[東京 3日 ロイター] - 米グーグルGOOGL.O子会社が開発したAI(人工知能)が囲碁世界チャンピオンに勝つなど、特定の場面では人間をしのぐようになったAIが、ビジネスの現場にも浸透し始めている。
日立製作所6501.T研究開発グループの矢野和男技師長は、ロイターのインタビューで、「ビジネスの売り上げ増やコスト削減など、顧客のアウトカム(結果)に直結すること」をAIシステムの開発に重点を置いていると述べた。
日立のAIシステムは流通、物流、金融、鉄道など14分野57案件(2016年6月時点)で稼働しており、矢野氏は世界で最先端の技術レベルであると強調するとともに、分野ごと案件ごとの個別対応を必要としない「汎用性」が同社システムの強みだと語った。
こうしたAIの汎用化は、電卓など専用機の機能がパソコンに収れんしていった経緯と同様、必然的な流れと指摘。グーグルやアマゾンAMAZON.Oなどの米IT企業は特定用途のAIで先行しているが、日立としては「いよいよ汎用化の時代が来たと判断してAIに投資した」との戦略を語った。
半導体技術者出身の矢野氏は、日立が半導体事業から撤退したことを機に、データ活用の研究に転進。その成果を「データの見えざる手」(草思社)として出版している。
インタビューの詳細は以下の通り。
──人間の脳の仕組みを応用し、大量のデータを読み込ませて画像などを正確に認識する「ディープラーニング」がAIの進化に大きく寄与したと言われている。
「(取材中、人間の姿を模したレゴブロックがブランコの漕ぎ方を自ら学習するビデオを再生し)事前知識がない中で、最初はやみくもに漕ぐだけだが、(振幅の)1周期に膝を2回を曲げる奥義を自分で見出して、5分くらいで人より上手になった。跳躍学習というディープラーニングよりも進んだ技術だ。ポイントは、(ブランコの)振れ幅をどうやって大きくするかを自分で考えること」
「日立でもディープラーニングは使っている。画像などを認識するにはよいが、汎用性が低い。ビジネスの様々な問題の個別化対応を人がやっているとコストがかかって、結局、生産性が下がる。多様、複雑化する状況にビジネスを自動適用させるというのがAIの最大の価値、役割だ。いまAIと称しているもののほとんどは、人間が問題ごとにプログラムを作っている」
──(1980年代の)第2次AIブームのときに、様々な専門知識データを集めたシステムが、『もしこうなら、こうなる』というルールを大量にプログラムして失敗した。
「(その教訓として)ルールの代わりにデータを入れ、学習できるようにした。(昔と違い)大量のデータを読み解くだけのコンピューターのリソースがある。データからモデルに変換するいろいろなアルゴリズムが過去20年間ほどの地道な研究で蓄積されてきた。データとコンピューター性能の条件が整ってきて、データから(有意な)何かが得られるようになった」 ──日立が開発しているAI技術は世界で最先端か。
「もちろんそうだ。物流倉庫でAIを活用、作業のスケジューリング化で生産性を向上(日立によると8%)させた事例もそうだし、鉄道で電力を14%削減した事例もある。汎用的なAIは日立しかないと私は認識している。ITや設備に人工知能を接続して、目的を高めるアクションを作ることと(汎用AIを)定義している」
──ホームセンターでの実験でAIが店舗の「高感度スポット」を発見、従業員の滞在時間を増やすと客の購入金額が上昇するという著書の実例が興味深かった。 「5年以上前に実証実験としてやった。いまでは14分野57案件で活用されている」
「顧客利益に関係するコスト(低減)、売り上げ(増)などの結果やアクションに直結することがシステムの特徴。57件は有料でサービス提供している」
──コンピューターやインターネット市場では米国勢が席捲していて日本企業は市場の主導権を握れなかったた。AIで潮目が変わるか。
「ネットの世界では米国が強いのは事実。技術は(当初は)特定用途で使われ始める。電卓を作る時、電卓用の計算機(コンピューター)を作るのが当たり前だった。そうした作業がインテルINTC.O(の汎用性技術)に移行した。インテルは汎用のマイクロプロセッサーを作って、ソフトウェアで(パソコンを)動かすようにした」 「特定用途(に使われる人工知能)は実用化されている。グルーグの検索などまさにそれだ。アマゾンの(サイト画面に出てくる)リコメンド(商品推奨)も人工知能技術が背後で使われている。(技術史における)用途特化と汎用の波の中で、いよいよ汎用化されるときが来たという判断をして、(日立として)5年くらい前から投資をしてきた」
*インタビューは7月21日に実施しました。
浜田健太郎 山崎牧子
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