November 1, 2019 / 5:11 AM / 13 days ago

ブログ:「民族共生」施設建設で引き裂かれるアイヌの人々

[東京 29日 ロイター] - 北海道白老町の緑に囲まれた湖のほとりで、国立のアイヌ文化振興施設の建設が進んでいる。だが、消えつつある文化を称えるためのこの施設は、アイヌのコミュニティーを分断する事態も招いている。

10月29日、北海道白老町の緑に囲まれた湖のほとりで、国立のアイヌ文化振興施設の建設が進んでいる。平取町二風谷地区の民芸品販売店前で8月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

総事業費約200億円の「民族共生象徴空間」は、来年の東京五輪開幕前の4月24日の開業に向けて順調に工事が進んでいる。安倍晋三首相によるインバウンド拡大策の一環で、マラソン競技が開催される札幌にもさらに観光客を呼び込む狙いだ。

白老町の「民族共生象徴空間」で撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

アイヌ語で「大勢で歌うこと」を意味する「ウポポイ」という愛称が付けられた同施設には、国立アイヌ民族博物館のほか、19世紀に日本政府が北海道を植民地化した際、その多くが破壊されたアイヌの村を再現した集落や、各地の大学で保管されていた数百のアイヌの遺骨を集約した慰霊施設などが整備される。

アイヌを先住民族と認める2008年の国家決議から10年以上、施設建設の検討が重ねられてきた。しかし、一部のアイヌ民族の末裔からは、政府が過去の歴史の直視に失敗したことを示すものと受け止められている。アイヌの正確な数は、はっきりしていない。

アイヌの伝統衣装を着た八谷さん(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

東京五輪を前に、政府が国際的な地位の向上を狙った部分が大きいのではないかと懸念するアイヌもいる。

アイヌの伝統的な入れ墨の彫り師をしている八谷麻衣さん(36)は、踊りなどを見ようと観光客が集まるテーマパークになってしまうのではないかと冷ややかだ。

<サイレント・アイヌ>

研究者によると、アイヌの人々は1300年代までに北海道やサハリン、ロシアに定住したと考えられている。狩りや漁をして暮らし、すべての事物に魂が宿ると考えるアニミズム信仰を持ち、他の言葉との系統が不明な孤立した言語であるアイヌ語を話した。

アイヌの儀式に参加する八谷さんの祖母(左)とその夫ら

日本は19世紀に北海道を支配下に置き、植民地化した。日本人による開拓を進める一方で、アイヌを「旧土人」と位置付けて同化を強制した。

カリプペカプと呼ばれるアイヌの遊びをする子供(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

2017年の調査では、北海道全体でアイヌの人口は約1万3000人だが、実際はこれよりずっと多いと推定されている。名乗りを上げることを恐れる人や、国内の別の場所に移り住んだ人が多いためだ。

アイヌの大学進学率は他に比べて大幅に低いほか、世帯収入も格段に低い。

北海道大学文化人類学者の石原真衣氏は、社会がこれまでも現在も、アイヌを受け入れていないと指摘する。自分の子どもにもアイヌのルーツを告げない人が今も多いという。

15世紀のアイヌと和人の戦いで、和人側の拠点となったとされる上ノ国町の史跡(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

石原氏は12歳の時、母方の祖母がアイヌだったことを知った。自らのルーツから切り離されたアイヌのことを、石原氏は「サイレント・アイヌ」と呼ぶ。

2009年に「先住民族の権利に関する国連宣言」に賛同した日本政府は、アイヌに対する新たな政策の検討を進めてきた。検討の早い段階で、国立の「象徴的な空間」の整備方針がまとまり、白老町ポロト湖畔で形になりつつある。

東京のアイヌ料理店で6月、開店8周年を祝い儀式を行う人々(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

アイヌの代表者は2018年まで内閣官房と協議し、国有地への法的権利や、アイヌ文化や言語を伝承するための予算の拡充、政府からの公式な謝罪などの要求を取りまとめた。

だが、これらの要求が考慮されることはなかった。

平取町で、門別徳司さんが狩った鹿(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

内閣官房アイヌ総合政策室の小山寛参事官は、国民全体の理解を得られていない中では、行政ができることは限られていると説明。今日の北海道を作って定住した開拓者から反発が起きる可能性があるなどと語った。

<消滅の危機>

ハンターをなりわいとするアイヌの門別徳司さん(36)は、国立施設の建設を含めた政府の対応は無意味だと話す。子ども時代に受けた差別の記憶が、アイヌの狩猟文化継承のため専業のハンターとして生きる決意をさせたと、門別さんは話す。

狩りの前に祈りをささげる門別さん(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

猟銃を手にシカ狩りに出かける前に、シラカバの皮を火にくべて祈りを唱えた門別さんは、政府には伝統的な儀式を行える場所を用意してほしかった、と話した。

北海道白老町の廃校の体育館に並べられた展示品(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

約2000人のアイヌを代表するグループが、政府のプロジェクトを支持している。観光客の増加による経済効果のほか、アイヌの文化やアートをテーマにしたフォーラムが開催されるというのがその理由だ。博物館の学芸員に採用された20人のうち、5人がアイヌだ。

博物館の建設現場にほど近い廃校で、学芸員が展示の準備を進めている。教室だった部屋にはアイヌの伝統的なコートやナイフ、儀式に使われる杖やビーズ細工のネックレスなどが並び、体育館では、クマのはく製やアイヌの工芸品の隣で、ダンサーが練習を行っていた。

八谷さんがアイヌの入れ墨に使う道具。札幌で撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

笑顔で踊るパフォーマーの写真を掲載したパンフレットの予定稿には、アイヌの狩猟文化は「消滅の危機に瀕している」と書かれていた。アイヌの人たちに日本名を名乗ることや日本語を話すことを強制し、前出の八谷さんが復活させようとしているアイヌの伝統的な入れ墨を禁止した日本の政策には、一切言及がない。

札幌の中心部を伝統装束姿で歩く八谷さん(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

歌手としても活動している八谷さんは、他のアイヌのパフォーマーと共に、ある曲を練習をするよう要請されたという。東京五輪の開催式で演奏される可能性があると聞かされた。

八谷さんは、北海道は日本の植民地だと断言する。そう口にするのは難しいが、過去に行われたことを見れば、そう結論せざるを得ない、と話した。

(文:Tim Kelly、写真:Kim Kyung-Hoon、翻訳:山口香子、編集:久保信博)

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