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アングル:恒例化する経済対策、使われぬマネーが回す市場

[東京 22日 ロイター] - 日本では最近、経済対策がほぼ毎年のように編成されている。需要不足の日本では政府支出が欠かせないとの指摘もあるが、民間の消費や投資は一向に活性化せず預金や内部留保が貯まるばかりだ。使われないマネーは銀行預金に滞留、国債消化に回り金利を抑え、日本株のサポートにもなっているが、出口が見えない循環に市場の評価は厳しい。

 11月22日、日本では最近、経済対策がほぼ毎年のように編成されている。需要不足の日本では政府支出が欠かせないとの指摘もあるが、民間の消費や投資は一向に活性化せず預金や内部留保が貯まるばかりだ。都内で8月撮影(2021年 ロイター/Marko Djurica)

<需要不足の日本>

経済対策は世界金融危機以降、ほぼ毎年のように策定されている。最近はコロナ対策で規模が急拡大しており、 岸田文雄首相による今回の経済対策は財政支出が55.7兆円と過去最大になった。2000年以降の単純累計で事業規模が約618兆円、財政支出(国費)は約252兆円に達する。

*2000年以降の主な経済対策

閣議決定 当時の首相 経済対策のタイトル 事業規模 財政支出(国費

2000年10月 森 日本新生のための新発展政策 11.0 3.9

2001年10月 小泉 改革先行プログラム 5.8 1.0

2001年12月 小泉 緊急対応プログラム 4.1 2.5

2002年12月 小泉 改革加速プログラム 14.8 3.0

2008年8月 福田 安心実現のための緊急総合対策 11.7 2.0

2008年10月 麻生 生活対策 26.9 5.0

2008年12月 麻生 生活防衛のための緊急対策 37.0 10.0

2009年4月 麻生 経済危機対策 56.8 15.4

2009年12月 鳩山 明日の安心と成長のための緊急経済対策 24.4 7.2

2010年9月 菅 円高、デフレへの緊急対応 9.8 0.9

2010年10月 菅 円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策 21.1 5.1

2011年10月 菅 円高への総合的対応策 23.6 2.0

2012年11月 野田 日本再生加速プログラム 5.0 1.3

2013年1月 安倍 日本経済再生に向けた緊急経済対策 20.2 13.1

2013年12月 安倍 好循環実現のための経済対策 18.6 5.5

2014年12月 安倍 地方の好循環拡大に向けた緊急経済対策 3.5 3.5

2016年8月 安倍 未来への投資を実現する経済対策 28.1 13.5

2019年12月 安倍 安心と成長の未来を拓く総合経済対策 26.0 13.2

2020年4月 安倍 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 117.1 48.4

2020年12月 菅 国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策 73.6 40.0

2021年11月 岸田 コロナ克服・新時代開拓のための経済対策 78.9 55.7

累計額 618 252.2

*単位:兆円、出所:内閣府HP

「ばらまきの批判は当たらない」と、岡三証券のチーフエコノミスト、会田卓司氏は指摘する。今の日本は恒常的に、企業や家計が消費や投資を抑え貯蓄を増やす需要不足に陥っており、政府が需要を創出しなければ景気は悪化する状態にあるという。

会田氏の試算では、現在の日本は25─30兆円程度の需要不足状態にある。今回の規模の経済対策を行って、ようやく企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの国内資金需要が5%程度のマイナス(需要がある状態)と適度な水準になると指摘する。

「民間需要が乏しい中で、政府が緊縮財政をすれば、結局は経済全体で見て需要不足になり、税収が減少し、財政再建は逆に遠のいてしまう。ばらまきの批判もあるが、まずは政府が需要を生み出すことが重要だ」と会田氏は話す。

アベノミクス以降も補正予算が毎年のように編成されたのは、政府が総需要を高められなかったためだとの分析はエコノミストの間で少なくない。3本の柱の1つは積極的な財政であったが、民間の需要不足を十分埋めるほどの規模ではなかったとみられている。2回の増税も景気に水を差したという。

<増えるばかりの貯金>

しかし、総需要不足の原因は、家計や企業など民間の貯蓄過多にある。これを解消しなければ、いつまでも財政で需要を補填し続けなければならない。貯め込み過ぎとの批判もあるが、これまでの政策・経済対策では、民間の前向きな消費や投資を喚起することはできなかった。

企業の利益剰余金(法人企業統計)は、2020年度末で金融・保険を除き484兆円。家計が保有する金融資産残高(日銀資金循環統計)は6月末時点で1992兆円と、いずれも過去最高水準だ。

今回の経済対策も過去と同様、中身についての市場の評価は高くない。分配政策が目立ち、市場が期待する成長政策が乏しいという批判が多いほか、政策のビジョンや方向性が見えないと、バンクオブアメリカの主席エコノミスト、デバリエいづみ氏は指摘する。

18歳以下の子を持つ世帯に10万円相当を給付することになったが、困窮対策なのか、少子化対策なのか、対策の目的が見えないという。

「少子化対策は成長政策でもある。しかし、それならば恒久的な予算で対応すべきだ。政策の方向性が見えず分かりにくい。民間が貯蓄を使おうという気にならないし、投資家も日本株を買おうという気にもならないだろう」と、デバリエ氏は話す。

<「中立機関」の不在>

現職財務次官による異例の「ばらまき批判」にもかかわらず、過去最大の財政支出が決まった今回の経済対策。規模の大きさに日本株は一瞬上昇したが、再び上値の重い展開になっている。

米国でも大型の経済対策が策定された。バイデン政権は、1兆ドルのインフラ投資法案を成立させた後、「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」法案と呼ばれる1兆7500億ドル規模の気候変動・社会保障関連歳出法案の成立を目指している。

これに対し、米議会予算局(CBO)は「ビルド・バック・ベター」法案により、今後10年間で財政赤字が3670億ドル増えるとの試算を発表。コストをカバーするのに十分な財源を確保できないとの見解を示した。

日本には、財政に関してCBOのような中立的な組織がない。財政に緩和的な政府と緊縮的な財務省。「国民はこの財政政策は必要なのか効率的なのかを判断するのが難しく、警戒的にお金を貯め込んでしまっている」と、三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は指摘する。

金利上昇による警告機能も、日銀の超金融緩和策で低下してしまった。経済対策で資金が家計や企業の預金口座に振り込まれても、使われない預金をベースに金融機関が国債や国庫短期証券(TB)を買えば金利は上がらない。しかし、好循環とは言えないマネーフローに金融市場では冷めたムードが漂い続けている。

(伊賀大記 編集:内田慎一)

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