウジアラビアや米国といったイランの仮想敵国を示唆しつつ、「外国勢力はイラクにおける混乱に乗じようとしている」と言葉を添える。

ドッジ教授は、イラク当局はあれほど改革を約束する一方で、現状維持のためには実力行使に頼ることになるだろう、と話している。

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「お決まりのパターンだ。弾圧を開始し、それから、いずれは皆が忘れてしまうものと期待しつつ大盤振る舞いを公約する。ほとぼりが冷めた頃に、また弾圧だ」と同教授は言う。

「こうした大衆的な抗議の盛り上がりに対する支配層エリートの対応は、信じがたいほど高圧的だ。インターネットを遮断し、ジャーナリストを標的にする。これは独裁体制に向けた明らかな一歩だと私は思う」

(翻訳:エァクレーレン)

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