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コラム:オミクロン株登場でも円安の構図、注視すべき実質実効レート=唐鎌大輔氏

[東京 30日] - 新型コロナウイルスの新変異株・オミクロン株の出現と感染拡大を警戒し、11月26日の金融市場は世界中で大荒れの様相となった。米金利低下とドル安が進み、結果として外為市場でも円安機運が一服している。 

 新型コロナウイルスの新変異株・オミクロン株の出現と感染拡大を警戒し、11月26日は米金利低下とドル安が進み、結果として外為市場でも円安機運が一服している。 だが、筆者は過剰反応だと考えている。みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏の見解。写真は2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White/Illustration)

だが、筆者は過剰反応だと考えている。少なくとも常に「相手がある話」の外為市場において、日本経済の劣勢を理由に円を手放す2021年に見られた構図が2022年以降、簡単に変わるとは思えない。

<20年のドル安から21年に戻す>

2021年はドル全面高のように感じられるかもしれないが、2020年初頭からの動きとして振り返ると大分イメージも変わってくる。G7(主要7カ国)の名目実効為替相場(NEER)に関し、2020年初頭から足元までの変化率を見ると、ドル相場は昨年の下げをようやく取り返したくらいのイメージにしかならない。

2020年通年と2021年初めからの変化率(11月23日時点、BIS公表値)を比較・総合すると、ドルは2020年の下落幅であるマイナス3%程度を2021年の上昇幅プラス4.2%でようやく打ち消し、上昇幅を確保したイメージになる。

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長再任を経て、FRBが現行の正常化プロセスの継続性を確固たるものにしたと考えれば(それがドル/円の115円突破の理由だったはずである)、「利上げを当て込んだ米金利上昇に伴うドル高」はこれからが本番という考え方もできる。

もちろん、それがオミクロン株で遅延するというリスクシナリオが浮上しているのが現状だが、メインシナリオに置き換えるほどの確証は、まだ、誰も持っていないだろう。事実として米国経済のインフレ高進は消費者心理や可処分所得を毀損しており、(供給制約に対する処方箋は利上げではないという問題意識はさておき)正常化に前向きな金融政策の姿勢は、容易には崩せないと考えておきたい。

<過去2年弱でユーロが最強、円は最弱>

それ以外の通貨はどうだろうか。過去1カ月間に関して言えば、ユーロ相場の下げに着目する向きもあるが、NEERで言えば、2020年にプラス6.9%と大幅上昇したが2021年はマイナス3.5%と下落したに過ぎず、ようやく半値押しのイメージである。むしろ過去2年弱の相場を踏まえるのであれば、ユーロは依然としてG7における最強通貨であり、世界最大の貿易黒字を背景に底堅さを維持しているという点に着目したい。

また、英ポンドは2020年にマイナス1.8%と下落したが、2021年はプラス4.4%と上昇。カナダドルは2020年にプラス0.3%と横ばいだったが、2021年はプラス2.0%とともに上昇している。

ここまでに登場した通貨は、2020年初頭から2021年11月末までの変化率がみなプラスである。いずれの通貨も程度の差こそあれ、行動制限の解除に伴い実体経済が潜在成長率の数倍のペースで成長を果たした国の通貨ばかりである。

片や、円は2020年の1.4%上昇に対して2021年はマイナス8.1%と大幅に下落しており、その下げ幅はG7において突出している。

慢性的な行動制限によって成長率は低迷し、需給面では貿易黒字から赤字へ転落する月間が多くなり、金利面では何があっても緩和を解除しないという確証を持たれている円は「安心して売れる通貨」になり下がっているというのが、2021年の外為市場の実態ではないかと思われる。

こうした構図からくみ取れる情報は色々考えられるが、似たような日本の劣後は株式市場からも読み取ることができ、やはり金融市場における「日本回避」の色合いは否めないものがある。

<のりしろがある欧米とない日本>

足元で直面している変異株による感染拡大、供給制約、高インフレなどは欧米を筆頭に世界経済の大きな下押し要因に違いない。だが、結局、そうした敵失で日本経済の貧相が隠されるわけではないことを2021年の金融市場はよく示していた。このような基本認識は2022年にも通じるはずである。

例えば今後、オミクロン株の影響で米国やユーロ圏の成長率が下方修正される可能性は確かにリスクだが、そもそも2021年の欧米は潜在成長率の数倍のペースで走ってきた経緯がある。これに対して緊急事態宣言を乱発した日本経済は、概ねマイナス成長に沈んできた。

これから景気に下押し圧力がかかるにせよ、欧米と日本では前提となる実体経済の「のりしろ」がかなり違う。要は「強いものが弱くなる一方、弱いものがさらに弱くなる」という話であり、常に「相手がある話」の外為市場において、円の相対的な魅力の無さがクローズアップされる状況は本質的に変わらないように思う。

もちろん2022年以降、日本だけが感染拡大を回避できたといった明らかな優越があればその限りではないが、現実的な話ではないだろう。

<注目の節目は「120円」ではなく「70.64」>

なお、成長率や物価に関する日本の劣後を前提とすれば、今後の注目はドル/円の水準よりも実質実効為替相場(REER)の水準ではないだろうか。既に円のREERは今年10月時点で70.82と2015年6月(70.64)以来の安値を記録している。2015年6月はドル/円相場が125.86円をつけ、REERの水準に関し黒田東彦日銀総裁が「これ以上円安になりそうもない」と述べた時期だ。

円相場の次の節目と言えば、対ドルの「120円」と思われがちだが、筆者はREERにおける「70.64」を割り込む展開を注視している。それは円の購買力が変動相場制移行直後と概ね同水準に回帰するということでもある。

当時よりも名目ベースで見た円相場が円高水準であるにもかかわらず、REERの水準が当時並みに円安となっているのは、ひとえに日本の物価が国際的に見て低いからだ。

相対的な物価の低さは、そのまま実質為替レートの下落に効いてくる。経験則に倣えば、その物価格差は名目ベースの円高で調整されるはずだが、もはや貿易黒字を持たず、対外純資産における証券投資割合も低下した現状を踏まえると、「円買いの源泉」を見出すのは困難である。

REERが長期平均からかい離している事実を踏まえ、平均回帰性向を理由に名目円高を予想したくもなるが、それが現実になる経路は乏しいという実情がある。

<REER下落が巻き起こす中長期的な議論>

しかし、名目円高にならなくても、日本の物価が上がるという経路でREERが上昇するという経路もあり得る。周知の通り、日本以外の諸外国では物価・賃金が上がっている。

とすれば、パンデミック終息後に日本へ戻ってくる海外旅行客(インバウンド)の購買力は、日本人から見て相当パワーアップしていると考えられる。

このケースでは、インバウンドを念頭に財・サービスの価格が引き上げられる展開が当然予想されるし、それ自体が国内物価を押し上げる材料になり得る。その動きが極まって行けば名目円高という経路ではなく、国内物価が上昇するという経路でREERが押し上げられる展開になる。それが日本経済や日本に居住する人々にとって幸せなことかどうかは、様々な議論を呼び起こすだろう。

金融市場では、ドル/円相場の水準やこれに付随する株価といった短期的な材料が注目されやすいが、REERが歴史的な安値を記録すれば、そうした日本経済の将来を見据えた中長期的な議論も盛り上がることになる。

事実、「安い日本」を特集するような風潮が夏場以降、非常に強くなっているように思える。日本経済にとって試練の時ではあるが、「円安が万能薬」のように崇め奉られる誤った政策思想がようやく修正に向かうのであれば、それ自体は前向きな話と考えたい。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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