[東京 2日 ロイター] - ラグビーワールドカップ(W杯)の開催国がなぜ日本なのか、世界的には不思議な選択にみえるかもしれない。しかし、東京にある「不惑倶楽部」を訪ねれば、この国が長年注いできたラグビーへの愛情がわかる。
2020年東京五輪・パラリンピックに向けて建設中の東京アクアティクスセンター横の芝生では、数十人のプレーヤーが走り、ボールをパスし、モールやスクラムを組み、体をぶつけ合っている。
ラグビーの練習風景として、特に変わったところはない。ただ1点、彼らの年齢を除けば。
1948年設立の「不惑倶楽部」は、40歳以上がフルコンタクトで真剣勝負する約150あるクラブチームの1つだ。この日の最年長は、元気な86歳の永山隆一さん。ポジションはフォワードのロックだ。
イングランドの名門私立校で誕生し、興味がない人には合法的な蛮行のように映るラグビーという競技をプレーすることは、このクラブの魅力の一部でしかない。
「とにかく互いにぶつかり合う。私は一滴も飲めないが、その後の飲み会が非常に楽しい」と、永山さんは言う。現役プレーヤーとしては最年長だが、部員には90代が3人いる。「あのときどうだった、と互いに言いながら。試合の後にプレーについて怒るようなことはない」
医師の永山さんは、自分のような高齢者が激しい身体接触を伴うスポーツをプレーすることのリスクを十分に承知している。クラブのホームページには、健康上の注意について詳細なアドバイスが記載され、傷害保険へのリンクが貼られている。
今でも医療に携わる永山さんは、「不惑倶楽部に入ってから肋骨は何回も折ったし、鎖骨も骨折した」と、何でもないように肩をすくめる。
「試合を控えて、不整脈があるなと思って病院でみてもらったこともある。それでもプレーできる。というより、やらないと気が済まない」
「変な話だが、グラウンドで死んでもいい」
9月20日にW杯が開幕すれば、日本でラグビーへの関心は確実に高まるだろう。若いプレーヤーも増えるだろう。
実は日本のラグビー競技人口は、長年にわたり世界のトップ10に入っている。国際競技連盟のワールドラグビーによると、国内には12万人以上のプレーヤーがいる。
不惑倶楽部の岡嶋光明事務局長は、国内のクラブで今も競技を続けている高齢プレーヤーは1万人前後と推定している。不惑倶楽部だけでも、40代や50代を含め、すべての年代を合計すると300人がプレーしている。
孤独な高齢者が社会の大きな懸念となっている日本で、ラグビーは選手たちの活力を維持するだけでなく、仲間とつながる場を提供している。
そうした機会を求めて入部した1人に、英国出身の71歳、トニー・ハートレーさんがいる。ときに難しい現地の人と友情を育む手段として、ラグビーをプレーする外国人は彼だけではない。
「東京で開かれたセブンズ(7人制ラグビー)の国際大会を観戦していたときに、隣に座った人と話を始めたら、彼は『Fuwaku Rugby Club Since 1948』と書かれたシャツを着ていた。1948年と言えば私が生まれた年、それで興味を引かれた」と、ハートレーさんは言う。
「彼はクラブに紹介すると言って、その翌週に連れて行ってくれた。それからよくプレーしている。7年前の話だ」
「英国では見られない光景に驚いた。特に60代、70代では見られない。本当に嬉しい驚きで、友達を作るには最高だった」
54歳の山田至央さんはプレーするだけでなく、レフェリーも務める。手本にしているのは、9月20日のW杯開幕カード、日本対ロシア戦で笛を吹くウェールズ出身のレフェリー、ナイジェル・オーウェンス氏の活気に満ちた威厳だと話す。
オーウェンス氏は先日、イングランド出身のレフェリー、ウェイン・バーンズ氏と不惑倶楽部にやって来た。
「とても気さくで楽しかった」と山田さん。ランチのときに携帯電話で撮ったオーウェンス氏との写真を得意そうに見せてくれた。
「ラグビーについてとことん語り合った」
(翻訳:エァクレーレン)
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