[東京 17日 ロイター] - 新型コロナウイルスを巡る政府の規制緩和を背景に、東京株式市場では空運株や旅行関連株などの物色が活発になっている。国内の人流回復で恩恵を受ける企業は業績・株価ともに好調だ。一方で、水際対策が本格緩和されたものの中国人観光客の戻りは鈍く、インバウンド消費に依存する企業は苦戦を強いられている。「経済再開(リオープン)」関連銘柄に跛行色がみられる状況で、相場全体の押し上げ効果は持続力が不透明との見方が多い。
<回復途上のインバウンド関連銘柄>
東京市場では17日、日経平均が軟調に推移する中、リオープン銘柄がしっかりとなった。日本政府観光局(JNTO)が16日に発表した10月の訪日外国人旅行者数は、前月比2.4倍の49万8600人(推計)となり「ひとまず期待が先行した」(国内証券のストラテジスト)との声が聞かれた。
リオープン銘柄は、国内の人流回復への期待とともに夏ごろから上昇基調に転じた。これに、政府が新型コロナの水際対策を10月に本格的に緩和したことで、インバウンド需要の回復期待が加わり、空運株や鉄道株などを物色する投資家の動きは、秋口から勢いを増した。
年初からの株価の騰落は日経平均がマイナス2.6%なのに対して、日本航空は18%高、ANAホールディングスは15%高となっている。ホテル事業などを手掛ける藤田観光は14%高だ。
シティグループ証券の株式ストラテジスト、阪上亮太氏は、飲食店向けの業務用冷蔵庫を扱うホシザキなど「インバウンドの回復に波及して業績改善が見込める銘柄に物色を広げようとする動きも出ている」と指摘する。年初からのホシザキの株価は3.9%高となっている。
<中国人観光客の回復鈍く>
もっとも、市場では「空運株は典型的に期待先行で買われた面が大きく、今後は業績の回復など実態が伴ってこないと、株価が一段と上昇するのは難しい」(GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー、池田隆政氏)との声も聞かれる。
ANAHDの株価は4日に付けた年初来高値の3022円を節目に、コロナ禍で急落した後の戻り高値付近で踏みとどまっている。
外国人観光客は徐々に回復しているが、コロナ禍前に主流だった中国人観光客の戻りは鈍い。19年の訪日外国人観光客数は3188万人で、そのうち3割超の959万人が中国からの観光客だった。
10月の訪日外国人旅行者数は、前月比で増えたが、19年の同月と比べると80.0%減と低水準だ。中国からの訪日客は2万1500人で、全体の4%にとどまる。コロナ禍による行動制限や中国景気の減速が影響しているとみられている。
中国人観光客の売り上げが大きい資生堂の株価は年初から7%安とさえない。同社の22年1―9月期の連結業績(国際会計基準)は、純利益が前年同期比38%減の290億円だった。
横田貴之CFO(最高財務責任者)は、インバウンド客の消費について「中国人の売り上げが約9割というのが19年当時の状況」だと振り返る。残りの1割は売り上げが伸びる可能性があると予測する一方で、「今年に関しては、(インバウンド回復の)大きな影響はないのではないか」と述べた。
一方、国内消費回復の好影響を明確に受けている企業は、業績や株価の伸びの大きさが目立っている。百貨店株が堅調で、高島屋の株価は年初から1.5倍となっている。22年3―8月期の連結純損益は135億円の黒字と、前年同期の赤字から黒字に転換。夏場に行動制限が出なかったことで、売り上げの回復につながった。
サンリオは23年3月期の連結純利益予想を前年比16%増の40億円に上方修正した。上期は、ゴールデンウイークや夏休み期間に行動制限なく営業できたことで、実店舗やテーマパークの客数が大幅に伸長。株価は年初から約1.6倍の水準で推移している。
同社の担当者によると、19年3月期にPOSで集計したデータでは、実店舗での売り上げのうち約20%がインバウンド客による消費だった。足元では数%程度にとどまっており、業績改善は国内需要の回復が追い風になった様子がうかがえる。
<中国「ゼロコロナ」の行方に関心>
シティグループ証券の阪上氏は、コロナ禍前はインバウンドの勢いが顕著だったとし「(インバウンド関連銘柄は)長期でみた場合には上昇余地はあるが、短期では不透明」と指摘する。中でも、既にコロナ禍前の水準まで株価が戻ってきている銘柄は、一段と買われるのが難しい状況だという。
足元で急速な円安進行が一服している点も、「インバウンド回復の期待を後退させる材料になりかねない」(GCIAM・池田氏)という。
カギを握る中国人観光客の今後の回復については、やはり同国が維持する「ゼロコロナ政策」次第との見方が多い。
藤田観光の株価は10月19日に年初来高値を更新して以降、上昇の勢いが鈍化している。同社の22年1―9月期の連結純損益は31億円の赤字。同社によれば、コロナ禍前の19年はインバウンド客が全体の顧客の4―5割を占め、うち約半分が中国からの観光客だった。ゼロコロナ政策が緩和されれば、客足の回復も見込めるとし「中国の動向を期待を持って注視している」としている。
中国では隔離期間の短縮などゼロコロナ政策の緩和の動きも出ているが「多少の制限緩和という印象。中国からどんどん人が海外に出ていける状況とは程遠い」と、ソニーフィナンシャルグループ・シニアエコノミスト、渡辺浩志氏は指摘する。仮に中国の方針が明確に転換されるとしても、タイミングとしては次の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)がある来年3月以降と、渡辺氏はみている。
●インバウンド関連銘柄の株価騰落(16日終値、%)
年初来 19年末比
ANA HLDG 15.2 -23.9
日本航空 18.0 -23.6
JR東海 3.6 -27.7
JR東日本 7.9 -22.5
JR西日本 13.6 -42.0
エイチ・アイ・エス 5.2 -37.2
藤田観光 13.3 -0.8
花王 -9.7 -39.8
資生堂 -7.6 -23.8
ヤーマン 14.9 50.6
ビックカメラ 17.7 -8.9
高島屋 51.4 31.9
三越伊勢丹HLDG 37.7 19.0
オリエンタルランド -0.3 29.8
サンリオ 66.8 94.0
ホシザキ 3.9 -7.7
日経平均 -2.6 18.4
(リフィニティブデータに基づきロイターが作成)
浜田寛子 編集:平田紀之
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