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日銀が長期金利の許容変動幅を拡大:識者はこうみる

[東京 20日 ロイター] - 日銀は19―20日に開いた金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の下での10年物国債金利の許容変動幅について、従来のプラスマイナス0.25%からプラスマイナス0.5%に拡大することを決めた。政策金利は短期、長期ともに据え置いた。金利のより自由な変動を許容することで市場機能の改善を促し、金融緩和の持続性を高める狙い。市場関係者の見方は以下の通り。

 日銀は12月19―20日に開いた金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の下での10年物国債金利の許容変動幅について、従来のプラスマイナス0.25%からプラスマイナス0.5%に拡大することを決めた。市場関係者に聞いた。都内で2014年1月撮影(2022年 ロイター/Yuya Shino)

●新総裁下の柔軟化先取り、正常化策には直結せず

<野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏>

日銀の金融緩和姿勢が悪い円安を助長しているとの外部からの批判を受け入れたかのようなYCC(イールドカーブ・コントロール政策)修正を決めたのは非常に驚きだったが、足元では円安が一巡して批判が沈静化してきたこのタイミングだからこそ、YCCの修正を行っても日銀が外部からの圧力に屈したとの印象を回避できると考えたのではないか。

今回の措置は、YCC修正に強く反対してきた黒田総裁が新体制に一定程度の配慮を示し、政策移行を多少なりともスムーズにするために柔軟化姿勢に転じたことを意味すると思われる。この点から、新総裁下での政策の柔軟化を先取りしたものと解釈できるのではないか。

といっても、すぐに金融政策が大きく修正され、正常化策が講じられるわけではない。その前には、2%の物価安定目標の位置づけを中長期の目標へと修正すること、総括検証のようなものを実施すること、の2つの段取りが必要となる。

●不意打ちの政策修正、日銀にとっては危険な賭け

<みずほ証券 チーフエコノミスト 小林俊介氏>

かつて日銀理事からもイールドカーブ・コントロール(YCC)を修正する際は不意打ちで行う旨の発言が出ていたが、今回の決定はそれを実現した格好だ。市場参加者の多くが政策修正を見込んで日本国債をショートしている中で行えばデメリットが大きい。市場の催促に負けた格好となって中央銀行の沽券にかかわる上、金利が急騰して市場のショックは大きくなり、投機の成功がさらなるショートを誘発するためだ。年末で参加者が少なくなるタイミングで不意打ちの変更を行うことは理にかなっていたと言える。

来年1─3月の長期国債買い入れ額を増額するなど、YCC修正に伴う打撃を一定程度抑制する工夫もみられた。それでもなお、今回の決定が日銀にとって危険な賭けであることに変わりはない。

一度市場に屈服してしまった以上、さらなる政策変更を催促されうることは自明の理だ。よほど強いコミットメントを発しなければ中銀の信認は回復しないだろうし、そもそも日銀自身がコミットメントを反故にし続けている以上、もはや市場の期待に働きかける政策が効果を発することはないかもしれない。

今後の政策変更の本丸は、YCCのさらなる修正というよりマイナス金利の撤廃となる可能性が高い。YCC修正の前にプラス付利への回帰を行うことは人為的に日本国債のイールドカーブを完全にフラット化させることと同義であり、今回の決定が先んじたことは納得感がある。

日銀はその後、相応に強い経済環境とインフレ率という一定の条件下で、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)の購入停止やYCCのさらなる修正を目指すことになるだろう。もちろん、そうした政策変更の時間軸は次期総裁・副総裁の人事に強く依存することになる。

●総裁会見で円もう一段変動か

<JPモルガン証券 市場調査本部 為替ストラテジスト 中村颯介氏>

タイミング的にはサプライズだったが、ここまでのドル/円の動きは、長期金利の変動幅拡大は3―4円程度の円の押し上げ効果がある、と従来から試算していた程度の下げとなっている。

黒田総裁がこの後の会見で、さらなる政策修正に関するヒントを提示すれば、円は一段高となってもおかしくない。だが、あくまで市場機能の低下に配慮した修正だと強調するようなら、急変動の反動として、多少の円売り戻しがあるかもしれない。

●正常化へマーケットは「疑心暗鬼」に

<大和証券 チーフエコノミスト 末広徹氏>

日銀は長期金利の変動許容幅を従来の「プラスマイナス0.25%程度」から「プラスマイナス0.5%程度」に拡大した。もっとも、声明文のフォワードガイダンス部分は変わっておらず、今回の措置も「緩和の持続性を高めることで物価安定目標の実現を目指す」ものと書いている。日銀はあくまでボラティリティーに対応したレンジ拡大と説明するとみられる。ただ、マーケットはこの先、金融政策の正常化に疑心暗鬼になると思う。正常化の議論がくすぶり続けることになるだろう。

●YCC延命で次期総裁に時間的猶予

<T&Dアセットマネジメント チーフ・ストラテジスト兼ファンドマネジャー 浪岡宏氏>

今回の政策はある意味YCC(長短金利操作)の延命に寄与する。黒田東彦総裁の退任が近い中で、今の金融政策の枠組みはある程度維持しつつ、一方でこのまま何もしないで引き継ぐと新総裁にはやりにくい状況になってしまう。新たな政策手段を講じるための時間的な猶予を与えることに寄与した。

米国がまだ利上げ局面にある中で、環境としてはぎりぎりのタイミングだった。もし遅れていたら、より一層の円高につながりかねないリスクがあった。

今の政策枠組みでは大量の買い入れを続けなければいけなかった。そういう市場予想がなされてしまうと日銀のバランスシートが一層拡大するリスクがあった。ある意味みんなが現状維持を予想していた中で変えたことは、日銀としては「してやったり」だろう。

●政策正常化を市場は意識、株安は一時的か

<GCIアセットマネジメント ポートフォリオマネージャー 池田隆政氏>

日銀が長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大し、その数字自体にはそこまで驚かなかったが、このタイミングで決定したことは市場にとって大きなサプライズとなった。長期金利の上昇で政策金利も今後変更される可能性があり、マーケット参加者は「日銀が金融政策正常化に舵を切った」と認識したのではないか。

株式市場にとっては将来的な長期金利の上昇が嫌気され、幅広く売りが出ているが、この売りが長続きする可能性は低いとみている。初期反応としては株安だが、冷静に考えればイールドカーブ・コントロールの許容変動幅しか政策は変わっていないので、今回の日銀会合を材料にした売りも落ち着いてくるだろう。

●ファンダメンタルに即した政策で違和感ない

<JPモルガン証券 チーフエコノミスト 藤田亜矢子氏>

YCCの修正は思っていたより若干早かった。来年3月か、それより早い段階とみていた。政策として自然な動きであり、ファンダメンタルズに即した政策を行ったという意味では違和感はない。この先どのように解除していくか、例えばもう一段拡大させるのか、あるいはこれを維持したままマイナス金利に着手するのかが注目される。

今回日銀は市場機能の低下を理由にしてYCCを修正したが、やはりインフレ動向なくしてはできなかったことだと思う。政治的にも、金融政策正常化の機運は高まっている。黒田東彦総裁の任期中にマイナス金利解除があるとは見込んでいないが、超緩和政策を長期にわたり維持したことの弊害への意識が与党内でも出てきているのだろう。

●先行き不透明な中で害及ぼしかねないサプライズ

<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>

長期金利の許容幅拡大はサプライズだった。いずれ緩和を縮小することは間違いではないが、海外の景気の先行きが不透明で市場が不安定な中では、このようなサプライズは実体経済にも市場にも害を及ぼしかねない。大きな変更をするのであれば、もう少し事前に織り込ませるべきだった。日銀に対する信任も揺らぎかねない。

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